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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第二「四つの時計」
14/43

事件の朝

その日は、眩しい日差しで目が覚めた。

俺は基本、目覚まし時計の類を使わない。近所迷惑になったら嫌だし、何より、無くても起きられるからだ。

起き上がり、伸びをしてあることに気付いた。

テーブルの上の、小さな影。りまは、もう既に起きていた。

「……おはよう」

「おはよう」

笑顔で挨拶を返してくれた。

「俺、朝起きたらシャワーを浴びるようにしてるんだが、どうする?」

寝癖のついた髪を撫でながら訊いた。

「じゃあ、小さいお皿に、水を入れてほしい、かな」

「わかった」

陶器の小皿に水を入れ、りまに差し出した。

「風呂場、いるか?」

「いいよ、大丈夫。顔洗うだけだから」

そうは言うが、一応、見ないようにして、脱衣所へ向かった。

シャワーを浴びた後は、朝食を作る。目玉焼きと焼いたソーセージ、それとサラダ、白米だけだ。

昨日そうしたように、小皿に少し取り分け、りまに出した。

「ありがとう、いただきます」

何気ない朝食。俺はそのつもりでいるが、彼女はどうなのだろう? 今もこうして、手掴みで食べている姿を見ると、まともな食べさせ方をさせたいと思えてくる……俺のエゴかもしれないが。

食事を終え、食器類を水に浸け、出かける準備をしていると、枕元に置きっぱなしになっていたケータイが鳴った。

「はい、赤石です」

相変わらず、相手を確認しないで取った。

「仲西です。東沢森林公園で、事件がありまして……」

俺の家の近所だ。

「わかった、すぐ行く」

電話を切ると、りまに「事件?」と訊かれた。

「ああ。しかも、ここの近所だ。すぐ向かおう」

掌にりまを乗せ、胸ポケットまで誘導する。

「何か……随分、手慣れてるね」

「そうか?」

初めてではないにしろ、未だにおっかなびっくりになってると思うが。

マンションを出て、車に乗り込む。

「そういえば、初めて会った時、省吾は、仲西刑事に運転してもらってたよね……どうして?」

「以前、俺が運転している時に、ちょっとしたカーチェイスになったことがあったんだ。それで、彼は俺に運転させるのが嫌になったらしい」

「カ、カーチェイス?」

「まあその話は後日する。今は現場に行こう」

シートベルトを締め、出発した。


現場は、近所にある森林公園。もう一,二ヵ月も経てば、家族連れで賑わうような場所だ。

そんなところで事件……物騒な世の中になったものだ。

「おはようございます、先輩」

「おはよう。被害者は?」

俺が訊くと、仲西は手帳を見ながら話した。

被害者は、この近辺に棲む、三十歳の男性、名前は篠田歩さん。今日の午前六時頃、公園内をジョギングに来ていた近所の人が、ここで倒れている被害者を発見した。救急車を呼んだそうだが、もう亡くなっていた。死亡推定時刻は、午前二時から午前三時の間だそうだ。持ち物からは、財布が抜き取られていた。

仲西が指したのは、人形に敷かれた白いロープ。被害者は大の字になって倒れていたらしい。周囲には、夥しい量の血がこぼれていた。

「被害者は、今日の午前三時頃、胸部を刃物で刺されて亡くなっていました」

「午前三時……死亡推定時刻の二時から三時の間にも入るが、かなり正確だな」

「被害者が握っていたデジタルカメラに、刺された瞬間に撮られたと思われる画像が残されていまして――」

白い手袋をはめた手で、被害者のデジタルカメラの画像を拡大してを見せてきた。

ぶれてはいるが、小さな小屋が写っている。あれは、公園の事務所だ。事務所の窓からは中が見え、壁掛けのアナログ時計が三時を指していた。

カメラから目を離し、顔を上げると、被害者が倒れていた位置からそう遠くないところに、その事務所が建っていた。

「事務所の時計が写り込んだということか……撮られた時間も、一,二分程、差はあるが、ほとんど同じだ。それにしても、やけにぶれているな」

「それが、こういうわけでして」

拡大を解くと、写真の大部分に、赤いジャケットを着た、二十代くらいの男が写っていた。

「これは、犯人か?」

「恐らく……あの事務所の管理人が、夜中に悲鳴を聞いたと言っていたので、襲われた時に撮られたもので、写り込んでいるのも、犯人で間違いないかと……」

「悲鳴を聞いたのなら、すぐ確認して救急車を呼べば、助かったかも知れないな……」

「そうですね……一応、話を聞いてみますか?」

「そうだな」

事務所へ向かうと、怒号が聞こえてきた。

「駄目だ、中は調べさせられない!」

「そう言わないで、操作に協力してくださいよー」

その声を聞いた時、嫌な予感がした。

入り口には、立ちはだかる老人と、頭を下げる長身の男がいた。

「どうかしたんですか? 守内刑事」

守内と呼ばれたのは長身の男。振り返ると頭を掻いて言った。

「いや、この爺さん、小屋の中は見せられないって言うから……」

どうやら、嫌な予感は的中したようだった。

「爺さんだと!? お前それでも刑事か!? もうここへは近付くな、これ以上何かするというなら、小屋を燃やすぞ!」

ポケットからライターを取り出した。

「申し訳ありません、小屋の中は調べませんから、一つ、質問に答えていただけませんか?」

びびっている仲西と守内刑事の横で、とりあえず、聞きたかったことを訊いた。

「夜中に悲鳴を聞いたんですよね? どうして、悲鳴が聞こえた後、様子を見に行かなかったんですか?」

「この近所にいる不良どもの声だと思ったからだ、関わるとろくなことにならないからな! もういいだろ!」

そう言うと、小屋に戻ってしまった。鍵のかかる音が聞こえた。

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