風呂
ガタガタという物音で、目が覚めた。
いや、そもそも、眠れていたかどうかも怪しい。
起き上がり、辺りを見渡す。もう真っ暗になっている。
「あっ」
思わず、声を上げてしまった。
キッチンの隣、確か、風呂場があった場所。脱衣所とキッチンを仕切るアコーディオンカーテンが、閉められていて、水音が聞こえた。
――お風呂入ってるんだ。
そう思った瞬間、ある記憶が頭をよぎった。
以前、いつものように盗みを働こうととある民家に侵入した時の事。
夜だった事もあり、家主は入浴中だった。
テーブルの上に登り、食べ物を拝借して、テーブルから降りた、その時。
家の固定電話が鳴った。
慌ててテーブルから離れ、近くにあった家具に隠れた。
次に、ドタドタと走る音。
「はいはーい」
家主の男性が、風呂場から出てきた。
全裸の状態で――。
あの時、叫ばずにいられたのは、ある意味、奇跡だったと思う。
思う、が……あの日以降、「風呂」や「入浴」という言葉を聞くと、どうしてもあの裸体が頭に浮かぶようになってしまった。思い浮かぶ理由も、この感情の正体もわからない。
ただ、風呂とあの記憶を、無意識のうちに結んでしまうというだけ……。
「はぁ……」
頭を振って、大きく溜め息をついた。
あの男性は、若く見積もって三十代前半。省吾とは……まぁ、体型くらいは似てたかもしれないけど、それ以外はさっぱり……。
……そういえば、省吾って、実際いくつなんだろう?
今度訊いてみようかな――。
その時だった。
ガチャっと、扉が開く音がした。
「!!」
ビックリしたが、まだカーテンまでは開いていない。
その後、布を擦る音が何回か聞こえ、カーテンが開いた。
そこに、スウェットを着た省吾が立っていた。
……何故か、それを見て、ほっとしている自分がいた。
「すまない、起こしてしまったか」
近付いてきた。
「あ、いや、そんなんじゃないよ、大丈夫」
慌てて布団に潜り込んだ。
スウェット姿の省吾を見て、そういえばと、あることに気付いた。
服を替えていない。
正確には、朝と同じ服を、そのまま着てしまった。
どうしよう。お世辞にも綺麗とは言えない服でベッドの中に……今更だが罪悪感が凄い。
「ねぇ、省吾……一つ、お願いがあるんだけど」
そろそろと布団から出た。
「どうした?」
タオルを頭に乗せて訊いてきた。
「あ、あのね……新しい服を、買ってほしいんだ」
「……わかった」
そう言って、ふっと微笑んだ。
初めて見た彼の笑顔に、胸がドキリとしたのがわかった。
「で、でも、自分から言っておいてあれだけど、私のサイズに合う服ってあるかな?」
「そうだな……まぁ、無かったら俺が作ろう。物作りには自信があるんだ」
「そ、そうなんだ……」
あの風呂場や、このベッドを作った省吾なら、出来るかもしれないけど……。
これ以上、彼の手を煩わせてしまって良いのだろうか……。




