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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
小人編
12/43

食事

「あー気持ちいい……」

耐熱容器の縁に突っ伏して、そう呟いた。

省吾が作った手製の風呂場。中は省吾が言った通り、豆電球一つしかないため、部屋全体を照らすことが出来ていなかった。

でも、これだけの事で文句を言ってはいけない。汚れた水溜まりよりはマシだ。

にしても……。

名前と身長と、過去を少し明かしただけなのに、どうして、泊めてくれるまでに至ったのだろう? もし私が、小人じゃなくて普通の人間だったら、同じ様に泊めてくれただろうか……。

「……ま、いっか」

今度訊けば良いよねぇ……。

その後、布の切れ端で身体を洗ったり、髪を洗ったりしているうちに、お湯が冷めてきた。

そろそろ上がろうかと思っていると、外から良い匂いが漂ってきた。

「夕飯、出来てるぞ」

そんな声が聞こえた。

「あ、うん……」

身体を拭き、服を着て風呂場から出た。

テーブルの上には、既に食事が並んでいた。

が、中身は良いのだが、器が変だった。

お椀に入っているはずの味噌汁が、何故か小皿に入っていたり、メインであろう肉料理が、細かく切られて、これも小皿に盛り付けられていた。

「すまない、箸やスプーンが用意出来なくて、小さい器も、これしかなかったんだ……」

申し訳なさそうなトーンでそう言った。

今日、一緒に捜査をしてて思ったのだが、省吾はとにかく無表情だ。何を考えているのか、全くわからない。色んな意味で、不安になってしまう。

同居の誘いといい、風呂場の事といい、今日は驚いてばかり……表情から読み取れれば、ここまで驚くこともないのに……今までに会ったどの人間にもいないタイプだ。

「別に、良いよ。食事があるだけありがたいし……気にしないで。いただきます」

笑顔でそう言って、素手で肉を掴んでかぶりついた。

「……美味しいっ」

久々の食べても良い食事に、思わず涙ぐんでしまった。

「大丈夫か? 味、どこか変だったか?」

省吾が心配そうに訊いてきた。

「ううん、大丈夫。とっても美味しいよ」

「そうか。なら良かった」

そう言って、箸を取った。

相変わらず、無表情のままだ。……無理に表情を作れとは言わないが、少し寂しい感じがする。

そんな事を考えながら、何気無く顔を上げた。

そして、目の前にある光景を見て、思わず固まってしまった。

なんて事はない。人間の、普通の食事の様子。

箸でおかずを持ち上げ、口に運ぶ。それだけ。

ただ、持ち上げたものの一つ一つが、私の身体くらい大きいというだけ……。

別に、人間の食事を見たことが無いわけではないが、ここまで間近で見たのは久しぶりだ。

不思議と恐怖は感じなかった。それ以上に、衝撃的すぎて、釘付けになってしまった。

「ん……どうした?」

省吾が私の視線に気付いた。

「いやっ、その……凄い光景だなって」

そう言うと、一瞬目を丸くした。

「嫌だったか?」

「え? あ、いや、そういう訳じゃないの。気にしないで」

適当に誤魔化して、再び肉にかぶりついた。

省吾が作ってくれた料理、小皿に盛られたそれらを、あっという間に食べ切った。

「ご馳走様」

食器を片付けてもらい、テーブルの上にいると、省吾が何かを持ってきた。

「りま、これ」

それは、複数枚のハンカチ。

どれもこれも、店で売られているような袋に入っていた。

それと、木で出来た小さな箱を持ってきた。

広さは、縦横五センチくらい。深さは私の腰くらいはある。

「……これは?」

「ベッド、のつもりだ」

「ベッド……」

まさか、そんなのまで用意してたなんて……。

「急ごしらえだから、こっちはあまり自信が無いな……」

そんな事を言いながら、ハンカチの封を切って取り出し、木箱に詰めていった。

「……よし、こんなものだろう、寝てみてくれ」

「え、あ、うん」

言われるがまま、木箱のベッドに横になった。

ハンカチが何枚も重なっているからか、ふかふかでとても暖かかった。

「どうだ?」

「……すっごく、ちょうどいい」

「そうか、なら良かった。どうする、もう寝るか?」

「うん……そうしようかな」

布団が気持ち良いからか、段々と眠たくなってきた。

「じゃあ、電気消しておく。俺は風呂に入ったりするから、物音を立てると思うが、煩かったら言ってくれ」

それじゃ、おやすみ、と言って、電気を消した。

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