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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
小人編
11/43

紹介

同居するにあたって、忘れてはならない事が一つある。

「自己紹介がまだだったな」

部屋の中心にあるテーブルに彼女を移動させ、そう切り出した。

「そういえば、そうだったね……すっかり忘れてた」

「……」

俺が言えた事じゃないが、自己紹介を忘れるって相当だな……。

「じゃあ、まずは俺から――」

赤石(あかいし)省吾(しょうご)。捜査一課の刑事で、後輩の仲西刑事といつも事件の捜査をしてる……で、合ってる?」

俺が自己紹介をする前に、彼女は得意げに俺の個人情報を話した。

「……合ってる」

そこまでわかっていたのか……。

「じゃあ次は君の事を教えてくれ」

彼女は、はにかみながら答えた。

二宮(にのみや)りま。四センチ」

何故か、身長も答えた。

「二宮りまか……何て呼んだら良い? 名字の方が良いか?」

「いや、どうせなら、下の名前がいいかな」

「なるほど」

と、ここで、少し意地悪をしてみたくなった。

「……君が俺の事を、下の名前で呼ぶなら、俺も君の事を下の名前で呼ぶ」

「えっ……」

まぁ、ちょっとした出来心という奴だ。無理強いはしないつもりだった。

だが――。

「わかったよ……省吾」

「!」

ま、まさか本当に呼ぶとは……思わず面喰ってしまった。

自己紹介も済んだところで、次は家の事を話した。

俺は、市内のマンションの三階に住んでいる。お隣さんとは挨拶を交わしたり、二言三言話をする程度だ。ちなみに、両隣には俺が刑事ということは話してない。普通の公務員だと言っている。

りまを掌に乗せ、一通り部屋を見せた後、思い切って訊いてみた。

「俺は君の事を、周囲の人間……少なくとも仲西には話したいと思うんだが、どうだろうか?」

訊いた瞬間、りまの表情が曇った。

「……出来れば、内緒にしてほしい」

「俺の周囲の人間には、誰にも知られたくないのか?」

頷いた。

「わかった。極力、君の事は隠すようにする……ん? 君は明日から、俺に付いて、一緒に捜査をしてくれるんだよな?」

「うん」

「ということは、今日みたいに、周囲の人の目をやり過ごしながら話を聞く、と」

「そういう事になるね」

「………」

周囲の人間。刑事だったり被害者だったりもそうだが、一番の問題は仲西だ。遠ざける手立てが無いわけではないのだろうが、生憎俺はそこまで頭の回転が良くない。いつかボロが出そうで……若干不安だ。

俺が不安に思う気持ちは、掌のりまにも伝わったようだった。

「私も、隙を見て話しかけるようにするから、大丈夫だよ」

「……ああ」

万が一遠ざけられなくても、はぐらかせばどうにかなるか……。

さて。

「これからどうする?」

時刻は七時過ぎ。ちょうど夕飯の時間だった。

「飯にするか? 風呂にするか?」

どこかで聞いたことありそうな言葉を喋ってしまい恥ずかしくなるが、りまは気付いていないようだった。

「お風呂って、入れるの?」

そんなことを言い出した。

「……まぁ、な。こんな事もあろうかと、というやつだ」

「?」

疑問符を浮かべる彼女を余所に、余った片手で戸棚からあるものを取り出す。

それは、縦横三十センチ程の段ボール箱だった。底は無く、上には小さな穴が空いていて、電球が差し込まれている。

「……それは?」

「即席の風呂場だ」

「えっ!?」

りまが今日一番の大声を出した。


話は、りまを迎えに行く少し前に遡る。

家に帰った時から、俺の中では、りまを住まわせることが決まっていた。

そこで、男女が同じ屋根の下で衣食住をするのに必要不可欠なものを作った。

その一つが、この風呂場。

材料は、段ボール紙五枚と、親戚がうちに遊びに来た際に置いていった豆電球、ソケット、導線と電池とスイッチを拝借した。

まず、三十平方センチの段ボール紙のうちの一つをコの字型に切る。この切り抜いた部分が入り口になる。大きさは、りまの身長を思い出しながら五センチに切った。

そして、もう一枚の板の中心に穴を開け、そこにソケットに挿した電球を通し、電池と導線で繋いだ。これが天井。こうして出来たパーツを組み合わせ、最後にいらない綺麗な布をガムテープで入り口に貼ってカーテンを作って完成。

これを、りまを迎えに行く前に作った。家に来たら是非とも使って欲しいと思っていた。

勿論、住むことを断られた場合も考えた。その時は素直に分解して段ボールは捨てるつもりだった。

「割りと気合いを入れて作ったからな。力作だぞ」

テーブルの上に乗せられた風呂場を見て、りまはぽかんと口を開けていた。

「中は……どんな感じに?」

「外が見えると嫌だろうなと思って、密閉したからな……唯一ある灯りが豆電球一つだから、あまり明るいとは言えないな。入ってみるか?」

「じゃあ……少しだけ」

りまをテーブルに降ろし、豆電球のスイッチを入れた。

カーテンを捲り、中に入る。

暫し待つ。これで改善点が見付かれば、その時は手直しをするつもりだ。

少しして、りまが出てきた。――満面の笑みで。

「バッチリ! 最高!!」

跳び跳ねて、喜びを表現していた。

「そ、そうか」

正直、そこまで喜ぶとは思っていなかったので、若干恥ずかしい。

「じゃあ、早速入るか?」

「うん!」

ということで、風呂場から固形石鹸と、キッチンから耐熱容器、ポット、氷、スプーン、風呂場を作る時に使ったカーテンの残りの布を持ってきた。

「氷とポットって……お湯入れて冷やすの? お風呂のお湯そのまま持ってくるのじゃダメなの?」

「君の好みがあるかもしれないからな……まずこれで微調整だ。お湯はどのくらいにする?」

「八分目くらいで。温度は少し熱いくらいでお願い。出来たら教えて」

そう言うと、また風呂場に行こうとした。

「ちょっと待ってくれ。君がいないと適正温度がわからない」

「え、省吾が測るんじゃ……?」

「そうは言うが、身体を入れるんだぞ? おじさんの手が一番風呂を取ってしまって良いのか?」

「あ、うん、そうだね……」

そう言って、小走りで近付いてきた。

お湯を入れて氷を入れ、スプーンで少しかき混ぜてから、温度を確かめてもらった。

「このくらいでいいかな」

じゃあ入るか。と、風呂場を持ち上げ、耐熱容器に被せた。

「それにしても、あなたって、変わってるね」

りまがそんなことを言い出した。

「変わってる、というのは?」

「だって、普通はあそこまで気遣いできないよ」

「気遣い? 俺は何か特別なことをしていたのか?」

全く自覚がないんだが。

「……気付いてないならいいよ」

そう言って、風呂場へ入っていった。

……どうやら俺は、知らず知らずのうちに不可解な行動をしてしまっていたらしい。

「飯でも作るか……」

立ち上がろうとして、あることに気付いた。

りまの服、どうしよう。

寝巻きの類いを持っているようには見えなかったな……。

あれ? でも、確か、りまって――。

「……まさかな」

頭に浮かんだ考えを振り払って、キッチンへと向かった。

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