説得
「私は、犯罪者だよ? 刑事のあなたの家に犯罪者を住まわせる……それでもいいの?」
彼女の言葉に、すぐに答えることが出来なかった。
いや、結論は出ている。だが、そのためには、まず彼女を説得しなければいけないと思った。
「どうして、すぐに自首しようと思わなかったんだ?」
「どうしてって……」
両手を差し出した。
「この小さな手に、手錠がかかると思う?」
それは、とても含みのある言い方だった。
小人だから、何をしても罪に問われないのかもしれない。世間じゃあ空想の生き物とすら言われてしまうものに、手錠なんてかけられない。
だからこそ、辛く、そして苦しい。罪に問われなくても、自分自身に罪の意識があり、板挟みになってしまう。だから苦しい。
「確かに、君のやっている事は、罪に問われる事だ。だが……」
ここからは、俺の持論。
「世の中には、手錠をかけても罪の意識すら持たない奴は沢山いる。その分、君は、自分の行動に罪の意識を持ち、それを辞めたいとさえ思っている。その気持ちがあれば十分じゃないか? ここに住めば、それを辞める事にも繋がるかもしれないし」
一石二鳥だぞ、と続けた。
「……」
彼女は、また黙り込んだ。
俺は急かしたりせず、答えを待った。
「本気……なんだね」
「ああ」
ふぅ、と息を吐き、俺を見上げた。
「……わかった。大したことは出来ないし、確実に厄介な存在になる事は間違いないけど……あっ」
言っている途中で止まった。
「そうだ。ここに住まわせてもらうんだから、家賃代わりに、あなたが関わる事件の推理をするってどう?」
「そうだな……確かに、それなら、良いかもしれない」
「じゃあ、これから、よろしくね」
胸ポケットの中で、礼をしてくれた。




