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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第一「消えた凶器」
1/43

出動

九月某日の、午前八時。某市内。

「ふぁぁ……痛いっ」

その日の朝は、信号待ちとはいえ、運転中にも関わらず呑気に欠伸をしている後輩を、小突く事から始まった。

「何するんですか、先輩」

「何するんですかじゃない。職務中だぞ」

「す、すみません……」

「なんだ、昨日も徹夜していたのか?」

「そうですね……書類の整理をしてて」

「頑張るのは結構だが、休む時は休まないと駄目だぞ」

と言ったところで、信号が青になった。

「変わったぞ。ほら」

「……はい」

小さく返し、後輩刑事の仲西は俺の車のアクセルを踏んだ。

……しかし。

「どうして君は俺に自分の車を運転させてくれないんだ?」

「先輩にハンドルを握らせると、こっちの寿命が縮んじゃいますからね……」

「なんだ、まだあの事を気にしてるのか。あれは犯人逮捕に繋がったんだから良いだろう」

「それはそうですけど……」

唇を尖らせる仲西を尻目に、俺は自分の携帯の画面に表示されているニュースに目を下ろした。

流れているニュースは、これから行く事件現場の事だった。

携帯と言えば。

「仲西、例の非通知電話の正体はわかったのか?」

「いや、それが、全く。持ち主すらわからない状態で……」

二ヶ月程前の話だ。

事件の捜査中に、仲西の携帯に、非通知で電話がかかってきた。

悪戯かとも思ったが、出てみると、相手は女性で、捜査中だった事件の真相を語り始めたという。

語った事件の推理が的中していた為、初めは事件の関係者かと思われたが、後日、全く関係の無い別の事件の捜査中にも同じような電話を掛け、推理を的中させた。

事件の真相を語るということは、捜査内容を知らなければ出来ないこと――。

捜査内容が漏れているのだろうか? 

すぐにでも他の刑事や課長に報告すればいいのだが、それが出来ない理由があった。

それが、警察の検挙率の低さである。

現在、警察の検挙率は極端に低い。このままでは住民からの信頼を無くしてしまうだけでなく、犯罪を増やす原因にもなりかねない。

その為、情報漏えいであっても、他の人間に明かすことが出来ず、結果、切羽詰って、上司である俺に相談してきた、というわけだ。

「いっそ聞いてみたらいいんじゃないか? 『あなたは誰ですか』って」

「それは何度も試しました。でも、答えてもらえないんです。なんというか、その質問だけピンポイントで無視されてる、というか……」

正体不明、か。

「多分、今日も掛けてくると思います」

「どうしてそうわかるんだ?」

「僕が事件の捜査中の時、僕だけに掛けてくるみたいなんです」

「てことは、君を監視してるって事か? で、君の携帯に掛けてくるって事は……君の知り合いじゃないのか? 心当たりのある人物とか、いないのか?」

「正直何も……そもそも僕女友達少ないですし、仮にそのうちの誰かだったとしても、辻褄が合わないというか、矛盾が生じるというか」

「まぁそりゃな……」

そんな会話をしている間に、事件現場に到着した。

「もしもこの事件の捜査中にまた掛かってきたら、先輩に渡しますね」

「わかった」

車から降り、少し離れた場所にある現場のバリケードテープをくぐった。


被害者は市内に住む大石優斗さん、二十代後半の男性だ。

その日の午前七時半頃、通勤中、人気のない交差点で、突如後ろから何者かに襲われ、鈍器のような物で殴られてしまった。

犯人の特徴は、黒いスーツを着用していて、黒いニット帽にサングラス、更にマスクまで黒という格好で顔はわからず、逃げ足も速く、追いかけているうちに逃げられてしまった――と、被害者が証言していたと仲西は話した。

「被害者の話によりますと、鈍器のような物で殴られたのは一度だけで、後は素手で暴行を受けたと話していました」

「被害者は、今どうしているんだ?」

「現在、病院で手当てを受けているそうです」

「そうか。確認するが、ニット帽とサングラスと、マスクまで黒だったのか?」

「はい。プリーツ型の、やや大きめのマスクだったそうです」

「今時のマスクは、白か、白を基調とした色のものが多いんじゃないか? 黒っていうと結構限られるぞ」

「いや、そうでもないですよ。最近じゃあ黒や柄物のマスクをつけている人も多いです」

「……そうなのか?」

「はい」

この年になって流行に乗れなくなってきたな……。

それは置いておいて。

「防犯カメラは?」

「他の刑事が、この近辺の防犯カメラを調べているそうですが、被害者の証言を聞く限り、さすがにカメラ映像だけで犯人の特定は難しいかと……」

「だな……」

ここから少し歩いて大きい通りに出れば、大きい駅が見えてくる。そこに行ってしまえば、例のサングラスやマスクはすぐに捨てられてしまうだろうし、電車に乗って移動でもされたら、更に広い範囲を捜索しなければならなくなり、時間がかかってしまう。

……そういえば。

「被害者は何故、こんな人気のない交差点にいたんだ?」

現場である交差点は、何度も言うが本当に人気のない場所。ビルや大きい建物が無いわけではないが、通勤で立ち寄るような場所には見えない。

「前日、この付近に住む友人に車を貸していて、それを返してもらって、それで会社に向かう予定だったと聞いています」

「で、その友人宅に行く前に、ここで襲われてしまった、と……何とも物騒な話だな。俺だったら自分の車を人に貸したりなんてしないぞ」

「着眼点はそこですか……」

「ローン組んで買った車だしな」

「じゃあ何で、僕に運転させてるんですか?」

「君の運転は信用できる。まぁ、俺自身が運転できればもっと良いんだが」

「先輩は職務中は金輪際ハンドル握っちゃ駄目なんだと思います」

「そこまで言うか……」

話が逸れてしまった。

現場には、被害者のものであろう数滴の血痕と、襲われた際に落としたとみられる被害者の携帯や眼鏡がそのまま残されていた。

「眼鏡のレンズにひびが入っているが、フレームが曲がっていないという事は、踏まれたわけではないということだな」

「恐らく、殴られた際に吹っ飛んで、地面に当たった衝撃でひびが入ったのかと。なので、かなり勢いよく、殴られたことになりますね。被害者も鈍器と言ってましたし」

鈍器。

被害者がハッキリとその正体を言わなかったところを見ると、バットや鉄パイプ等の所謂長い・大きい物ではないということになる。

襲撃後、被害者は犯人を追いかけていたらしいから、懐に忍ばせられるサイズの物。となると、粗方限られてきそうだが……。

「ん?」

ふと、被害者が襲われたであろう場所の周りのアスファルトが、不自然に変色しているのに気付いた。変色の仕方からして、恐らく水か何かで湿っているのだろう。雨でも降っていたのか? いや、七時半頃は晴天だった。それに、仮に雨だったとしても、この辺りしか濡れていないのはおかしい。

「うーん……」

謎は深まる一方だ。

「被害者は、金品の類は何も取られてはいないのか?」

「はい。ただ単純に、襲われただけみたいです」

「てことは、怨恨か」

「その様で、今他の刑事が、被害者に恨みを持っていそうな人物を捜しているそうで――あっ」

不意に仲西が声を上げた。

そのまま自身の着ているスーツのポケットに手を入れると、バイブが鳴っている携帯電話を取り出した。

「……二名程、被害者に恨みを持ち、かつ、この近辺に住んでいる人物が浮かび上がったそうです」

そう言って携帯を差し出してきた。

受け取って見てみると、容疑者と思われる人物の大まかな情報が載っていた。

一人目は、この近辺で酒屋を経営している四十代の男性。

二人目は、その酒屋に酒類を発注している居酒屋経営の三十代の女性だった。

「俺達も向かうぞ。仲西、車をまわしてきてくれ」

「はい」

先程車を止めた場所まで走って行った。

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