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柿の種  作者: ぺんぎん
3/8

第三話「実」



少女「お兄ちゃん、ひとりぼっち?」


この広い砂浜で一人座り込んでいる私に

少女が話しかけてきた。



少女の言うとおり

私は、ひとりぼっちで

孤独な存在だった。



初めて見る景色、音、香り

自らの身体すらも

全く新しいものに

生まれ変わってしまった。



少女「ねえ!お兄ちゃん聞いてるの!?」


お兄「あ、ああ、すまない!考え事をしていたんだ。」


少女「ふーん、お兄ちゃんはなんていう名前なの?」


お兄「私は...」



私には名前なんてなかった。

私には、名前を与えられる価値すらなかったのだ。

人間にとって、私なんて食欲を満たすものの中の

一部のそのまた一部の...物でしかない。

私の代わりはいくらでもいるし

私自身が必要とされているわけではない。



しかしながら

私は思った

もし私に名前を付けるなら


イザナミ「イザナミだ。私はイザナミ。君は?」



実 「イザナミ、、、いい名前だね。わちきはみのり

よろしくどーぞー!」


イザナミ「あ、ああ、よろしく。」



いきなり話しかけて来て図々しいなと

感じたが、私は彼女が差し出した手を

握り返した。

不思議と悪い気持ちはしなかった。


何年も前からこの娘のことを

私は知っていたような気がする。


そして...



イザナミ「実ちゃん、私は女だぞ。」


お兄ちゃんと呼ばれていたが

私の性別は女だ。

胸だってまあまあ大きいし

顔だって美形のはずだ

牡蛎達の中でも私は

群を抜いてうつくし...ごにょごにょ




実「そっか、お兄ちゃんじゃなかったんだね。」




そう言って

実は哀しそうな表情で

遠くを見た。



眩しかった太陽が

水平線に近付き

白かった雲は

赤く燃えていた


遠くでカモメが鳴いているのが聞こえる。



実が遠くを見ている

ほんの数秒の時間が

ものすごく長い時間に

感じられ


こんなに近くにいるのに

ものすごく遠くに

いるかのような

感覚になった。



実 「イザナミは、海から来たんでしょ?」


実はなぜか私がどこからか来たのかを

知っていた。はっとして私は尋ねた。



イザナミ「なぜそれを?」



実「実はね、山から来たんだよ。おじいちゃんとおばあちゃんが優しく育ててくれてね、幸せだったなあ」



イザナミ「私はもともと牡蛎だったんだ。実はなんだったの?」



実「え、、、ふふっ、私はね柿だよ!木になってる柿ね!」



イザナミ「じゃあ、実も、もともとは人間ではなかったんだね。私は不治の病にかかり、一度死んだんだ。だが目が覚めるとここにいて...」


実「憎念体ヴォイニッチだよ...」


イザナミ「え?なんだって?」


実「なんでもない!教えなーい!」



イザナミ「あっ、こらまてー!」




私は何かを知ってそうな

実を走って追いかけた。


実は、すばしっこくて

中々捕まえられなかった。




自由に動けて

色んな世界が見える

ということは

どんなに素晴らしいことだろう。



今まで、同じ場所に

とどまり動くことの

できなかった私にとっては


頬に当たる風や

足に触れる砂の感触

どれもこれもが

新鮮で美しいものだった。




実をようやく捕まえた私は

なんのために捕まえようと

していたのかをすっかり

忘れてしまっていた。



月明かりが浜辺に差し込み

辺りを金色に染めていた。







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