圧倒的? グラン・リーア
『ふっふっふっ、捕まえたわよマオちゃーん』
た、助けてぇー! ウィンディさんが、ウィンディさんが危ない人になっちゃったよぉー!
『さあ、楽しもうじゃないのー』
ヤ、ヤダァー! 絶対にヤダァー!
目が危ないウィンディさんは、ゆっくりと私の胸に手を伸ばしてくる。もー、何をする気なの!?
『ハッハッハッ! 見ろ、人が原始人のようだ!』
『フフフ、下民共め。私にひれ伏すがいい!』
セバスチャンさんとリフィルさんは、もう好き放題に暴れちゃっている。
あの、これ一応、私の夢なんだけど……
『覚悟しなさい、マオちゃーん』
『ハハハハハ!』
『ウフフフフ!』
怖い。みんなが怖いよ。
あれ? 私、呼ぶ人を間違えたかな?
『みなさん、気を引き締めてください!』
そんな時だった。パールが大声を上げたのは。
するとみんながとても鋭い目つきになったんだ。そして全員でお城がある方向に振り返っていた。
『やっとお出ましですね』
『とっとと終わらせて帰りましょう』
『いいところだったのに。まあいいわ』
モクモクと黒い煙が集まってくる。それは次第に人の形になっていって、そして爆発した。
『バァー』
モジャモジャした白髪に、丸くて大きな黒い目。ダルマみたいな体型をしていて、ピエロみたいな格好をしているおばさんがそこにいた。
何だろ、とてもおかしい姿をしているんだけど妙な威圧感がある。
もしかしてこの人がグラン・リーアなの?
『よくもまあ、こんな風に暴れてくれて。おかげで計画がメチャクチャじゃないの』
『どういたしまして。我々としては、とっとと現実世界に帰りたいものですから、手っ取り早い手段を取らせていただきましたよ』
『なるほど、お前さんが〈偉大なる勇者〉の孫ね。これはまた、あいつと似て嫌味な笑顔を浮かべているもんだ』
グラン・リーアは喉の奥から笑い声を上げていた。不気味だ、とーっても不気味だよ。
『まあ、いろいろと好都合だね。ここで邪魔者を一気に始末できるのは、願ってもいないからねー!』
グラン・リーアは指をパチンと鳴らす。すると突然、馬車が現れた。
その馬車はガシャンガシャンと音を立てて変形し始める。グラン・リーアはその変形した馬車の心臓部に当たる胸の部分に乗り込んだ。
『夢の世界。ここではアタシは最強さ! どんなことが起きても、死ぬことはないのさ!』
不格好な人形が襲いかかってくる。
ひぇー! こんなのどうやって戦えばいいの?
そもそも私、回復魔法しか使えないし。
『ハーツ、主様を守ってください! 僕とその他のみなさんは、あいつに一斉攻撃をします!』
パールが指示を送る。
それを聞いたみんなは、一斉に陣形を取った。セバスチャンさんとリフィルさんは、飛んできた大きな拳を受け止める。それにグラン・リーアは少しだけ驚いたような顔をしていた。
その顔を見て、ウィンディさんが小さく笑う。
『あら、想定してなかったの?』
ウィンディさんは小さく何かを呟く。途端に足元、頭の上、身体の周りにたくさんの赤い魔法陣が現れた。
それは線で繋がっていき、大きく輝くと共にガラスのように弾け飛んだ。
『真っ赤に燃え上がれ――クリムゾンフレア』
不格好な人形が真紅の業火に飲み込まれていく。
パールはそれを見て、空へと連なる赤い魔法陣を出現させた。
『抱くは希望、抱くは限りない光。その淡き赤は、人々の活力となる――バリアブルライズ』
一瞬怯んだグラン・リーアの隙をついて、パールはみんなに強化魔法をかける。
直後、リフィルさんが特攻した。
『貫けぇぇ!』
天高くから隕石の如く襲いかかるキック。それは真っ赤な炎に包まれながらグラン・リーアの胸へと突き刺さる。でも貫くことができなくて、そのまま蹴り倒す形になった。
『ヌゥゥゥ!』
みんなの一斉攻撃を受けても、どうにか踏ん張ろうとするグラン・リーア。だけどセバスチャンさんがそうさせない。
倒れかけているグラン・リーアを見下ろすように眺め、こんなことを言って指を鳴らした。
『これは拍子抜けですね。もっと強いのかと思っていましたよ』
グラン・リーアの真上に魔法陣が現れる。それは白く輝き、そして一気に光を弾けさせた。
途端に白い雷が落ちる。それはどこか、龍のような姿をしていた。
『ヌァアアアァァ!』
駆け抜ける電撃。それにグラン・リーアは悲鳴を上げていた。
どのくらい痛いのかわからない。でも、できればあんな魔法は受けたくないと思った。
『おの、れぇ』
うわっ、あんな魔法を受けたのにまだ倒れないよ!
さすがのみんなも、ちょっと驚いているし。
『主様、今です!』
『え? 何が?』
『あなたに渡した虹の剣をあいつに突き立てるのです! そうすれば倒せます!』
そういえばそんなものがあった。
よーし、弱っている今がチャンスだし、やるぞー!
『ま、待て! アタシを倒せばどうなるかわかっているのか!?』
『わかっているよ。あなたはみんなを苦しめた。だから、倒すの!』
『くっ、わかってないわね! 魔王、アタシを倒せばお前は世界最大の国を相手にすることになるよ!?』
『例えそうだとしても、私はあなたを許せない。みんなを傷つけた罪を、罰を、受けてもらうの!』
遠慮なんていらない。この人は、悪いことをしたんだ。
みんなを苦しめて、この世界に閉じ込めて、好き勝手にした。
だから、ちゃんと罰を受けてもらうんだ!
『覚悟! グラン・リーア!』
虹の剣は、グラン・リーアの胸を貫く。途端にグラン・リーアは大声を上げて弾け飛んだ。
黒い何かは、モクモクと言いながら消えていく。これで、ようやく戦いが終わったんだ。
『おのれ、おのれ! 許さないよ、魔王!』
もし、グラン・リーアの言う通りだとしても、私達はひれ伏すつもりはない。
それに、そんなの間違っているんだから。
どうにかこうにか、というかなんやかんやでグラン・リーアを倒したマオちゃん。
こうしてこの世界は救われた。
たぶん!




