白と黒のおまじない
みんなの役に立ちたい。だからパールから魔法を教えてもらうんだ。
それにしても、どんな魔法なんだろ? さすがにすっごい魔法なんて教えてもらえないだろうけど。
『では、これから三つの魔法を教えますね』
『はーい』
『一応言っておきますが、それぞれ系統が違います。ですから適正がある魔法だけ重点的に訓練しますよ?』
『うん、お願いするね』
パールはひとまず手のひらを空に向けた。そして、静かに念じ始めたんだ。
すると、手のひらから突然赤く輝く球体が生まれた。
『初級魔法、ファイアーボール。これは攻撃魔法の中では基礎の基礎と言われる魔法であります』
ですが、と言ってパールはファイアーボールを宙へ放り投げた。でもそれはそのまま浮いている。と思えばファイアーボールは回転し始めた。気がつけば八の字を描いて飛んでいる。
『極めれば威力は当然のこと、こんな風にコントロールすることができます』
『おぉー』
『まあ、初めはこんなことできませんけどね。さて、主様。まずはこのファイアーボールを生み出してみましょう』
よーし、やってやるー!
パールの真似をして手のひらを空へ向けて念じてみる。でもどんなに念じても生まれる様子はない。
『ねぇ、全然出てこないんだけど』
『魔力の流動が感じられませんからね。おそらく適正がないのでしょう』
『えー?』
そんなぁー。パールみたいに火の玉を操りたかったよぉー
うーん、でも適性がないんじゃ仕方ないか。なんか天使さんを呼ぶのと違って、感覚が掴めないなぁー
『では、次の魔法を教えましょう』
そういって今度は石畳に手のひらをつけた。そしてさっきとおんなじように念じる。すると今度はパールを中心に緑色の魔法陣が広がった。
魔法陣は一瞬だけ輝くと、そこから草がぬくぬくと生え始める。そのまま大きくなって、一本の木へと変化していた。
『これはウォッド。地面さえあれば草木を生み出すことができる魔法です。先ほどのファイアーボールより少し難易度が高いですが、適性があれば発動します。もちろん、極めれば木のツタや草を操ることができます。使い方は様々ですが、相手を捕えると言った芸当できます』
『おぉー』
『では主様、やってみてください』
よーし、今度こそ。
さっきとおんなじようにパールの真似をして念じてみる。だけどどんなに念じても、草なんてものは生えてこない。
あれぇー? これも適性がなにのかな?
『うおっ!? 木が腐ってる!』
って、あれ? パールが生み出した木が枯れているよ!
それどころか、なんか崩れてきているし。何? 私何かした?
『これはまさか、ディアット? もしそうなら……』
パールが何かを呟いている。もしかして適性がなにのかな?
『主様、次の魔法を教えますね。おそらく次は、適性があると思います』
『え? そうなの?』
パールはそういって腐りかけている木に手を添えた。そして、静かに念じ始める。
すると木は白い光を帯び始めた。それはそのまま広がっていって、いつの間にか木は少し前の完全な状態へと回復していた。
『わぁー』
『これは回復魔法、リ・タァンです。極めればこのように死にかけているものを完全回復させることができます』
『綺麗な魔法だね。なんか天使さんが使うのと同じ感じがするよ』
パールはそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。
なんだろ? もしかしてこの魔法、パールも好きなのかな?
『どうやら試すまでもなさそうですね。主様、あなたはこの魔法が使えますよ』
『そうなの?』
『ええ。魔法の適正は、己の感性にも関係します。それに主様は、リ・タァンと対極になるディアットが自然と使えましたからね』
『えっと、そのディアットって何?』
『簡単に言えば、呪いですよ』
えー! 私って呪いが使えるの?
な、なんだか嫌だなぁー
『そう嫌悪しないでください。魔法とは表裏一体。強みもあれば弱みもあるんです。主様の場合、心優しいからこそリ・タァンが使えると言えます。ですが、それは強さでもあって弱さでもあるんです。だからディアットがあるんでしょう。そうしなければ、自分を守れませんからね』
『でも、呪いって。なんだかヤダよ……』
『確かに〈のろい〉という言葉はいい印象はありません。ですが、これは他にも使い道があるんですよ』
『他の使い道?』
それって一体――
訊ねようとした瞬間、基地で大きな騒ぎが起きた。
『なんだろ?』
『何か騒々しいですね?』
パールと一緒に顔を向けると、そこには目を真っ赤にしたリーダーの姿があった。その足元には倒れているリフィルさんに似た女の人がいる。
『リーダー、なんでこんなことを!』
『正気に戻って、リーダー!』
『うぅがぁあぁぁああぁぁぁ!』
何が起きたの? リーダーはなんだかさっきまだと違って、変に唸っているし。
頭を抑えているけど、ブンブンと上半身を振っているよ。まるで人が変わったみたいで、どこか苦しんでいるように見える。
『グラン・リーアです』
『え?』
『いつ、どこで、というのはわかりませんが、彼はグラン・リーアの呪いを受けています。このままですと、殺されるまで暴れるでしょう』
そんな。どうにか止めないと、みんなが危険だよ。
でも、どうすればいいの? 私が学んだ魔法じゃどうしようもないし……
『主様、自身が持つ二つの力を使ってください』
『え?』
『あなたが持つ力はただ〈のろう〉のではありません。想うことで人を救うことができる〈おまじない〉でもあります。ですから、自分を信じてください』
自分を信じる。
できるのかな? でも、できなきゃリーダーが。
ううん、大丈夫。そんな心配、いらないんだ。それに、私は――
『パール、ありがとう』
ここの人達を救いたい。だから私は、自分の力を信じるんだ。
『リーダー』
リーダーは私のほうへ振り返る。そしてそのまま唸りながら突撃してきた。
私は、一瞬だけ腰が引けた。でも踏みとどまって、覚えたての魔法を発動させる。
『リ・タァン!』
優しい虹色の光は、リーダーを飲み込んでいった。
気がつけばリーダーは私の身体に力なくもたれかかっていて、とても気持ちよさそうに眠っていたんだ。
その寝顔はセバスチャンさんと似ている。まあ、見た目が一緒だからかもしれないけど。
『ゆっくり眠ってね』
リーダーは疲れているんだ。だから、休ませてあげよう。
新しい魔法を覚えたマオちゃん。
それはとても優しい魔法だった。




