ほんわか? 切り裂きカアたん
レムちゃんと出会った私達は、レジスタンスの一員になりました。
レジスタンスのみんなは、どこか見たことがある人達ばかりだ。リフィルさんに、したっぱメイド隊のみんなに、くのいち三人組に、魔王軍のみんなに、あとカアたんに。
『…………』
『どういたしましたかな?』
やっぱりカアたんがいるんだ。まあ、一応魔王軍の人、いやカッパだからかな?
それは別にいいとして。何だろ? 何か違和感を覚えるんだけど。
『おーい、カアたん。新しい武器と弾薬が欲しいんだけど』
『あ、今月の食費の計算しておいて』
『ヴァーダンと連絡取れたか? カアたん』
『はいはい。今やりますから一辺に言わないでくださいな』
おかしい、こんなのおかしいよ!
だって、だってだって! カアたんが事務作業をしているなんて、あり得ないよ!
『落ち着いてください、主様。あれは現実世界のカアたんではありませんよ』
『わかってる。わかってるけど、あんなのカアたんじゃない!』
『確かに、夢カアたんはカアたんとは真逆です。温厚で信頼が厚く、そして縁の下の力持ちですからね』
『嘘だ! そんなのカアたんじゃない!』
何これ? 何なのこれ!?
カアたんが、カアたんをしてないよ! いくら夢世界のカアたんでも、ここまでおかしくなっちゃうなんておかしいよ!
『どうしたの? マオ』
『カアたんが、カアたんが……』
『カアたん? いつも通りじゃない?』
え? あれがいつも通りなの?
いや、そんなことない。あんなのカアたんじゃないもん!
『ま、何があったかわからないけど、カアたんを怒らせないようにね。下手すると解体されちゃうから』
あ、それを聞いたら安心しちゃった。
やっぱりカアたんはカアたんだ。
『それにしても、どうしてこっちのカアたんはあっちのカアたんとこんなに違うのかな?』
『夢世界ですからね。ある程度の理想が混じっているのですよ。ああだったらいいな、こうだったらいいなって考えが、住人達に反映されていることがあります』
へぇー、そうなんだ。そういえばいつもカアたんが穏やかだったらいいなって思っていたなぁー。もしかしてそれが、こっちのカアたんに影響しているのかな?
『何にしても、主様の願望がこちらの世界では形になっている場合があります』
『ふーん』
願望が形にかぁー。なんだか魔法みたいだよ。
そういえばセバスチャンさんを見かけないけど、どこに行ったんだろ?
『みんな、リーダーが戻ったわよ!』
レムちゃんがそんな言葉を叫んだ。するとそれぞれ何かをしていたみんなは、一斉にワッと声を上げて立ち上がったんだ。
『あっ』
流れに沿って視線を向けると、そこにはセバスチャンさんらしき人が立っていた。いつものようにニコニコ笑ってて、でもどこか疲れ気味な顔をしているその人は、みんなの輪の中心に立っていた。
『どうやらこちらの彼は、レジスタンスのリーダーのようですね』
『みんなをまとめているんだ。すごいなぁー』
でもかなり苦労をしていそう。目の下の隈もすごいし、それにちょっとやつれているし。
『君かい? 新しい仲間って』
何気なく見つめていると、リーダーが私達に声をかけてきてくれた。私は『はい』って返事をする。するとリーダーはニッコリと笑ってくれた。
『ようこそ、レジスタンスへ』
その笑顔はどこか希薄だ。でも、懸命に笑っているのがわかった。
何だろ、なんだか悲しくなっちゃうよ。
『リーダー、少しお話が』
リフィルさんに似た人がやってくる。リーダーはその人に顔を向けて、ちょっと真剣な目付きで頷いた。
そのままどこかに行っちゃう二人。なんだかわからないけど、とても重要そうな感じがしたよ。
『お疲れ気味のようですね』
『わっ』
ビックリした。いつの間にかカアたんが隣に立っていたよ。
それにしても、このカアたんは何から何まで違うなぁー。メガネをかけているし、知的に見えるし、とーっても穏やかだし。
『ま、日夜戦っていれば仕方ないでしょうな。少しは休んでもらいたいものですよ』
『リーダーって、そんなに戦い通しなの?』
『ええ。ここにいるメンバーは元々戦闘には慣れていませんからね。ですから元兵士の彼が私達の前に立ち、戦っています』
『でも、そんなこと毎日やってたら――』
『わかっておりますよ。ですが、彼は仲間を思ってしまうようで。今のところ我々ができるのは、彼のサポートと邪魔にならないことだけです』
リーダー、とっても大変な日々を過ごしているんだ。でも、このままじゃあ身体を壊すのは目に見えているよ。
『ねぇ、どうにか助けられないかな?』
『できるとしたら、この戦いをいち早く終わらせることでしょう。ですが、相手は強大。しかもこの国をほぼ支配している敵です。短期決戦は普通に考えれば望めないでしょうな』
そんな。それじゃあこっちが倒れちゃうよ。
みんなのためにもどうにかしたい。でも、どうすればいいんだろ?
せめて紋章の力が使えれば違うんだろうけど……
『あっ』
そうだ、魔法だ。
『パール』
『なんですか? 主様』
『さっき魔法を使ってたよね?』
『はい。それが何か?』
『簡単なのでいいから、教えて! お願い!』
パールはさっき私達を助けるために魔法を使った。つまり、この世界でも魔法は使えるってことでもあるんだ。
もし魔法を覚えれば、少しは戦力になれるかもしれない。
『ふむ。別にいいですが、簡単な魔法でも主様が使えるかどうかはわかりませんよ?』
『とにかく教えて! 頑張るから!』
『わかりました。では、三つほど手ほどきしましょう』
よし、これでちょっとした助けになれるかもしれない。
頑張るぞぉー!
どこか優しいカアたん。こんなのカアたんじゃないよ!
何にしてもマオちゃんは新しい魔法を覚えようと奮闘するのだ!




