にゃにゃのニャン!?
気持ちいい朝。昨日はなんだかとっても大変だったけど、でもどうにか乗り切れた。
でも、あのゴーレムは許さない。ああ、思い出すだけでとーっても恥ずかしいんだけど。
「にゃー」
その甘ったるい鳴き声を聞いて、私はもう一つの出来事を思い出す。
何気なく顔を向けると、そこには長い尻尾を揺らして私を見つめている白い子猫のパールがいた。
「おはよー。もう動いても大丈夫なの?」
「にゃー」
パールは頭がいいのか、私の言葉がわかるみたい。今のだって「そうだよ」って言っているみたいに返事をしてくれたし。
「おや、今日は早起きですね」
私がパールを見つめているとセバスチャンさんが入ってきた。いつも通りに「おはよー」って言うと「おはようございます」って返事をしてくれた。
「パール、君もおはよう」
「にゃー」
パールが返事をすると、セバスチャンさんはあるものを床に置いた。それはネコ用の食事皿と、どこから持ってきたのかわからないネコ缶だ。
ネコ缶のフタを開けて、中身を皿へ落とす。するとパールは少し匂いを嗅いでから食べ始めた。一瞬だけどこか驚いたような顔をして、それからすごい勢いで頬張り始める。
「食いしん坊ですね」
ホントホント。こんなんじゃあ将来がちょっと心配だよ。
それにしても、今日のセバスチャンさんはどこか優しい目をしているなぁー。あ、もしかして猫が好きなのかな?
「さて、マオ様。起きて早々ですが、すぐに着替えてくれませんか?」
「何かあったの?」
「急遽、倭の国のトップの方がこちらへ訪れることになりまして」
「偉い人が来るの?」
「はい。突然で申し訳ありませんが、本日は正装でお願いします」
じゃあ、今日はその偉い人といろいろとお話をするんだ。そのくらいならお安い御用だよ。
「その人はいつ頃来るの?」
「予定だと一〇時辺りにお伺いすると」
じゃあまだ余裕があるんだ。ならご飯は食べられるし、お仕事もできそう。
「わかった。その時はよろしくね」
「はい、かしこまりました」
セバスチャンさんは優しく微笑んだ。でも忙しいのか、挨拶をしてすぐに部屋を出ていく。
うーん、やっぱ偉い人に会うから、いろいろと大変なのかも。
私、気を引き締めなきゃな。
「にゃー」
やるぞーって気合を入れていると、パールが鳴いた。顔を向けると、ベッドの上でゴロゴロ鳴きながら丸くなっている姿がある。
なんだかほっこりするなぁー。子猫だから余計にかわいいし。
「にゃ?」
パールを見つめていると、突然ある方向に顔を向けた。
どうしたんだろ? 何か気になるのがあったのかな?
「…………」
あれ? あそこの壁ってあんなに膨らんでいたっけ? なんだかしわくちゃだし、それに柄があの部分だけなんか違う。
「…………」
怪しい。明らかに怪しい。
これは気づかないふりをしたほうがいいのかな? でも、なんか気になるし。
というか、何あれ? あの布の向こうに誰かがいるのかな?
「にゃー」
あ、パール! いっちゃダメだよ!
もし危ない人なら何をしてくるかわからないし、それにもしかしたら攻撃されるかもしれないし!
「にゃ♪」
って、ヒラヒラしている部分で遊び始めた!
かわいい、かわいいけど、空気を読んでよ!
ものすごく危ないかもしれない状況だよ!?
「く、くーっくっく。まさかニャンに気づくとはな」
それは突然、自分を隠していた布を高く放り投げた。私の目に入ってきたのは。ピョンとしたネコ耳に、かわいらしい大きな金色の目、整えられた黒いセミショートと、藍色の忍者服に身を包んだ女の子だった。
「って、誰?」
「ニャンは倭の国のくのいち、ニャニャだにゃ!」
えっと、つまりこのネコっぽい獣人さんは、倭の国の人なんだね。
って、ちょっと待って。なんで今日会いにくる国の人が、こんな朝っぱらから私の部屋にいるの?
「くっくっくっ。ニャンの噂は聞いていたが、ここまで無防備だとはな。その命、奪わせてもらうにゃ!」
ニャニャちゃんはそういって腰に添えていた短刀を抜き取った。そして、一瞬にしてどこかに消えてしまう。
「ニャハハ! ニャンにはニャニャの姿が見えまい!」
くっ、一体どこにいるの!? まるで消えちゃったみたいに見つからない。
「覚悟、魔王!」
殺される!
そう思った瞬間、パールが私の後ろに向かって大ジャンプをした。
「わぷっ」
変な声がしたから振り返ると、そこにはパールの突撃を顔で受け止めたニャニャちゃんの姿があった。
「見えないにゃ! はにゃれろー!」
懸命に顔にしがみついたパールを引き剥がそうとするニャニャちゃん。でも爪を立てられているから、とっても痛そう。
「にゃにゃー」
パールはパールでなんだか楽しそう。よくわからないけど、なんだかとーってもほっこりするよ。
「にゃー! 邪魔するにゃ!」
ニャニャちゃんはどうにかパールを顔から引き剥がす。パールは首の皮を掴まれちゃったからか、どこかおとなしくなっている。
「おにょれ、子猫の分際でにゃーに刃向うとは。これが魔王の使い魔か!?」
それ、たぶん違うよ?
「まあいいにゃ。これでにゃーが優勢。にゃんはこうしてしまえば何もできまい」
あ、パールの首に刃が!
な、なんて人なの。あんないたいけな猫に、刃を向けるなんて。
「くっくっくっ。こいつを助けたいか? にゃらばニャンの命を差し出すにゃ!」
とっても悪い顔をしているニャニャちゃん。なんだかかわいいけど、でも許せない。
だけどどうしよう。パールが人質になっているから、ホントに手出しができないし。
「ニャハハ! 正義は勝つのにゃ!」
「あっ」
高らかに笑うニャニャちゃん。だけどその後ろには、鬼の顔をして立っているセバスチャンさんがいる。
セバスチャンさんはニャニャちゃんの肩を叩く。そして、振り向こうとした首に腕を回していた。
「にゃ!?」
「少々、痛い目に合ってもらいますよ」
すごい音が響いた。それが途切れると、セバスチャンさんはニャニャちゃんを離す。
ニャニャちゃんはそのまま力なく倒れる。白目を剥いていたから、とーっても痛かったのかもしれない。
「全く、礼儀がなっていませんね」
セバスチャンさんはにこやかに言葉を放つ。でも、私はさっきの姿を見て身体を震わせていた。
あんなに怒ったセバスチャンさんは、初めて見たかもしれない。
絶対に怒らせないようにしよう。
突然現れた猫獣人のくといち、ニャニャ。
今回の会談と何か関係があるのだろうか?




