掴め! 栄光の何か!
『コケコッコー』
うー、もう朝なのぉー?
邪神さまがニワトリになっちゃったせいで、強制的に起こされた。何気なく自分の身体を見て見るけど、すっかり元のちんちくりんに戻っていた。
うーん、やっぱり一時的だからあの体型を維持することができないのか。なんだか残念。
「仕方ないか」
ため息を一つ零しながら、私はすぐ近くにある窓を開いた。今日もとてもいい天気で、空が澄んでいてとても気持ちいいよ。
「お前ら! ガッツが足りないぞ!」
うん? この声はゴブタさんだ。
何気なく視線を中庭に落としてみる。するとゴブタさんとワーウルフ隊のみんなが一緒に訓練をしている姿があった。
「俺から一本取ってみろ! それまで訓練は終わらせんぞ!」
うわぁー、ゴブタさんが鬼隊長になってる。でも金色にはなってないから、スーパーゴブリンは使っていないみたい。
だけどほとんどの子達はヘトヘトになってへたり込んでる。今立っているのはコリー君と黒いワーウルフの子だけみたいだ。
「コリー! コンビネーション3で行くぞ!」
「わかった、ジャック!」
あ、二人同時に走り出した。そのまま突撃していくけど、そんな攻撃は通用しない気が――
と思っていたら残像だ! 二人共いつの間にか消えちゃったよ!
「ほう、残影か。よく身につけたもんだな。だが――」
消えていた黒いワーウルフの子がゴブタさんの後ろから飛びかかる。でも、ゴブタさんはわかっていたかのように、簡単に反転して攻撃を避けた。
「ガッ」
「だが、甘いぜ」
うわっ、もろに膝がお腹に入ったよ。すっごく痛そう。
でも、黒いワーウルフの子はゴブタさんの足を掴んだ。
「ぬっ」
「この瞬間を、待っていたんだ!」
ゴブタさんの動きが少し鈍る。その瞬間に隠れていたコリー君が突撃した。
コリー君は持っていた木刀を大きく振り被る。
「もらったー!」
でも、ゴブタさんは慌てる様子を見せない。それどころか少し嬉しそうに微笑んだ。
「いい手だ。だが、未熟」
ゴブタさんは気合を入れた。途端にものすごい衝撃が突き抜ける。
「わぁー!」
風のせいで積み上がっていた書類が!
待ってぇー! 飛んでいかないでぇー!
「わー!」
「うあー!」
コリー君達も飛ばされていく! 気合だけでこんなに風が起きるなんて。
「まあ、こんなもんか。てめぇら、午後もしごいてやるから、覚悟しろ」
倒れているワーウルフ隊のみんな。なんだかとても悔しそうな顔をして、ゴブタさんを見つめている。
うーん、まだ小さい子供だからそこまでしなくてもいいと思うんだけど。
「それよりも……」
書類がバラバラだよぉー。こんなにバラバラじゃあ仕事にならないよ。
はっ! これはチャンスじゃないかな? だって仕事ができないってことは、お休みが取れるってこと。つまり魔王になって初めてのバカンスができるってことじゃないかな?
そうと決まれば、バカンスの用意を――
「おや、何をされているのですか? マオ様」
私の動きが止まる。そしてぎこちなく首を回して、声がした方向に顔を向けた。
そこにはにこやかに笑っているセバスチャンさんの姿があった。でも、心なしかどこか怒っているように見えるのはなんでだろう?
「え、えっとぉー、書類の整理をちょっと――」
「それはそれは。殊勝な心がけですね。では、なぜ浮き輪なんてものを取り出しているのでしょうか?」
「こ、これはその、座布団にしようと」
「ほう。座布団ですか。それなら安心しましたよ」
や、やった。どうにか誤魔化せた!
「では今日は二倍のスピードでやりましょうか」
「えっ!?」
「気合を入れているんでしょう? ならその意気でやるのが普通ですよ?」
そ、そんなぁー。いつも以上に速くなんてできないよぉー
「その顔はどうしましたか?」
「え、えっと……」
「ふふ、今日は溜まりに溜まった書類がたくさんやらないといけませんからね。気合を入れてくれてありがたいですよ」
セバスチャンさんの目が怖い! や、やだよぉー。こんなセバスチャンさんと一緒に仕事をしたくないよぉー!
「さあ、テキパキやりますよ!」
「で、でも朝ご飯が」
「その山を減らしたらいいですよ。それまでご飯抜きです」
そ、そんなぁー
「うーん、うるさいよぉー」
ハッ! この声はメイちゃん!?
そうか、また私のベッドに忍び込んで眠っていたんだね。
あ、待て。この状況を利用できないかな? 上手くやれば逃げることができるかも――
「おや、また忍び込まれていたのですか?」
「そ、そうなんだぁー。気づいたらいたんだよぉー」
「全く、仕方ないお人ですね」
今だ! この一瞬を私は待っていたんだぁー!
私は猛ダッシュした。力の限り床を蹴って、この部屋から逃げ出そうとした。
よし、扉は開いている。このまま突っ切ってしまえば、私は自由になれる!
掴むんだ、私の栄光を!
「だっ!?」
だけど、何もない場所に私は何かにぶつかった。
何が、あったの? 私は訳がわからないままズルズルと落ちていく。
「おや、適当に置いておいた結界が役に立ちましたか」
そ、そんなぁー。結界なんて聞いてないよぉー
「さあ、今日も働いてもらいますよ」
ああ、またあの書類とにらめっこをするのか。
そう思うと、私は悔しさのあまりに涙を流していた。
のほほんとした日常の始まり。
だけど仕事漬けの一日が始まろうとしていた!?
どうなる、マオちゃん!?




