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第1話 トトカ村へ出発!

 朝、お気に入りの青い水玉が入ったチェニックと、白いプリーツスカートに着替えて私はとても広い玄関口でセバスチャンさん達を待っていた。

 初めての島巡り。遊びに行く訳じゃないけど、とっても楽しみで仕方がないんだ。

 ゴルディアートって一体どんなものがあるんだろう? どんな村があって、町があって、生き物や植物があるんだろう?

 とにかくわからないものばかりで、ウキウキが止まらない!


「お待たせいたしました」


 ちょっと待ちくたびれていると、セバスチャンさんとスライスさんがやってきた。私は「遅いよぉー」って少しだけふてくされると、セバスチャンさんはちょっと困った顔をしていた。


「すみません。少々馬車の手配に手間取ってしまいましてね」

「馬車? 馬車に乗れるの!?」

「ええ。とびきり上等なものを用意させていただきましたよ」


 うっそー! 馬車って、あの馬車!?

 貴族しか乗れない代物を、今日乗れるの!?

 しかもとびきり上等なものって。すっごーい!


「玄関の外で待ってもらっております。あまり待たせてしまうのもなんですので、そろそろ行きましょうか」

「うん! 早く乗りたーい」


 魔王になってよかったぁー。前の私なら馬車なんて一生縁のない代物だし。

 あ、もしミーシャ達と会えたら自慢しちゃおっと。


「あ、魔王さま。お荷物お持ちします」

「ありがとうシィちゃん」


……あれ? なんか違和感がある。

 何となく自然な流れで荷物をシィちゃんに渡したけど、よかったのかな? というかシィちゃんメイド服を着ていないよ。

 ダークブラウンのベストに、緑色のシャツ、どこか大人びた雰囲気がある青いロングスカート。いつも通りのおさげとメガネをしているけど、昨日と違ってお嬢様みたいな感じがするよ。


「ねぇ、シィちゃん」

「はい、なんでしょう?」

「もしかして一緒に行くの?」

「はい。どうかしましたか?」


 あ、そうなんだ。そうなんだぁー


「大丈夫?」

「え? 何がですか?」

「だってシィちゃん、これから向かう村で悪者退治をするんだよ?」

「は、はい。それがどうしましたか?」

「シィちゃんって、戦えるの?」


 昨日襲ってきたナメクジに簡単にやられてたし。それに見た感じとても戦いが得意って気もしないし。

 そんなことを心配しているとシィちゃんはちょっと怒ったかのように頬を膨らませた。


「マオ様よりは戦えますよ。こう見えても私、遠距離からの魔法攻撃は得意なんですから」

「えー、ホントかなぁ?」

「ホントです! 信じてくださいよ!」


 だったら昨日のナメクジに負けない気がするんだけど。


「もう、マオ様なんて知りません」


 シィちゃんはプイッと顔を振ってへそを曲げてしまった。

 うーん、ちょっと疑いすぎたかなぁ。


「お二人共、早く来てください。そろそろ出発しますよ」

「はーい」

「あ、かしこまりました」


 私達はセバスチャンさん達が待っている場所へと駆けていく。そこではとっても綺麗な馬車があった。

 馬車を引くお馬さんもとても綺麗。それはそう、白馬といえるほど真っ白なお馬さんで、勇者やお姫様が乗っていてもおかしくないほど立派だった。


「さ、マオ様。どうぞ」


 セバスチャンさんのエスコートを受けて乗り込む。遅れてシィちゃんも乗って、最後にはセバスチャンさんが乗った。

 先に乗っていたスライスさんの隣に座って、そしてセバスチャンさんが外のお馬さんを操る人に合図を送ると動き出した。


「できれば城下町を見てもらいたかったですが、それは帰ってからにしましょうか」


 窓から入ってくる町並み。私の住んでいた村にはなかった石やレンガでの建物がいっぱいだ。これが城下町。初めて見る光景に釘付けになってしまう。

 すごく立派で、活気づいている。これが魔王の治めている国の町なんて、とてもじゃないけど感じられない。


「さて、しばらく時間がかかりますからね。景色を楽しみつつも、シィに小話でもしてもらいましょうか」

「え? そんな無茶なことを!」


 和やかに、でも着実に進んでいく馬車。私達は少しだけシィちゃんに意地悪をしながら楽しんで時間を過ごしていた。

 でも、途中で馬車が止まってしまう。どうしたんだろう、って思っているとセバスチャンさんが馬車の外へと出た。


「おや、これはこれは」


 気になったから追いかけてみる。するとそこには、道を塞ぐように倒れているドラゴンがいた。


「うわぁ、おっきいー」

「マオ様、気をつけてくださいよ。相手はドラゴンですからね」


 遅れてシィちゃんもやってくる。そして怖がることなくドラゴンへと近づいていった。


「セバスチャンさん。このドラゴン、ケガをしているみたいです」

「ほう。ケガですか」


 私達はシィちゃんの元へと向かう。するとそこにはとても痛々しい傷があった。何かで抉られたかのような、そんな傷だ。

 なんだかかわいそう。


「ふむ、こいつはシャーネルドラゴンだな」


 ドラゴンを見つめているとスライスさんがやってくる。そしてこの倒れているドラゴンについて説明してくれた。


「危害さえ与えなければ人間にも魔物にも害のないドラゴンだ。だが一度でも牙を剥くと天変地異が起きるとされている存在だな」


 なんだかすごく強いドラゴンなんだ。でもどうしてそんなドラゴンがケガをしているんだろう?


「何にしてもこいつは助けないとダメだな。こいつはゴルディアートの守り神みたいなもの。いなくなるととても困るぞ」

「ふむ。しかし、我々では治しようがありませんし」


 セバスチャンさんがチラリと私を見る。そしてどこか企んだかのようにニコッと笑った。

 なんだか嫌な予感がする。


「マオ様、魔王の紋章は確か背中にございましたよね?」

「うん。それがどうしたの?」

「では、それを発動させていただけませんか?」

「え?」


 発動って? 一体どうやって? というか発動すれば助けられるの?


「背中にある紋章は回復力が高いと聞きます。ただ代わりに全体的な性能は他の紋章と比べると劣るらしいですが」

「へぇー。でも私、まだ自由に発動できないし」

「では、私が発動させましょう」


 え? セバスチャンさんが? 一体どうやって?

 疑問を覚えているとセバスチャンさんはおもむろに私へと近づいた。そして私の顎に手を添えて、くいっと上げる。そのまま顔が近づいてきて――


「――――」


 重なる唇。それはロマンチックなものでも何でもない、初めてのキスだ。

 途端に恥ずかしさが込み上げてくる。そして、背中が熱くなると共に何かが現れた。

 それは白い衣に包まれた白い天使だ。だけど私は、そんなものを見ている余裕はなかった。


「きゃ、きゃあぁああぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!」


 キスされた。キスされた。

 あのセバスチャンさんにキスされた!


「おお、これはなんて綺麗な天使なんだ」

「白くて、幻想的で、本物の天使みたい」

「これはこれは、思った以上のものが出ましたね」


 うう、ううう、ううううう!

 死にたい! こんな形で奪われたなんて、死にたすぎる!


「――――」

「あれ? あの天使、こっちに殺意を向けていませんか?」

「無理矢理呼び出しましたからね。そういうことでシィ、あとは頼みます」

「え? それどういうことですか!?」


 滅んでしまえ。

 こんな理不尽な世界、滅んでしまえぇぇ!


「――――」

「きゃあぁあああぁぁああぁぁぁ!」

「うおぉおおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉ! 殺されるー!」

「なんで私達にこんな攻撃が! セバスチャン様、どうにかしてくださいよ!」

「アッハッハッ。いやー、どうにかできていたらやっているんですけどねー」


 それはもう、ドラゴンを治すという騒ぎじゃなかった。

 私が落ちつくまでの十分間、セバスチャンさん達は死にかけたと語っていた。


執事が羨ましい。

チクショー!


次回は明日の午後1時を更新予定です。


2017/03/03

修正をしました!

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