覚悟と決意とホントのマオ
「ふ、ふふふ。そうかそうか、また僕の前に勇者が立ち塞がるのか」
真っ赤な目をしたヴァルガンさんが笑っていた。睨みつけるセバスチャンさんは、私達を守るために剣を相手に向けて立っている。
「鬱陶しいんだよ! 毎回毎回、僕の邪魔をして!」
ヴァルガンさんはたくさんのコウモリへ変身した。そのままセバスチャンさんへと突撃していく。
セバスチャンさんは飛びかかってきたコウモリを斬り落としていく。だけどとんでもない数だから、全部は倒すことができなかった。
「チッ」
コウモリが通り過ぎた後、セバスチャンさんの頬と身体にたくさんの切り傷が現れる。少し忌々しげに飛んでいるコウモリを睨みつけるセバスチャンさん。一体どういう戦いになっているのかわからないけど、素人の私でもわかるほどとても不利な様子だ。
『お前達、その小娘以外皆殺しにしろ! 裏切り者は生かすな!』
飛んでいるコウモリが叫ぶ。それに答えるように会場にいた人達は、私達に襲いかかってきた。
ヤバい。このままじゃあみんながやられちゃう!
『お母さん!』
そんな時だった。持っていたコイン、ううんメイちゃんが叫んだんだ。
『このコインに魔力を込めて!』
「え?」
『封印って中からは絶対に解けないように工夫されているの。でも、外からは弱い。だからお母さんの魔力を浴びせてくれれば、封印は解ける!』
じゃあ、どうにかして魔力をこのコインに込めれば、みんな復活できるんだ。でもどうすればいいんだろ? 私、自分で魔法を使ったことなんてないし。
『天使さんを呼ぶように念じて! 私達はそれで魔力が発散できるの!』
メイちゃんのアドバイス通りに念じてみる。だけど、なかなか上手くいかない。というかみんなが復活する気配がなかった。
「くぅ、マオ様!」
「早くしてくださいー!」
「このままじゃあ、私達も飲み込まれる!」
どうして!?
こんなに念じているのに、なんで上手くいかないの? まだ傷が痛むから? それとも足りないものが――
「――キスだ」
いつも大切な場面じゃあ、私はキスをしていた。セバスチャンさんとキスをして、乗り越えてきたんだ。
だけど、そんなことをしている暇はあるの? セバスチャンさんはヴァルガンさんの相手で手いっぱいだし。
「殺せぇぇ!」
迷っている暇はなかった。私を助けようとしてくれているしたっぱメイド隊のみんなに、会場にいた人達が襲いかかっていた。
このままじゃあみんなが殺される。セバスチャンさんもどうなるかわからない。
絶体絶命の中、伸びてきた手を見えない何かが弾き飛ばした。
「先走りすぎだぜ、セバスチャンさんよ」
ゆっくりと、壊れた扉の先からやってきた人がいた。それは私の頼みを聞いてくれたティザーさんだった。
ティザーさんは飛びかかる敵を、ギターの弦を弾くと同時に吹き飛ばしていた。そしてゆっくりと歩いて、セバスチャンさんの隣へと立つ。
「主の危機に、急がないバカはいませんよ」
「それもそうか。ま、少しだけそいつの相手をしておいてやるよ――だから行ってこい」
セバスチャンさんは何も言わない。頷きもしない。だけど、どこか感謝しているかのように笑って、こっちへ駆け寄ってくれた。
『させるかぁ!』
「おっと、行かせると思うかい?」
『貴様如きが、僕を止められると思っているのか!?』
「俺一人じゃ無理さ。だけど、心強い仲間と協力者がいるから、できると思っている!」
ティザーさんがギターを鳴らす。途端にティザーさんの周りにブレイカーのみんなと、シャーネルドラゴン、スラート君にカランさん、そしてミーシャが現れた。
みんなが、来てくれた。それだけで私は、とても嬉しい。
『静まれ、魔物達よ!』
シャーネルドラゴンが雄叫びを上げる。途端に襲いかかってきていた魔物は動きを止めた。それと同時に人も動きを止めていた。まるで身体が竦み上がっているかのような、そんな様子だった。
『ドラゴンが!』
ヴァルガンさんが苦々しく言葉を吐き出す。そんなヴァルガンさんに、ミーシャは刃を向けていた。
「お姉ちゃんをいじめたあなたは許さない。地獄へ叩き落としてあげるわ」
その背中でカランさんとスラート君が「そうだそうだ」「許さないぞー!」と叫んでいる。
何だろう、カッコいいのかそうじゃないのかわからないや。
「貴様らぁ! 僕の邪魔をするな!」
ヴァルガンさんは元に戻って突撃をする。それをみんなが止めるために迎え撃っていた。
だけど力の差は歴然。みんなは必死に突撃を止めようとしているけど、止め切れていない。
「バーカ、こういうのは真正面からやるもんじゃねぇ」
突然、ヴァルガンさんが横へと飛んだ。よく見るとそこにはカアたんがいて、ヴァルガンさんの身体を蹴り飛ばしている。
『カッパの言う通りだの』
少し遅れてバランスを崩したヴァルガンさんのこめかみにニワトリがキックを放っていた。
あれは邪神さまだ!
たぶん。
『セバスチャン、さっさとマオを助け出せ! そして時の刻印を解呪するのだの!』
セバスチャンさんはしたっぱメイド隊のみんなが引っ張ってくれている私の腕を掴んだ。そして「少々我慢してください」って言って、引っ張ってくれた。
ちょっと痛かったけど、徐々に泥沼から身体が引き上げられていく。
「させるかぁ!」
雄叫びと共に、みんなが衝撃で吹き飛ばされた。それと同時に私の身体は泥沼から引っ張り出される。
「大丈夫ですか?」
気がつけば私はセバスチャンさんの身体の上にいた。でも状況が状況だけに、そんなことに驚いている暇がない。
「セバスチャンさん!」
「覚悟は、できていますか?」
私は頷く。時の刻印が解呪されればどうなるか想像できない。だけど、私のために戦ってくれたみんなを助けるためにも、迷っている暇なんてない!
私は、ゆっくりと唇を近づけた。セバスチャンさんとキスをするために。ヴァルガンさんと決着をつけるために。
セバスチャンさんは、全てを受け入れてくれる。だから安心して、呪いを解き放った。
「なっ!」
光が満ち溢れる。その光が、突撃してきたヴァルガンさんを弾き飛ばしてくれた。
よくわからないけど、力が溢れてくる。これは一体、何なんだろ?
『それは君達の力さ』
誰のものなのかわからない声がした。誰って問いかけるけど、それは答えてくれない。
『その力があれば、どんな困難だって乗り越えられる。だから頑張ってくれ、心優しい魔王さま』
私はその声に答えるために、目を開く。
みんなを守るために、セバスチャンさんの隣に立つために、ここにいるんだ!
「マオ様、身体が大きく――」
何かに驚いているセバスチャンさん。でも私はそんなことを気にしないで、立ち上がった。
「バカな……、そんなことがあるのか?」
ヴァルガンさんも驚いていた。私はそんなヴァルガンさんを睨みつけるように目を向ける。
どれだけ強くなったのかわからない。だけど、それでもみんなを守るんだ。
「メイちゃん、ジュリアちゃん、ウィンディさん。お願い!」
私は持っていたコインを投げる。するとコインは、輝きを解き放ってみんなを解放してくれた。
「ありがとー、お母さん!」
「貸しだぞ、魔王!」
「もー、人使い荒いわね」
私の魔力を浴びた三人は元に戻った直後に、見事な攻撃を仕掛けた。
メイちゃんは私とはちょっと違う青い天使さんを呼び出して、ヴァルガンさんの翼を凍らせる。
不意打ち気味に攻撃を受けて飛べなくなったヴァルガンさんは、またコウモリへ変身しようとした。その直前にジュリアちゃんが胴体を真っ二つにする。
その攻撃でヴァルガンさんの顔が歪んでいた。それに追い打ちをかけるように、ウィンディさんが巨大な火の玉を作り出してぶつけた。
『おのれがぁ!』
大きな爆発が起きる。でもヴァルガンさんはまだまだ元気だ。
『この程度で、この僕を、倒せると思うな!』
ヴァルガンさんは吠えたと同時に煙を吹き飛ばしていた。
正直、あれで倒れないのはすごい。ビックリしているよ。
でも、驚いてばかりいられない。
「天使さん!」
私の呼びかけに応えて、天使さんが現れる。それはミーシャを助けた時と同じように髪は淡い赤で染まっている色づいた天使さんだった。
『ご命令を、マスター』
あれ? しゃべった!
あの時とは若干違う!
『ご命令を、マスター』
え、えっと、驚いている場合じゃないや。
とにかくヴァルガンさんを抑え込まないと。
「ヴァルガンさんを倒して!」
『承知いたしました』
天使さんはまっすぐとヴァルガンさんへ飛んでいく。
ヴァルガンさんはそれを見て、奥歯を噛んでいた。
「こんな程度で!」
なんとヴァルガンさんは自分の手で翼を千切った。だけどすぐに新しい翼が生えて、天使さんの攻撃に備え始める。
でも、新しい翼の片方は簡単に斬り落とされた。
「ゲッゲッゲッ! 俺のことを忘れてるぜ、コウモリ野郎!」
ナイフを持ったカアたんが、再びヴァルガンさんに牙を剥く。そのおかげか、ヴァルガンさんのバランスが崩れた。
「天使さん、今!」
天使さんは私の指示を受けてヴァルガンさんに手をかざす。その先に大きな白い光の球が現れた。
それはそのまま解き放たれて、ヴァルガンさんへ飛んでいく。
「このォ!」
だけどヴァルガンさんは残った翼を使って避けた。あまりにも無理矢理に身体を捻ったせいか、とても痛そうに見える。
「まだです!」
「このまま終わらせませんー!」
「その通りだ!」
シィちゃんが、ニィちゃんが、ミィちゃんが、手を重ねて飛んできた光の球を弾き返した。
だから光の球は、再びヴァルガンさんへ飛んでいく。
「何度もォ!」
ヴァルガンさんはまた無理矢理避けようとした。だけど、そうはいかない。
だって私にはセバスチャンさんがいる!
「では、これで終わらせましょう」
セバスチャンさんは、ヴァルガンさんの翼を斬り捨てて飛んでいった。そのおかげでヴァルガンさんは攻撃を避けられなくなる。
近づいていく光の球。それは私達の希望だ。
「いっけぇえぇぇええぇぇぇ!」
自然と、叫んでいた。
みんなも、叫んでいた。
それだけに想いは一緒だったと思う。
「クソォオォォオオォォォ!」
光が弾ける。ヴァルガンさんを包み込んで、魔王城を真っ白に飲み込んでいった。
それは優しい光。とても温かくて、心地いいものだった。
決着をつけたマオちゃん。だけど身体に思いもしない異変が!?
次で11日目は完結だぁ!




