逆襲のしたっぱメイド隊!
うーん、こんなの成功するのかな? でもメイちゃんを助けるにはこれしか方法がないのかぁー
「マオ様が探している魔女と勇者も、おそらくヴァルガン様がコインに変えて持っているかもしれません」
「前に『これは切り札』みたいなことを言って見せびらかされましたよー」
「ま、どうせあいつのことだから懐の中にでも持っているんだろうよ」
どのみちみんなを助けるには、ヴァルガンさんの隙を突かなくちゃいけないんだ。なら当たって砕けろだね。
「でも、もしこれが失敗したらみんなは――」
「失敗なんて考えませんよ。これは逆襲でもありますし」
「あの方は口は丁寧ですが、私達の扱いは乱暴ですー」
「だから一矢報いる覚悟でイタズラをするんだよ」
それに、ってシィちゃんが言葉を紡いだ。
「あなたには恩義があります。だから私は、例え命を失おうともそれに答えたいです」
とても真剣な目だ。そこまでのことをしたのかなって思うほど、とても力強い。
だけど、そんな覚悟を私は受け取りたくない。
「ありがとう。でも、死ぬ気でやらないで。私は、みんなに生きていてほしいから」
その言葉をしたっぱメイド隊のみんなはどう受け取ったんだろうか。よくわからないけど、とても気持ちよさそうに微笑んでいた。
「あなたが魔王なら、とてもよかったですよー」
「そうだな。もしかしたら意外と楽しい生活が送れたかもしれないな」
私はつい言葉を詰まらせてしまった。
みんなは私のことを忘れている。でも、みんなは前のまま変わっていない。
なら取り返さなくちゃ。私の居場所を、みんなのあるべき姿を。
「さて、そろそろ最終段階に入りますよ」
「ネックはメイド長ですが、まあゴブタさんがこの作戦に乗ってくれていますから、たぶんどうにかなりますー」
「あとは私らとマオ様次第だ。気を引き締めていくぞ!」
着つけは終わった。純白のウェディングドレスは、とても綺麗でなんだかもったいない。だけど、ここまで来たのなら引き返すなんてありえないよ。
決着をつける。そのために私は、立ち向かうんだ。
「マオ様」
着替えが終わった私に、シィちゃんが声をかけてくれた。そして、こんな言葉を送ってくれたんだ。
「ご武運を祈っております」
私は力強く「うん」って返した。
部屋を出て、みんなが待っている部屋へと向かう。普段は勇者を待ち受けるために使っているあの大きな部屋。そこで結婚式をやるみたいだ。
とてもドキドキする。もし失敗したら、私どころかしたっぱメイド隊のみんなにも危険が迫ってしまう。
だから失敗は許されない。
長い廊下を歩いていく。その途中で待っていたのが、リフィルさんだった。
「お待ちしておりました、マオ様」
振る舞いはいつもと変わらない。でも若干気を張っているように見える。
私の時はこんな雰囲気を感じたことがないのに。
「あなた達、下がっていいわよ」
リフィルさんに言われてみんなは下がった。
どこか心配げなシィちゃん。でも、私は「行ってくる」って元気よく言葉を口にしたんだ。
「さあ、こちらへ。ヴァルガン様が待っております」
リフィルさんの案内の元、私は廊下を進んでいく。そして、大きな扉の前に立った。
この奥にはたくさんの人と魔物とヴァルガンさんが待っている。そんな中でイタズラをやるなんて、どういう神経をしているんだろう。しかもチャンスは一度きり。全く、とんでもないことだよ。
でも、みんなを助けられるならやるしかない。
「では、マオ様。晴れやかな結婚式を」
扉が開かれる。そこにはたくさんの人、人、人。そしてたくさんの魔物がいた。
一斉に向けられる視線。それを感じるだけで足を踏み出すのがとても怖くなっちゃう。
でも、こんなことで臆している訳にはいかない。
私はゆっくりと歩み出した。一番奥にいるヴァルガンさんの場所まで、勇気を出して進んでいく。
もし、万が一、ダメだったら――
そんなことが頭の中に駆け巡る。だけどそれと一緒に私は『絶対に大丈夫』と言い聞かせていた。
だって私には、みんながいる!
「綺麗だよ、マイハニー」
ヴァルガンさんは相変わらずの調子だった。
どうしてそこまで私に夢中になっているのか。とても疑問だけど、これが最大の隙を生み出してくれるはず。
「ふふ、何かを企んでいるのかい?」
「はい。あなたを驚かせることを考えていましたよ」
「それはそれは。さすがマイハニーだよ」
ヴァルガンさんが神父さんの制止を無視して私のヴェールを上げようとする。だけどこれがイタズラの合図だ。
「今だ、シィ!」
「マオ様、逃げて!」
ヴェールがはだけると同時に、魔法が発動して強烈な光が放たれた。それは普通の人でも目がおかしくなっちゃうほどの閃光だ。
「グォオオオォォオオォォォ!」
そんなものを間近で直視したヴァルガンさんはひとたまりもない。それどころか、光に弱いヴァンパイアだから、とんでもないダメージのはず。
案の定、ヴァルガンさんは目を手で抑えて悶えていた。
「なっ」
想定外のことにリフィルさんは驚いていた。慌てて私の元へ走ってくるけど、その突撃を止める魔物がいる。
「おっと、悪いがここは通行止めだ」
「ゴブタ! あなた、何をしようとしているのかわかっているのですか!?」
ゴブタさんはニヤリと笑う。そしてすぐにスーパーゴブリンへと変身した。
「久々に全力でやりあわないか? リフィル!」
ありがとう、ゴブタさん!
だけど事態に気づいた兵士達が私に向かってくる。私は慌てて天使さんを呼ぶけど、やっぱり出てきてくれない。
「抑えつけろ! 絶対に逃がすな!」
まずい、逃げ道が塞がれる。
そう思った瞬間、私の前にニィちゃんが突然現れた。
「空間魔法は得意なんですー」
ニッコリ笑いながら兵士達を持っているハンマーで一掃していく。なんだかすごい。今まで気づかなかったけど、すごいよ。
「くぅ、謀ってくれたねマイハニー」
ヴァルガンさんがすごい顔で私を睨みつけた。だけどそんなの関係ない。私はヴァルガンさんの足元に落ちた三つのコインを拾う。
「みんなを返してもらうよ、ヴァルガンさん」
あとは逃げるだけ。そう思っていると、突然足元が抜かるんだ。思わず悲鳴を上げると、そこは泥沼のように変化している。
「逃がさない。君みたいな良質の魔力を、逃す訳にはいかないんだよ!」
泥沼から動けない。それどころかどんどんと沈んでいく。
まずい、このままじゃあ――
「マオ様ー!」
沈んでいく身体。それをニィちゃんが引っ張り出そうとしてくれた。
「マオ様!」
「こんなところでくたばんな!」
遅れてやってきてくれたシィちゃんとミィちゃんが私の手を掴んでくれた。だけどどんどんと飲み込まれていっちゃう。
「離して! このままじゃみんなが――」
「離しませんー」
「絶対に嫌です!」
「アンタは私らを拾ってくれたんだ。だから先にくたばるなんてお門違いだろ!」
みんな……。
でも絶望はすぐそこにいる。
「ふふふ、これはこれは。どうやら君達したっぱメイド隊が何かを吹き込んだようだね」
やばい、イタズラがばれた。
「どうやらおいたが過ぎたね。悪いけど、お仕置きの手加減はできないよ?」
このままじゃあみんなが殺される!
でも、私だけじゃあみんなを助けられない。
誰か、誰か――
「助けて。助けてよ――セバスチャンさん!」
叫び声。それは騒がしい部屋を静まり返らせるように響き渡った。
それと同時に扉が開く。そしてみんなに手を伸ばそうとしているヴァルガンさんに、猛スピードで接近して剣を突き立てていた。
背中から刺されたヴァルガンさんは目を赤くして睨みつける。そこには、いつもと違って怒っているセバスチャンさんの姿があった。
「我が主に牙を向ける愚か者め」
「貴様ァ!」
叫び声と共にヴァルガンさんはたくさんのコウモリになって一瞬消えた。だけどすぐにセバスチャンさんの後ろに現れて、その鋭い爪を突き立てようとする。
でもセバスチャンさんはわかっていたかのように身体を横に逸らして避けた。そして振り返りざまに剣を振る。
ヴァルガンさんはその攻撃を避ける。そして少し距離を取って、セバスチャンさんを睨みつけていた。
「ああ……」
来てくれた。
そう思っただけで、とても嬉しい。
「マオ様、大丈夫ですか?」
「うん!」
私には、みんながいる。セバスチャンさんも、隣に立ってくれる。
だから、何にも怖くない!
イタズラが成功! だけどとんでもないピンチに。
駆けつけたセバスチャンはマオちゃんを助けることができるのか?




