純白! 困惑? 結婚前!
「きゃあ!」
私は訳がわからないまま自室ベッドに放り込まれた。
久々のふかふかな触感。だけど今はそれを感じている余裕はない。
「ふふ、お帰りマイハニー」
振り返ると異様な雰囲気のヴァルガンさんが見下ろしている。
な、何だろう。よくわからないけど己の身に危険を感じるよ。
「あ、あのー、一体ここで何を……?」
「男と女、ベッドの上でやることといえばわかるだろ? それとも、甘えているのかい?」
背筋がゾクゾクっ!
や、やばい。とてつもなくやばい。感じたことがない悪寒が、とんでもなくビンビンと感じちゃうんだけど。
それよりもこれ、まずいんじゃあ……
「さあ、楽しもうかマイハニー」
わわっ! ヴァルガンさんが容赦なく近づいてくる!
そんなに密着しないでよ。というか覆い被さらないで!
やっ、首元に息を。あ、ちょっと、服を脱がそうとしないで!
だ、誰か助けてぇー! このままじゃあ――ヤダァ!
「おや、こんな時に無粋だね」
突然ヴァルガンさんの手が止まる。すると突然、ノックされたんだ。
私はヴァルガンさんの意識が逸れると共に、はだけた肌を隠して大急ぎで離れた。もしあのままだったらどうなっていただろう。考えるだけでも怖かった。
「なんだい?」
「お取込み中、申し訳ございません。式の準備ができましたのでお呼びに参りました」
「それはそれは。ご苦労様」
シィちゃんが頭を下げる。それを見たヴァルガンさんはニッコリと笑っていた。でも、ヴァルガンさんは突然シィちゃんの頬に平手打ちをしたんだ。
シィちゃんは少し驚いた顔をして、ヴァルガンさんを見る。でもヴァルガンさんは笑顔のままだ。
「でも、来るタイミングが悪いよ。申し少し気をつけてくれないかな?」
「申し訳ございません」
「それと、君達したっぱメイド隊の働きぶりは悪い。もっとしっかりしたまえ」
「はい。以後気をつけます」
シィちゃんはちょっと俯いたまま返事をしていた。ヴァルガンさんはそれを見て、少し不満げな顔をする。そしてどこか機嫌を悪くしたように、「もういい」って言ってシィちゃんの隣を横切ろうとした。
「ああ、準備ができたのならマイハニーにドレスを着させてくれ。僕は僕で準備するからね」
「かしこまりました」
ヴァルガンさんはどこかへと向かう。私はそれを見て、少し安心した。
でもすぐに「失礼します」ってシィちゃんが入ってきたんだ。
「マオ様、式の準備がありますので少々お時間をいただきます」
式? 式ってなんだろ?
いや、それよりも心配しなくちゃいけないことがある!
「シィちゃん、大丈夫? ほっぺた痛くない?」
そんな問いかけをするとシィちゃんは少し柔らかく笑ってくれた。
「はい、大丈夫です。ちょっと痛いですが、仕事には支障はありません」
「えっと、濡れタオルを用意するね。応急処置でちゃんとした治療じゃないけど」
私は部屋の中にある綺麗なタオルを手にして、お手洗いに行って濡らした。ホントならもっといい方法があると思うけど、このぐらいしかできない。
ひとまずある程度絞ってシィちゃんに渡そう。
「はい。これをほっぺたに当ててね」
濡れタオルをシィちゃんに渡すと、何だか驚いたような顔をしていた。
「あの、どうして?」
「友達じゃん。だからだよ」
シィちゃんは、ただただ目を丸くする。どうしてそんなに驚いているんだろう?
よくわからないけど、シィちゃんはとても嬉しそうな顔をしていた。
「そういえばさ、さっき式がどうこうって言っていたけど、何するの?」
「ヴァルガン様とマオ様の結婚式でございます。今はその準備のために城の者は懸命に働いておりまして、私はマオ様の着つけをするために参りました」
「え? 結婚式!?」
ヴァルガンさん、私と結婚する気なの!?
私まだ一四歳だよ? そんな小娘とどうして結婚なんてことを考えたの?
「あの方の考えはわかりません。ですが、マオ様の考えていることはわかります」
「え? わかるの?」
「あの方との結婚は、いやでしょ?」
た、確かにいやだけど。でも結婚自体は嫌じゃないけど。
どうせするならセバスチャンさんがいいな。だって――
「あれ?」
なんでここでセバスチャンさんが出てくるんだろう? うーん……
「ふふ」
ちょっと考え事をしているとシィちゃんが笑った。その笑顔はいつも見ている明るいものと変わりない。
だからかな? つい微笑んじゃった。
「おーい、シィ。入っていいか?」
そんなことをしていると、ほかのしたっぱメイド隊のみんながやってきた。
二人は二人で、どこか疲れているような顔をしている。
「なんだよ。まだ着つけてないのか?」
「またヴァルガン様にぶたれてしまいますー」
「ったく、あいつは何だか厳しいな。前ならこんなことなかったんだけど」
「全くですー。そういえば先代の方って、誰でしたっけー?」
あれ? みんな私のことを覚えてないのかな?
もしかして、覚えてないからシィちゃんも微妙な反応をしていたのかなぁー?
「ねぇ、二人共」
二人が私のことを思い出そうとしている時、シィちゃんが声をかけた。
そして、こんな提案をしたんだ。
「あいつが困るイタズラをしない?」
それは、私を助けるための発言だった。
絶対的なピンチのマオちゃん。だが、したっぱメイド隊が何かをするみたいだ。
結婚式はどうなる? そしてイタズラは成功するのだろうか!?




