帰ってきた切り裂きカアたん
『うぬぅ、すまない』
暴れていたシャーネルドラゴンを、どうにかこうにか正気に戻すことができた。とーっても大変だったけど、元に戻って良かったよ。
「ううん、私が不甲斐なかったから。それに迷惑をかけちゃったし」
『その通りだが、それにしても我が正気を失うとは。我もまだまだだな』
シャーネルドラゴンはどこか落ち込んでいるように見えた。たぶん、それだけショックが大きかったんだろうなぁ。
「お姉ちゃーん! どうしてこんなことをするのー!」
まあ、シャーネルドラゴンのほうは解決したからいっかな。それよりもミーシャのほうをどうにかしなくちゃ。
「もー、暴れないでよ」
「だったら縄を外してよ! 私はお姉ちゃんのためにロリコンを殺そうと――」
「そんなの望んでないよ。というか、せっかくセバスチャンさんが元に戻ったのに、殺しちゃったら元も子もないでしょ?」
ミーシャはとても不服そうに歯を食いしばっている。そこまでセバスチャンさんのことが嫌いなのかな?
「私はお姉ちゃんのためにやったのに……」
うーん、困った妹だなぁー。これは、どう声をかけてあげればいいんだろう?
「ほう、これはこれは」
困っているとセバスチャンさんが言葉を零した。何気なく目を向けると、その手にはミーシャが持っていた剣がある。
「あ、こら! 触るな!」
慌てたようにミーシャが声を上げる。懸命に身体をよじって、縄から抜け出そうとするけどきつく縛っているからできていない。
「減るものではありませんよ。それにしても、どこから手に入れたのですか?」
「教えない! 絶対に教えないもん!」
ほっぺを膨らませて、プイと顔を振るミーシャ。どうやらとっても機嫌が悪いみたい。
セバスチャンさんはセバスチャンさんで、そんなミーシャを見て困り顔だ。
「まあ、詳しいことはあとで聞きましょうか」
不思議な剣については、ミーシャが機嫌を直した時に聞くことになった。
それにしても、暗くなってきたなぁー。いろんな騒ぎがあったからか、あっという間に時間は過ぎちゃったし。でも、みんながいたおかげでどうにかなりそう。早くヴァルガンさんからお城のみんなを取り返さないと。
そう思っていると、グーって気の抜けた音がした。安心したからか、お腹が空いてきちゃった。そういえば、今日は何も食べてないや。
「はぁー」
お腹が空いちゃったなぁー。美味しい物が食べたいよ。でも、カアたんはいないし、例えいたとしても、今は敵だろうし。
ああ、こうして考えるとカアたんって偉大だよ。だってすっごく美味しい料理を作ってくれるんだもん。
「少し早いですが、夕飯を用意しましょうか」
「ありがとう、セバスチャンさん」
「今日は頑張りましたからね。では、カアたんを呼んできます」
「うん、お願いします」
……あれ? この違和感は何だろう?
今、カアたんを呼ぶって言ったよね? それってつまり、敵に居場所を知らせるってことだよね?
「ダメぇぇ!」
ダメだよ! ただでさえみんな疲れ切っているのに、休みなしで戦うなんてできないって!
というか、カアたんだけでも大変なんだよ!
「おや、どうしましたか?」
「どうしたって、カアたんを呼んだら――」
「ああ、彼なら大丈夫ですよ。それに、もう魔法で呼んじゃいました」
「えー!」
近くに白い円陣が現れる。ゆっくりと、ゆーっくりと光はカアたんの身体を作っていく。そしてそれが完成すると、一気に光は弾け飛んだ。
「おやおや、そんなに怖がらなくても」
無理言わないでよぉー!
カアたんは今、敵なんだよ? 下手すると初めて会った時みたいに襲われちゃうかもしれないし。
「おのれ、ロリコン! そうやってお姉ちゃんと密着するのか!」
ミーシャが怒鳴る。でも私は怖くてセバスチャンさんの背中に隠れて、ブルブルと震えていた。
ああ、やっぱり姿は戻ってる。邪神さまの呪いが解けているよぉー!
「…………」
カアたんは一度見渡してから、暗くなった空を見つめた。そしてどこから出したのかわからないタバコとマッチを出していた。
タバコを咥え、マッチを擦って火をつける。その火をタバコに移して、そしてそのまま煙をふかしていた。
「湿気た面だな」
どこか、乾いたような言葉だった。そのまま腰を下ろして、タバコを楽しんでいる。
あ、あれ? 何だろう、いつものカアたんとちょっと違う。
「カアたん、みなさんお腹が空いています。料理を作っていただけませんか?」
「ああ、いいぜ。今日は退屈だったから腕を振るってやるよ」
「一つだけ注文を。マオ様には体力がつく品をお願いします」
「わかった。ちなみに食料は?」
「どうにかしますので、ご心配なく」
あれ? あれ? あれ?
カアたんが、おとなしい。
なんで? どうして? 何があったの?
「あ、あの、セバスチャンさん?」
「はい、何でしょうか?」
「カアたんが、いつもと違うんですけど……」
「いつも通りですよ。まあ、強いて言うなら、刃物を持っていないからテンションが低めってところでしょう」
刃物ってそんなに重要なの!?
って、ちがーう! 私が聞きたいのはそういうことじゃなかったよ!
「というか、カアたんってヴァルガンさんの影響を受けてないんですか!?」
「ええ、そうですよ。カアたんは何にも忠誠を誓っていませんからね。強いて言うなら、自分に忠誠を立てているってことでしょうか」
じゃ、じゃあカアたんは敵じゃないんだ。
よかった、それなら安心できるかも。
「おい、魔王」
「は、はいっ」
「あとで切り刻んでやる」
なんで!? 私、何か悪いことをした!?
「コラコラ。そんなことを言っちゃダメですよ」
「ですが、そいつが弱いせいで――」
「私の責任もあります。ですから私を責めなさい」
カアたんは吐き捨てるように舌打ちをしていた。
やっぱり怖いよぉー。私、カアたんが苦手だ。
着々と進む魔王連合軍の強化。
マオちゃんは無事にみんなを取り戻すことができるのか!?
反撃は次の章で!




