聖剣? 魔剣? ただの剣?
セバスチャンさんと一緒に、ブレイカーのみなさんはシャーネルドラゴンと戦っていた。吐き出される赤い炎はとんでもなく熱そうで、滝つぼにあった水を蒸発させるほどだった。
そんな炎を掻い潜ってセバスチャンさんは駆けていく。指を鳴らし、魔法陣を展開させる。そこから光り輝く矢が何本も打ち出されて、一気にシャーネルドラゴンの身体に突き刺さっていた。
「やるね、セバスチャンさんよ!」
ティザーさんが絶賛しながら空を翔けた。背中には蓮華かと思わせるような光の翼が生えていて、吐き出された火炎を難なく避けていた。
まるでハチみたいで、とーっても綺麗な身のこなしをしていた。
「そーらよ」
光の翼から何かが撃ち出される。それがシャーネルドラゴンの翼に当たると、徐々に色が抜け落ちて石のように固まり始めた。
「ほう、石化の魔法ですか」
石化の魔法? もしかして、シャーネルドラゴンを石にしちゃうの?
「動き回られても面倒だからな。だから今のうちに翼だけは使えないようにしておいたぜ」
「それはそれは。お気遣いありがとうございます」
でも、翼が使えなくなったってことは、シャーネルドラゴンは飛べなくなっちゃうよね?
それってつまり、落ちちゃうってことでもあるよね?
「ですが、ちょっと余計でしたね」
シャーネルドラゴンの翼が石になる。そして思った通りに飛べなくなって、そのまま滝つぼに溜まっていた水たまりに落ちた。
すっごい音が響いて、水しぶきが上がった。それは私の所まで飛び散るほどのすさまじさだった。
『グゴォオオォォォオオオォォ!』
ものすごい勢いでシャーネルドラゴンが沈んでいる! 懸命にもがいているけど、状況が悪化するだけだし。
「あちゃー、ちょっとしくったか」
「全く、少しは考えてくださいよ」
うわぁー、どうしよう。このままじゃシャーネルドラゴンが溺れ死んじゃうよ。
早く助けなきゃ。でも、まだ正気に戻った感じはしないし。下手に近づくと襲われちゃうかもしれないし。
「あ、お姉ちゃん。こんな所にいたの?」
すっごく困った状況の中、私はつい驚いて振り返った。
そこにはのほほんと笑っているミーシャの姿がある。
「ミーシャ!」
「なんだか町の様子がおかしかったんだけど、どうしたの? というか、寝起きのままじゃない。どうしたの?」
よかった。ミーシャはヴァルガンさんの影響を受けてないみたい。
それにしても、なんでこんな所にミーシャがいるんだろ? それに、その大切そうに抱いている剣は何だろう?
「あ、もしかしてあのガキに無理矢理!? ま、まさか、すでにもう事後だったりする?」
「え? 事後って?」
何を言っているのミーシャ? というか、どうして顔を真っ赤にしているの?
「ゆ、許せない。私のお姉ちゃんを、変態にするなんて!」
「ミ、ミーシャ?」
なんだかわからないけど、ミーシャは怒ってる。怒りに任せて、剣を取った。
抜き出された刀身は、とても怪しく輝いている。とんでもなく禍々しいけど、大丈夫なのこの剣?
「お姉ちゃん、あいつはどこ?」
「え? えっと……」
「どこにいるの!?」
こ、怖いよぉー。何をそんなに怒っているの?
なんだかこのままじゃあ、私が殺されちゃうかもしれない。
「えっと、滝つぼのところにいるけど……」
「ふふ、そうなの。わかったわ。フフフ――」
ご、ごめんなさいセバスチャンさん。私、あなたの犠牲をわすれませんから。
「待ってろクソガキ! 私のお姉ちゃんを食ったことを後悔させてやる!」
ミーシャは勢いのまま走って滝つぼへダイブした。私は少し心配になってそろりと覗いてみる。
すると飛べないはずのミーシャが、飛んでいた。
「このガキ! よくも私のお姉ちゃんをー!」
襲いかかるミーシャ。さすがのセバスチャンさんも驚いた様子で、つい反応が遅れてしまっていた。
「っとと、どうしましたか? ミーシャ様」
「惚けるな! よくも、よくもお姉ちゃんの純潔を!」
「はい?」
剣を振るミーシャ。でもセバスチャンさんは全部見切ったかのようにかわしている。
だけどミーシャは物怖じしない。それどころかさらに果敢に攻撃をする。
「よくもよくもよくも!」
「あの、私は何もしていませんが?」
「うるさい、黙れ!」
ま、まあ、セバスチャンさんは何もしてない。今回は私のほうからキスをしたし。
というか、ミーシャはセバスチャンさんが元に戻ったの気づいてないのかな?
「くぅ、こんの変態!」
ミーシャが感情のまま叫んだ。すると禍々しい何かを放っていた剣が、さらに禍々しくなる。真っ黒に染まった刀身。そこから黒い光を放出して、セバスチャンさんへと音いかかる。
でもセバスチャンさんはそれも難なくかわした。だけどそのせいでシャーネルドラゴンの顔面にヒットしていた。
「おや? 失礼」
その一撃が致命的だったのか、シャーネルドラゴンは動きを止めた。そのまま暴れることなく、ブクブクと水の中へ沈んでいく。
「って、死んじゃう!」
早く助けなきゃ! でもセバスチャンさんはミーシャの相手で手いっぱいだし。
「あーあ、仕方ないなぁ」
そういってティザーさんは待機していたブレイカーのみなさんに目配せをした。直後にみんなは水の中へと入っていく。
「あ、あの?」
「ま、大丈夫だよ。ドラゴンでもあいつらはどうにかするだろ」
数十秒後、シャーネルドラゴンと一緒にブレイカーのみんなは浮かんできた。
もしかして、あの重たいドラゴンを持ち上げてきたのかな?
「すごい」
単純に思ったことを口にすると、ティザーさんは少し嬉しそうな顔をしていた。
「こんのぉ!」
そしてミーシャは相変わらずセバスチャンさんへ襲いかかっていた。
ああ、早く止めなきゃ。じゃないとまた余計なことが起きちゃう。
「魔王は大変だな」
苦笑いするティザーさん。私は頭を痛めながら、ミーシャを止めることになる。
こうしてシャーネルドラゴンを、みんなのおかげで落ち着かせることに成功したのだった。
どうにかこうにかシャーネルドラゴンを落ち着かせることに成功した一同。
そしてミーシャが合流!
心強さがどんどんましていく中、マオちゃんは動き出す。




