舞い降りた守り神
空が青い。身体の痛みは、だいぶ引いてきた。
早くみんなを助けたいよ。だけど、まだ天使さんは出てこない。
「どうしよう……」
メイちゃんのことも心配だし、ミーシャやジュリアちゃんも心配。邪神さまやカアたん、あとウィンディさんは大丈夫だと思うけど、でもやっぱり心配だ。
もっと、私が強かったら。そうすればこんなことにはならなかったのに。
「おい、魔王」
いろいろと考えているとセバスチャンさんが声をかけてくれた。そのまま私の隣に座って、滝のほうへ顔を向けていた。
「あの、そのな。そんなに落ち込むなよ」
「でも……」
「何でもかんでも一人で抱えるなっての。その、俺がダメでお前に迷惑をかけちゃったし。それにな、そんな風に落ち込んでいても傷なんて治らないからな!」
「わかってるよ。だけど、早くしないとみんながみんなでなくなっちゃう気がするし」
なんだかわからないけど、とても不安。
時間が経てば経つほど、その不安はとっても大きくなっていくし。もし元に戻ったとしてもみんなは、変わっているかもしれない。
だから、だからとても怖い――
「魔王」
セバスチャンさんに呼ばれて私は顔を向けた。すると突然、ムギュッとほっぺたを掴まれたの。
そのままグイッと引っ張られて、とても変な顔にされる。
「にゃにしゅるの!?」
「いつまでも落ち込んでいる罰だ!」
そのまま私の顔は遊ばれてしまう。とーっても痛いのにセバスチャンさんは許してくれない。
「ひゃめてー」
「やめない。いつまでもウダウダしている魔王にはとびきりの罰を与えなきゃいけないしな!」
「いやー!」
なんでこんな目に合わなきゃいけないの?
落ち込んじゃいけないの?
なんだかわからないけど、だんだんムカってしてきた!
「やめてって言っているでしょ!」
好きなように顔をいじくり回すセバスチャンさんの手を払う。私はオモチャじゃないし、かといってこんな罰を受ける必要もないし!
そんな風に怒ってセバスチャンさんを睨みつけると、セバスチャンさんはどこか力強くニッコリと笑ったんだ。
「魔王はそうでなくちゃ」
何がそうでなくちゃなの!? とーっても、とーっても痛かったんだよ!
ほっぺたはヒリヒリするし、もう最悪!
「何が魔王よ! 私だって気持ちはあるんだから、もうちょっと考えてよ!」
そんなことを言うと、セバスチャンさんはムッとした顔になる。どこか怒っているような感じで、「なんだよ、せっかく元気出させてやったのに」って呟いていた。
「ふー」
でもセバスチャンさんの言う通り、落ち込んでいる暇はないかも。例え天使さんを呼び出せなくても、できることはあるはずだし。
何か行動をしなくちゃ。でも、何をすればいいんだろう?
現状じゃあ何もできないようなものだし。
「ん?」
大きな影が差し込む。何となく空を見上げると、そこには翼を広げて飛んでいるシャーネルドラゴンの姿があった。
「久しぶりに見たなぁー」
シャーネルドラゴンが傷ついて倒れていたの、つい最近だったのに何だか懐かしく感じちゃうよ。
それにしても大きいなぁー。なんだかどんどん大きくなってきているし。
あれ? なんで大きくなっているんだろ?
これって、もしかして近づいてきているのかな?
「魔王、下がれ!」
セバスチャンさんが叫ぶ。直後にシャーネルドラゴンが急降下してきた。
私はそれに反応ができなくて、だから駆けてきたセバスチャンさんに押し倒されてしまう。
『ガァアアアァァ!』
セバスチャンさんと一緒に転がった後、シャーネルドラゴンは大きな雄叫びを上げていた。
その目はとても赤くなっていて、とてもじゃないけど正気じゃない。
「な、何?」
「くそ。あいつ、誰が主かわからなくなってやがる」
狂ったように頭を振っているシャーネルドラゴン。前に会った時はあんな風じゃなかったのに。
もしかして、ヴァルガンがこの島を支配したせい?
「仕方ない。ちょっと下がってろ」
もしかして戦う気? そんなの無謀だよ!
「ダメ! 今の君が勝てる訳ないよ!」
「お前よりは戦える。だから下がってろ」
「だけど!」
私はセバスチャンさんを止めようとした。だけどセバスチャンさんは、何も持たないでシャーネルドラゴンの前に立つ。
このままじゃいけない。セバスチャンさんがやられちゃう。
でも、私に何ができるの?
祈るだけ? 奇跡を待つだけ? それとも見守ることしかできないの?
そんなの、いやだ。
何もしないのと一緒だ。
私は、セバスチャンさんを助けたい。一緒に戦いたい。
でも、でも――
『だか、主らにはあるかのぉ?』
私は駆けていた。ただセバスチャンさんを助けたい一心で、懸命に。
傷なんてどうでもいい。このまま見殺しになんてできないし、したくない。
それに、セバスチャンさんがどう思っていてもいい。
だから、お願い――出てきて天使さん。
「おまっ――」
セバスチャンさんが何かを言いかけた瞬間、私はその口を塞ぐようにキスをした。
初めてのキスの時だって、天使さんは出てきた。
ミーシャを助けるために戦った時だって、天使さんは頑張ってくれた。
だから、お願い。セバスチャンさんを助けるために出てきて。
「全く、バカなことをしますね」
凛とした声が聞こえた。それは天使さんじゃなくて、いつも聞き慣れている優しい声だ。
「あとでしっかりと働いてもらいますよ、マオ様」
その柔らかい笑顔は、とても優しくて、力強くて、それで安心できる。
「セバスチャンさん――」
「泣くのは後ですよ。やることは、山積みですしね」
元に戻ったの?
私がそのことを確認する前に、セバスチャンさんはシャーネルドラゴンに顔を向けた。
「少し、お休みになられてください。どうにかしてきます」
私は、その言葉を聞いて安心した。途端にとても眠くなって、そのまま意識を失った。
でも私は信じていた。
セバスチャンさんが、シャーネルドラゴンをどうにかしているって。
ついにセバスチャンが元に戻った!
ガキンチョはガキンチョで大変だったぞ!
マオちゃん、これからが反撃だ!




