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第5話 お風呂! メイド! ナメクジ!

 広いお風呂。温かいお風呂。とにかくお風呂!


「魔王、最高ぉー!」


 こんなに大きくて豪華なお風呂、入ったことがないよぉー

 え? これ夢じゃないよね? 温泉旅館でうたた寝してて、目が覚めたらみんなにイタズラされていましたってことはないよね?

 試しにほっぺたをつねってみる。とっても痛いことがわかると私は大いに飛びはねた。


「むっふふぅー」


 もー、魔王になって一時はどうなるかと思ったけど、こんな贅沢を味わえるならなってよかったって思えるよ。

 ああ、今までの苦労が報われた気がする。ホント、こんな目に合うんだろう。うう、あまりにも不幸すぎて泣けてくるよ。

 でも、そんなことはいいや。今はお風呂を楽しまなきゃ。


「くぅー」


 足先から伝わってくる心地いい温度のお湯。ゆっくりと入っていくごとに身体から疲れが取れていくのがわかった。

 とっても気持ちいいよ。のぼせなきゃ一生このままでもいい!


「ごくらくぅー」


 うーん、でもなんか湯気が多いなぁ。こう多いと周りがよく見えない。もし誰かがいたらとても困るし。

 ま、そんなことないか。とにかくこの時間を楽しまなくちゃ。


「あのー」


 腕を大きく伸ばしていると誰かが声をかけてきた。振り返るとそこにはメガネをかけた緑色の髪の女の子がいる。

 メイド服を着てて、髪をおさげにしたその子はどこか恐る恐るって感じで私を見つめていた。


「お湯加減はどうですか?」

「あ、すごくちょうどいいですよ。えっと――」

「あ、し、失礼しました! 私、シィと言います!」


 シィちゃんかぁ。なんだかとても引っ込み思案みたいな印象を受けるなぁ。見た感じ、私と同い年ぐらいかな?


「あ、よろしくね。私は――」

「存じ上げております! ま、魔王になったばかりのマオ様でございますよね?」

「う、うん。そうだよ」


 なんだかとても固いなぁ。というかどこか怖がられているように見える。


「その、えっと、メイド長に失礼がないようにと言われていまして」

「失礼って。大丈夫だよ、セバスチャンさんとかカアたんにとんでもないことやられてるし」

「えっと、あの方達は特別なので……」


 特別にしてはとてもフリーダムだと思うけど。そういえばセバスチャンさんは何をしているのかな? 今頃また私にお仕事をやらせようと準備をしているんじゃあ……

 あーやだ! 考えただけでいやになってくる!


「あの、マオ様。お背中を流しましょうか?」

「あ、ホント? 結構入ってたし、そろそろ身体を洗おうかな?」


 私は浴槽から上がる。そしてシィちゃんの案内に従って洗い場へとやってきた。

 そこは温泉みたいにシャワーとかがたくさん並んでいる。私はそれを見てついついキョロキョロと見渡しちゃった。


「元々は部下達が使う大浴場なんです。だからたくさん入れるように作られたと聞いています」

「へぇー。だから温泉みたいな感じになっているんだ」

「先代の魔王さまは身分上警護が必要だったんですけど、気にすることなく部下と一緒に入っていたと聞いています。ただ、その分大きなトラブルもあったとかなかったとか」


 何だろう。前の魔王さまって何をしていたのかわからなくなってきた。


「あ」


 そういえばリフィルさんが言ってた魔王の紋章のことすっかり忘れてた。


「ねぇ、シィちゃん」

「は、はい!」

「どこに魔王の紋章があるか探してくれないかな? たぶん背中とかそういう所にあると思うんだけど」

「か、かしこまりました!」


 ひとまず巻いていたタオルを取る。するとシィちゃんはまじまじと後ろを見つめていた。なんだか恥ずかしいなぁ。


「えっと、もしかしてこれかな?」


 シィちゃんが何かを見つけたようだ。もしかして、それが魔王の紋章なのかな?


「ひゃあぁああぁぁぁ!」


 突然の悲鳴。それに私は思わず身体をビクッとさせてしまう。

 慌てて「どうしたの?」と振り返る。するとそこには、でっかくてヌルヌルしたナメクジっぽい何かがいた。


「きゃあぁあああぁぁあああぁぁぁ」


 何あれ!

 何なのあれ!

 気持ち悪っ! 気持ち悪いよ!


「ナメナメー」


 ナメクジっぽいそれは、叫んでいる私へ飛びかかってきた。突然のことに私は動くことができない。そのまま捕まって、飲み込まれてしまう。

 何これ! 身体がどんどん埋もれていく。すっごいヌルヌルしているし、なんかまとわりついてくるし。

 うう、気持ち悪い。早くどうにかして脱出しなきゃ。


「あぅー」


 どのくらい飲み込まれたのかわからない。でも、すぐ近くにぐったりとしているシィちゃんの姿が目に入ってきた。


「シィちゃん!」


 どんどんと弱っていっている。このままじゃあまずい。

 シィちゃんをどうにかして助けなきゃ!


「こんのぉー!」


 必死に手を伸ばしてシィちゃんの腕を掴んだ。でも、そのせいかどんどんと身体が飲み込まれていく。引っ張り上げるのはとても厳しい。それどころか、脱出するのも難しいかも。


「諦めてたまるか」


 このまま死んでたまるもんか。私は何のために、蘇ったのかわからないじゃないの。

 こんなところで、こんな格好で、友達を助けられないまま、死んでたまるかぁー!


「――――」


 背中から何かが弾ける。それは白い光で包まれていて、ナメクジっぽい何かの身体を突き破っていった。直後に大きな爆発音が響く。一体外で何が起きているのだろうか?


「わわっ」


 ナメクジっぽい何かも黙っていない。まるで私を完全に飲み込もうとしているみたいで、どんどんと奥へ身体が向かっていく。

 う、なんだか意識が朦朧としてきた。なに、これっ。力が入らない。それに、すごくねむいよ……

 もしかして、私の人生、ここで終わるの……、かな?


「マオ様!」


 聞き覚えのある声が耳に入ってくる。誰の声だったのか、思い出せない。

 もー、ダメかも……


「魔王さまを返してもらうぞ、ナメナメ!」


 勇ましい声が響く。途端に私達を囚えていたヌメヌメした何かが、白い光と共に消えていった。


「ひゃあ――」


 光が泡となって空間に消えていく。直後に感じた浮遊感。

 一体何が起きたのかわからない。でも、その光が消えると共に優しい笑顔が目に入ってきた。


「大丈夫ですか?」


 そう声をかけられてセバスチャンさんだと気づいた。よくよく見ると、私はお姫様抱っこされている。


「――――」


 カッコよかった。まるでセバスチャンさんが勇者のように思えるぐらいカッコよかった。

 ただ、見惚れているとセバスチャンさんがこんなことを口にする。


「素敵なお身体ですね」


 私は自分の身体を見た。タオルも何もしてない身体。それはつまり、小さな胸も何もかも見られたということに気づく。


「いぃやぁあぁああぁぁぁ!」


 もぉー、最悪。私、お嫁に行けない。


ヌルヌルはいいよヌルヌル(笑)


次回は明日の午前7時頃に更新します。


2017/02/27

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