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第4話 メイドさんも大変です

 疲れた……。とんでもなく疲れた……

 でもどうにか逃げ切れたよ。よかった、本当によかった。

 ああ、生きてるって最高。これが人生を実感するってことなんだね。


「あら、魔王さま」


 フラフラしながら歩いていると誰かが声をかけてきてくれた。視線を向けるとそこには私と同じぐらいの大きさのメイドさんがいた。

 栗毛色の髪をかわいいリボンでツーサイドにしていて、フリルがついたカチューシャがとても似合っている。大きくてパッチリした綺麗な目に、ほんわかとした柔らかい笑顔が印象的。

 着ているメイド服は藍色を主体にしているけど、かけている白いエプロンがメイドさんのかわいらしさをとても押し出していた。

 でも、それ以上にとても大きな胸が目に留まる。なんて羨ましいものを持っているんだ。私なんて、ちんちくりんなのに。

 はぁ、いつかでいいから、今以上に大きくなってほしいなぁ。


「こんにちは。えっと――」

「リフィル・ハネスと言います。一応、執事のセバスチャンの補助を任されているメイド長でございます」


 かわいらしい見た目と違ってとても丁寧に対応してくれる。それはもう、今まで出会ってきた人達と違ってとても親近感が持てた。

 それにしても、こんな人が魔王城にいたなんて知らなかったなぁ。こんな人ばかりなら安心して暮らすことができるんだけど。


「それにしても、ずいぶんと汗をかいてますね」

「え? あ、ちょっと戦闘訓練をしてて。それでこんなにかいちゃったの」


 実際はただ殺されそうになったから、逃げていただけだけど。


「それはそれは。ではすぐにお風呂のご用意を致します」

「え? ホント!? 用意してくれるの!」

「はい。魔王さまの身体は私達の身体でもございます。その身を大切にすることは、自身の身体を大切にすることと同意義でございます」


 何だかとてもいい人だなぁ。そして初めて魔王になったっていう実感が出てきた。

 ああ、今まではただ単にしごかれていた気がする。でもこういう人がいるなら魔王になってよかったって思えてくるよ。


「それではリビングでしばしお待ちくださいませ」

「はぁーい」


 魔王城のお風呂ってどんなものなんだろう。もしかしてお部屋みたいにとても豪華なのかもしれない。あ、もしかしたらとんでもなく広いのかも。

 もー、ワクワクして堪らない。早くお風呂に入りたいなぁ。


「そういえば魔王さま、お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

「何ですか?」

「魔王の紋章はどのあたりにあります?」

「魔王の紋章?」

「あ、いえ、その、一応身体のどの部分にあるのか知りたいと思いまして」


 そんなことを言われても、そもそも魔王の紋章って何だろう? うーん、着替えている時には気がつかなかったし。


「えっと、魔王さま?」

「え、ええとその、確認が取れてなくて。というか、魔王の紋章って何?」

「ええ!? 知らないんですか!?」

「う、うん」


 リフィルさんは本当に驚いているのか、目を大きくして身を乗り出してくる。えっと、そんなにおかしいことなのかな?


「はぁー、あの人はそこまでサボったのですか……」


 頭を抱えている。どうしたんだろ?


「もう、仕方ないですね」


 ゴホン、とリフィルさん咳き込んでから私を見つめた。そしてさっき言っていた魔王の紋章について説明してくれる。


「魔王の紋章とは、魔王になった方なら必ず持っている刻印のことです。基本的には自身に危険が迫った時にしか力を発揮することができませんが、訓練次第ではある程度の力を自在に使うことができるようになります。ただ、どのような力なのかは紋章が浮かび上がっている部位次第で変わってくるんですよ」

「へぇー」

「普通なら胸あたりにあるんですが、確認できますか?」


 言われて確認をしてみる。でも見たところそんな個所にはない。

 他にも目を向けてみるけど、見当たらない。うーん、ということは自分じゃあ見えない所にあるってことかな?


「このまま立ってても仕方ないですね。後でお風呂に入る時に確認でもしましょうか」


 リフィルさんの言う通りだし、ここは移動しちゃおう。このままこんな所にいても意味はないし。


「見つけたぜ、今日の晩飯ぃぃ!」


 ひっ、この声は……!


「ずいぶんと探したぜ、小娘ぇぇ!」


 振り向くとそこにはカアたんが立っていた。その手にあるのはさっきの果物ナイフじゃなくて、とても切れ味がよさそうな長包丁だ。


「ククク、いい顔してるじゃねぇか。とってもいい声で啼いてくれそうだなぁ!」


 ひ、ひぃぃ! カアたんが恐ろしいよぉぉ。

 私が何をしたっていうの!? 恨まれるようなことは何もしてないよ!?

 に、逃げなきゃ。早くどこかに逃げなきゃ殺され――


「逃がさねぇ、逃がさねぇ逃がさねぇ!」


 カアたんが容赦なく飛びこんでくる。その迫力に押されて私は動けなくなってしまった。

 ああ、お母さん、ミーシャ、ごめんね。

 みんなと一緒に作ったお菓子、とても美味しかったよ。

 いろんな光景が頭の中を駆け巡っていく中、私は死を覚悟した。


「カアたん、あなたは誰を料理しようとしているのですか?」


 そう思っていた時だった。リフィルさんが盾になってくれたのは。

 とても綺麗な動き。まるで踊っているかのようにステップを踏んでカアたんの突きの勢いをなくす。そしてそのまま右腕を絡み取り、身体を倒して十字固めをしていた。


「魔王さまですよ?」

「アダダダダダダ!」


 すごかった。見惚れちゃうほど綺麗で、可憐で、強い。

 うわぁ、リフィルさんすごいよー。


「目を覚ましなさい、カアたん。魔王さまを料理してはいけませんからね」

「イダイイダイ! あ、でも幸せ――」


 カアたんが何かを叫びながら幸せそうな顔をしていた。よく見ると、カアたんの腕にリフィルさんの胸が当たっている。


「反省しなさい!」

「ギィエェエエエェェエエェェェ!!」


 リフィルさんはどこかイラついたような顔をしてさらに締め上げる。

 そのせいでカアたんはとても大きな悲鳴を上げていた。


「やれやれー! もっとやっちゃえー!」


 私はそんな光景を見つめながらリフィルさんの応援をする。

 だって、あんなにかわいくて強い人を応援しないなんて、ありえないんだもん。


常識人がキター!

次はちょっとだけサービスとバトルをやります。


更新は午後1時を予定しています。


2017/02/27

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