恐怖! ミートボール
インフルエンザにかかってしまい、すごく調子を落としていました。
まだ完全回復していませんが、ゆっくりと執筆して更新しようと思います。
ニィちゃんがやられちゃったことによって、魔王城は緊急事態宣言をあげていた。もはやカアたんのお母さんの恐怖を知っている人達は目の色を変えてカアたん捕獲のために奔走している。
「おい、魔王。なんだか今日はうるさいぞ!」
だからなのか、ジュリアちゃんが私の所にやって来た。たぶん、それだけみんなが慌てているんだと思う。
「えっとね、今かなり危ない状況みたいなの」
「危ない状況? なんだそれは?」
「私が説明しますね。一言で表現すると、カッパさんの態度次第でお姉ちゃんが死ぬか生きるかの瀬戸際に立っちゃうのよ」
ミーシャがそんな風に説明するとジュリアちゃんはニヤリと笑った。なんだかとても嫌な予感がする。
「ほほう。それはいいことを聞いた。何が起きているかわからないが、あいつにちょっかい出してこようか」
「ちょ、ちょっとジュリアちゃん!?」
「ふはは! 魔王、貴様が泣いて命乞いをしている姿が目に浮かぶわ!」
ジュリアちゃんは意気揚々に部屋から出ていく。なんだかとーってもヤバい状況になってきたけど、大丈夫かな?
「ミーシャ、なんでジュリアちゃんをそそのかしたの?」
「だって、ああしたほうが面白いじゃない」
「ミーシャ!」
もー、信じられない。被害を受けるのは私なんだよ!?
「ま、ジュリア如きじゃたぶん邪魔にもならないと思うよ。それよりもカッパさんはどうしているの?」
能天気にミーシャはウィンディさんに訊ねる。するとウィンディさんはこんなことを口にした。
「そうねぇ、今は中庭を歩いているわ。いつも以上に警戒をして歩いているみたいだけど、何か探しているようにも見えるわね」
何かを探している?
一体何を探しているんだろう?
「どれどれー。あ、ホントだ。執拗以上にキョロキョロしているね」
「よっぽど大切なものがあるのかしら?」
「でも中庭だよ? 隠しておけるようなものってあるかな?」
私達はしばらくカアたんを映す水晶を見つめる。するとカアたんは何かを見つけたみたいで急いで草むらへと向かっていった。
『キャンキャン』
そこにいたのはかわいい子犬だった。カアたんはその子犬を抱き締め、楽しそうに笑いながら頭を撫でている。
でもおかしなことにその子犬は頭が三つあったんだ。なんで頭が三つあるのかとても不思議でならないけど、たぶん触れちゃいけないことだと思う。
「うそ!? あいつあんなものを飼っているの!?」
「ヤバいじゃないですか! というかなんであれがいるんですか!?」
うっわー、やっぱりヤバいことなんだ。でもこうなったらスルーすることはできないし。
「あのー、あの子犬って一体――」
「あれは魔獣ケルベロス。かつて世界を滅亡へと追い込んだ恐ろしき魔物よ」
ホントにヤバいじゃないですか!
え? カアたん普通に接しているけど大丈夫なの? むしろとてもかわいがっているけど、というかいろんな個所を甘噛みされているけど。
「ケルベロスは四年前に勇者と魔王が手を組んでやっと駆逐することができた魔物だよ。その際に産んでいた子供は全部処分したはずなんだけど……」
「明らかに処分もれがあるね。現にそうだったからカアたんとじゃれ合っているんだし」
「ま、まあ、害がなければいいわ。あのカッパだってそのあたりは気をつけているでしょ?」
害がなければ。
確かにそう思う。いくらかつて世界の敵だと言われていた生物でも、私達に牙を剥かなければ無駄な心配をする必要はない。
でも、誰がどう見ても危険だよねぇー
『ハッハッハッ。今日も元気だな、ミートボール。だが悪い。俺はそろそろ行かなきゃならない』
『くぅーん』
『なぁに、また来るさ。そう落ち込むな』
カアたんは魔獣ケルベロス(名前:ミートボール)の頭を撫でる。ミートボールはどこか寂しそうな顔をしていたけど、去っていくカアたんの背中を静かに見つめていた。
でもカアたんが中庭を通って魔王城を出ようとした時、ついにメイドの一人に見つかってしまった。
『見つけたぞ、このカッパ!』
あれはしたっぱメイド隊の一人、ミィちゃんだ。赤い髪にスラリとして高い背はどこか憧れちゃう。
カアたんはそんなミィちゃんを見た瞬間に、ちょっと面倒臭そうな顔をしていた。
『チッ、なんだよ。俺はてめぇらの謀略に乗らないぞ?』
『ふん! そんなの知ったこっちゃない。いいから一緒に来い、くそガッパ!』
突撃するミィちゃん。カアたんは咄嗟に腰にしまっていたナイフを取り出そうとするけど、ミィちゃんはその前に顔へ拳を突き出した。咄嗟に避けるカアたんだけど、ミィちゃんの猛攻に合ってナイフを取り出すことができない。
「うわー、すごいなぁー。カアたんが押されているよ」
「あのメイドさん、ずば抜けた戦闘勘を持っているね」
「あのくらい当然よ。ま、彼女の場合は体術と戦闘勘しかないみたいだけど」
ウィンディさんはどこまですごいんだろう? やっぱり強いだけあってとても冷静に状況を分析している。
「「あ」」
そんなことを思っているとミーシャとウィンディさんが同時に声を上げた。慌てて目を向けるとそこには、ミィちゃんへ飛びかかっているミートボールの姿があった。
『うわっ! なんだこいつ!?』
『ミートボール、お前……』
『グルルゥ、ガウッ!』
ミートボールは怒りのままミィちゃんに飛びかかる。ミィちゃんは必死に振り払おうとするけど、ミートボールは一向に退こうとしない。
だんだん、だんだんと服を引き裂かれていって、ついには下着がチラリと見えるようになってしまう。
『くそっ!』
ミィちゃんは後ろへと下がり、一旦体勢を立て直そうとする。でもその瞬間に足元が光り輝いた。広がる魔法陣は、とても黒くて禍々しい。
『ガウガウ』
ミートボールがにやりと笑う。直後、ミィちゃんは黒い光に包まれた。その爆発にも似た光の破裂は、一瞬だけ水晶の映像にノイズが入るほどすごいものだった。
『かふっ』
光が消えると共に、ミィちゃんはフラフラとしてから倒れていた。よく見るととても幼くなっていたけど、たぶんさっきの魔法のせいだと思う。
『ありがとよ、ミートボール』
カアたんは助けてくれたミートボールに礼を言う。ミートボールはとても嬉しそうに尻尾を振っていた。こうして見ると普通の犬みたいに見えるなぁー
「やはり恐ろしいわね、ケルベロスは」
「あんな魔法が使えるんですね。怖いです」
あとで聞いた話だけど、カアたんが飼っているケルベロスは基本的に無害らしい。ただ女の子の服を破いたり、魔法で幼児化させたりする困った魔獣みたい。
何にしても、私はカアたんの恐ろしさを改めて知るのだった。
恐ろしきミートボール。でもなんで名前がミートボール?(笑)
次回は明日の午前8時頃に更新予定です。




