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ニィちゃんの悲劇

 カアたんのお見合いが始まる朝。みんながみんなピリピリとしている中、私とミーシャ、そしてウィンディさんは部屋に閉じこもって事の成り行きを見守っていた。


「なんだか今日は居心地が悪いわね。一体何が起きているの?」

「お姉ちゃん、なんかメイドさんが怖いんだけどどうしちゃったの?」

「え、えっとね。実はこういうことで――」


 カアたんのお母さんがやってきたこと。そのことによって魔王城に緊張が走っていること。そして役に立たない私は本日、部屋の中ですごさなくちゃいけなくなったことというような内容を二人に話した。

 すると二人は、どこか面白そうな顔をして目を輝かせ始める。


「なるほどね。要するにそのカッパが結婚しちゃえば万事解決じゃない」

「うんうん。カッパさんがそのまま結婚するように仕向けちゃおうよ」

「でも、カアたんはカアたんで事情があるし。そう簡単には結婚しないと思うよ?」


 カアたんは裏社会で生きてきたカッパ。相手を思って身を固めようとしないってセバスチャンさんが言っていたし、それに結婚する気があるならこんなことになってないだろうし。

 何にしてもカアたんを結婚させることは難しいと思う。


「ふーん、本人には結婚する意思はないと」

「それじゃあ難しいね。事情を抱えているならなおさら大変だろうし」

「でも、お母さんを返すにはカアたんをお見合い席に座らせなくちゃいけないし。だからみんな殺気立っているの」


 切り裂きカアたんという異名を持つカアたん。そんなカッパを捕まえなくちゃいけないから大変だろうし。しかも下手に使えようとしたら料理にされちゃう可能性もあるから危ないんだよなぁー。

 でも、このままじゃあみんな安心して暮らせないし、どうにかしたいんだけど。


「そうねぇ。私達が手を出すにしても状況がわからないんじゃあどうしようもないし。ここは水晶でも出して様子をうかがいましょうか」

「そうだね。このままここにいるより、何か糸口が見つかれば手助けできると思うし」


 水晶を出すウィンディさん。そして簡単な呪文を唱えて念じ始めると、そこには渦中のカッパが映り込んでいた。


「鼻歌を歌っているね」

「まだ騒動に気づいていないみたい。確保するなら今がチャンスじゃないかしら?」

「あ、後ろに誰かいるよ」


 ミーシャの指摘でカアたんの後ろに目を向ける。そこにはしたっぱメイド隊の一人、ニィちゃんがいた。ニィちゃんは前に見たほんわかとした顔つきをしていない。とても鋭い視線でカアたんを眺めている。


「どうやら彼女はカッパの監視のようね。おそらく逐一あいつに報告しているのでしょう」

「すごい集中。殺気を出さないことは鉄則だけど、よくあそこまで存在を消せるものね」

「なんか話しているけど、何を話しているのかな?」


 ウィンディさんはその言葉を聞いて音声を拾い始める。すると思いもしない言葉が入ってきた。


『――りましたー。これより接触をしますー』


 私達に一気に緊張が走る。ニィちゃんはゆっくりと立ち上がり、先ほどと違ってとてもニコニコしてカアたんに近づいていった。


『カアたんさーん』

『ん? なんだニィか。何の用だ?』

『実はちょっとだけご相談がありましてー。よろしいでしょうかー?』


 ニィちゃんはそう言ってカアたんを厨房から出した。とても自然体だったためか、カアたんは特に警戒をしていない。


「上手く連れ出したわね。でも、このまま順調に行くかしら?」


 ウィンディさんの言う通り、ここからが問題だ。厨房から出たと言っても、カアたんのお母さんの元へ連れていくのはまだ難しい。


「もしばれたら、あのメイドさんは命がないかもしれませんね。あのカッパさん、メイドさんと違って常に臨戦態勢を取っていますし」

「そうね。実力的にはカッパが上みたいだし、ここからが肝心だと言えるわ」


 やっぱりカアたんは強い。でもそれはニィちゃんも重々承知だと思う。何か対策していると思うけど。

 まあ、今は見守るしかない。


『それで、相談ってなんだ?』

『実は今朝、ポポット牧場のポオさんからある提案をされましてねー。それでご相談をとー』

『なんだそりゃ?』


『改良に改良を重ねたブルーチーズの試作品ができたと聞きましてー。それで今度魔王さまに試食してもらいたいとお話を承ったのですー。今のところはまだ企画段階なんですが、セバスチャンさんには前向きに検討してみますと言われましたのでー』


『ほぉー。その時に出す料理の相談か?』

『はいー。あと試食会ですのでお客様を呼びたいと思っておりましてー。会場は客間で行おうと考えていますが、そのレイアウトがなかなか決まらないのでお知恵をお貸しもらいたいのですよー』


 へぇー、上手いこというなぁー。とてもいい話だし、自然体だから嘘をついているように見えない。カアたんもかなり乗り気になっているし、これは上手く行くんじゃないかな?


『なるほどな。レイアウトはまだ全然なのか?』

『はいー。ですが場所だけは決まっていますー』

『どうせ客間だろうな。あそこでしかそういうのはやったことがないし』

『よろしければ今からご教授してもらってもよろしいでしょうかー? まだ期限がありますが早くから準備をすれば憂いはありませんしー』

『わかった。少し仕込みをしているから待っていろ』


 そう言って厨房へ戻っていくカアたん。なんだか上手くいっているみたいだし、私達がちょっかいを出す必要はなさそう。


「あっ!」


 そう思っているとミーシャが声を上げた。慌てて視線を戻すと、そこには裏口から厨房を出ていくカアたんの姿がある。

 カアたんは扉の前に石の欠片を置き、そしてそのまま一服し始めた。


「タバコを吸っている?」

「いえ、これは――」


 とても嫌な予感が私達の頭に過る。そして慌てて扉を開いて出てきたニィちゃんはカアたんの置いた石の欠片を踏んだ。途端に石は光を弾け飛ばし、その勢いのまま爆発した。


『残念だったな、ニィ』


 私達は言葉を失う。真っ黒けになってボンバーヘッドになったニィちゃんは、目を回して動けなくなっていた。カアたんはそんなニィちゃんに向けて、こんな言葉を口にする。


『俺は、チーズと嘘は嫌いだぜ』


 いつ頃からニィちゃんの嘘に気づいていたかわからない。でもこの光景を見た私達は、カアたんの恐ろしさに改めて気づいた。

 カアたんは煙を吐き出す。それはどこか乾いているように見える背中だった。



カアたん手強し(笑)

地獄の1日は始まったばかり。セバスチャン達は見事カアたんを捕獲できるのか!?


次回は朝の8時頃に更新予定です。

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