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マオとミーシャ

 大盛り上がりのブレイカーライブ。本当に修理屋さんなのか疑っちゃうけど、今は信じて見ているしかない。


『次はおなじみ――ジュリアの寝顔だぁぁ』

「やめろぉぉ! もう歌うなぁぁ!」

『ジュリア、君の寝顔は――まさに天使ぃぃ♪』

「土下座でも何でもするから歌わないでくれ! もういやだぁぁ!」


 ジュリアちゃんが頭を抑えて絶叫している。相当嫌なんだぁー。

 確かに自分を題材に、しかも連続でたくさんの人に聞かれるのって恥ずかしいよね。


「きゃー! ティザー!」


 対照的にミーシャはとても楽しんでいるみたい。もう子供みたいに目を輝かせて手を振っているよ。なんでか腰をくねくねして幸せそうな顔をしているけど。

 それにしても、みんなとても熱狂的だなぁー。歌詞はさっきからジュリアちゃんを題材にしたものばかりだけど、音楽はすごくいい。たぶん、普通の歌でも成功したんじゃないかな?


『愛してる――ジュリア♪』

「きゃー」

「のぉおぉぉおおぉぉぉ」


 感極まって嬉しそうな悲鳴を上げるミーシャ。ジュリアちゃんはとんでもない拒絶反応が出ているのか、発心に似たブツブツが出始めていた。

 こんなにも反応が違うのは初めて見たかもしれない。


「魔王!」

「な、何? ジュリアちゃん」

「あいつらを殺してくれ! 今なら私が許す!」

「そんなことを言われても……」

「頼む! 殺してください。私のために殺してください!」


 ジュリアちゃんの目が怖い。ホントに追い詰められているみたいだ。

 うーん、このままじゃあ何を仕出かすかわからないし。


「セバスチャンさん」

「はい、何でしょう? マオ様」

「ジュリアちゃんを医務室に連れていって。このままじゃあ危ないし」

「かしこまりました」


 セバスチャンさんに襟首を掴まれて引きずられていくジュリアちゃん。なんだかとんでもなくショックが大きいみたいだけど、大丈夫かな?

 それにしても盛り上がっているなぁー。というか、いつ門は直されるんだろう?


「お姉ちゃん」

「どうしたの? ミーシャ」

「やっと、邪魔者がいなくなったね」


 そういってミーシャは私に顔を向けた。そこにはさっきまでライブを楽しんでいる姿はない。

 まっすぐと私を見つめてくれるミーシャがそこに立っている。


「こうして話をするのは何年ぶりかな? たぶん、お姉ちゃんはそんな感覚がないと思うけどね」

「何年ぶりって、この前まで一緒だったじゃない?」


 そう話すとミーシャはちょっとだけ悲しそうな顔をした。だけどすぐに笑って会話を続けてくれる。


「やっぱり、お姉ちゃんは感覚がないんだね」

「感覚って、一体何を言いたいの?」

「お姉ちゃんはね、昔オオカミさんに食べられちゃったんだ」

「え?」


 食べられた? 私が?


「私とお母さんを守るために、オオカミさんに食べられちゃったの。そのおかげで私達は助かったけど、でも代わりにとても寂しくなった。お姉ちゃんは私達のせいで、命を落としちゃったんだってずっと後悔していたし」

「ちょ、ちょっと待って! ミーシャ、一体何を言いたいの!?」


 ミーシャはちょっとだけ悲しそうな顔をしていた。そして、躊躇いを見せつつもこんな言葉をかけてくれる。

 それは私にとって、残酷な真実だ。


「お姉ちゃんは一度、私達を守るために死んだの。そして七年の月日が経って、魔王として蘇った。それが今のお姉ちゃんなの」


 一度死んだ。そしてなぜか魔王として蘇ったのが私。

 どう反応をすればいいのかわからない。そもそもなんで魔王になったんだろう?


「お姉ちゃん。ホントなら一緒に帰りたいよ。でも、やめとく」

「え?」

「お姉ちゃんはもう立派な魔王さまだもん。それに、お姉ちゃんが魔王なら世界は平和だと思うし、連れて帰ったら処刑されるのがオチだしね」


 ミーシャの顔がとても寂しそうだった。私は何か声をかけようとする。でもそれを振り切るように、ミーシャは笑った。


「お姉ちゃん、約束して。みんなを笑顔にするって」


 とても悲しい笑顔だった。だけど私は何かを答えなきゃいけないと思って頷いたんだ。


「うん」


 どうしてミーシャが成長していたのかわかった。たぶん、あの時と違って世界は変わったんだと思う。魔王だってあの時と違って弱くなっていたのかもわかった気がする。

 世界の在り方はどうなっているのかわからない。でも、平和じゃないならやらなきゃいけないかもしれない。

 世界を一つにするってことを。


「さ、楽しもう。お姉ちゃんが死んでいた間、いっぱい世界は変わったんだし」

「そうね。それに今はミーシャがお姉ちゃんだしね」

「な、何を言っているのよー。お姉ちゃんがお姉ちゃんでしょ?」


 笑い合う私達。相変わらずミーシャは持ち上げられるのが苦手のようだ。

 そこだけは変わらないなって感じながら私はライブを楽しんだ。激しくも力強い音楽は、まるで今後を示しているかのようなそんな音楽だった。


この作品、どんな方向を向いているのかなー?

私にもわかりませんが、楽しみたいです。


次は本日の午後1時頃に更新予定です。

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