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第3話 マオと切り裂きカアたん

 魔王城にある中庭。赤いジャージに着替えた私は、セバスチャンさんの到着を待っていた。

 ああ、もう太陽があんなに高く……。そういえば朝ご飯を食べてなかったなぁ。

 あぅー、お腹が空いてきたよぉ。何でもいいから早く食べ物をーって感じで、お腹が鳴っているよぉー

 なんで私、こんな目に合わなきゃいけないの? 望んで魔王になった訳じゃないよ?


「お待たせしました」


 私が泣きそうになっていると、セバスチャンさんがやってきた。

 振り返ってみるけど特に着替えた様子はない。でも、その腕には何かが入っていそうなバスケットがある。


「あの」

「なんでしょうか?」

「そのバスケットは一体?」

「ああ、これはマオ様のお昼ご飯であります」

「お昼ご飯!」


 ホントっ? ホントなの!?

 本当にお昼ご飯なのっ!?


「本日は新鮮なレタスと最高級のハム、そして美食家が唸るマヨネーズであしらったサンドイッチでございます」


 中身を見せてくれたセバスチャンさん。

 もー、見ただけでヨダレがダラダラだよ。お腹もギュルギュルと唸っているし、マヨネーズがいい感じに輝いている。

 食べたい。早く食べたい。

 何がなんでも、食べたいっ。


「はい、おしまい」

「えっ?」

「訓練が終わったら、食べましょう」


 ひ、ひどい。

 私がこんなにお腹を鳴らせているのに、食べさせてくれないなんて!


「そんな目をしないでください。訓練が終わったら食べてもいいですから」

「うぅー」


 いいもん。絶対に食べてやるんだもん。

 見てろよ、鬼執事め。

 絶対にサンドイッチを食べてやるんだから!


「それよりもセバスチャンさん」

「なんでしょうか?」

「着替えていないんですか?」

「ああ、お伝えしていなかったですね」


 セバスチャンさんはどこか意地悪そうに笑った。そして二回ほど手をパンパンと叩いて、魔王城の城門に目を向けた。


「初めての戦闘訓練ですからね。その手の元プロの方を呼びに行っていたんですよ」

「元プロ?」

「ええ。もうすぐこちらへ到着するはずですが」


 セバスチャンさんの視線を合わせてみると、そこには顔をひょっこりと覗かせているカッパさんがいる。


「…………」


 え? カッパ?

 いろいろとツッコミたいんだけど、ちょっと整理しようか。

 まずカッパって、倭の国にしかいないバケモノだって聞いたけど。それがどうして魔王城にいるの? そもそもの話、なんでそんなバケモノが魔王城に?

 そりゃ魔王の配下だったら魔物とかいるだろうけど、でもなぜカッパ?


「全く、そんなに恥ずかしがらずに出てきてくださいよ。ほら、キュウリをあげますから」


 セバスチャンさんが懐からキュウリを取り出す。途端にカッパさんは恐る恐るという様子でゆっくりとこっちに来てくれた。

 でも、なんだかとても優しい顔をしている。あれのどこが元プロなんだろう?


「はい、よくここまで来ました」


 カッパさんは満面の笑みでキュウリへ手を伸ばす。でもセバスチャンさんはそれを高く上げて渡そうとしない。

 ああ、なんだかかわいいよ。このカッパさん、本当に戦闘の元プロなの。


「ダメです。魔王さまにちゃんと教えてから渡しますから」


 カッパさんはとても不満げな顔をしていた。そして私に振り返り、とても穏やかな笑顔を浮かべた。


「さっさとぶっ飛ばされろ、魔王」


 こわっ! 穏やかな顔でとんでもないことを言ったよこのカッパ!


「さて、この方の紹介をしていませんでしたね。この方はカアたんと言います。くれぐれも失礼がないようにご教授を」


 失礼がないようにって、一応立場は私が上なんだけど……

 ま、いっか。とりあえず挨拶をしなきゃ。


「はじめまして。新しく魔王になったマオと言います。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げる。一応これでも礼儀ってものは知っているんだ。


「ぶっ殺すぞ、小娘」


 なんで!?

 私、何か失礼なことをした!?


「こら、カアたん。今のは彼女なりの誠意ですよ。そんな発言はよしなさい」

「しかしですねぇ。あいつフサフサの髪の毛を見せつけて来たんですよ。俺は皿の関係でハゲてんのに、これみよがしに――」

「今のはあなたがいけません。謝ってください」


 何だろう、このやり取り。私何もしていないのにとても悪い気がしてきた。


「しかたねぇな。どうもすいませんでし――」


 カアたんが頭を下げた途端、頭の皿に貯まっていた水が一斉に地面へとぶちまかれた。しばらく静かに見守る私達。するとカアたんは声を上げず、力なく倒れた。


「カアたぁーん!」

「水、早く水を用意してぇぇ!」


 私は知った。カアたんにとって人間の礼儀作法は命がけなんだと。


「し、死ぬところだった……。さすが魔王だぜ」


 私、ホントに何もしてないんだけど。


「さて、一命を取り留めたところ悪いのですがそろそろ訓練をしてもらいますよ」


 セバスチャンさんがそんなことを言ってあるものをカアたんに渡した。それは果物ナイフ。普段はリンゴとかの皮を剥くやつだ。

 あんなものを持たせて何をやらせるんだろう? まさかあれで訓練をする訳が――


「おい、小娘」

「は、はい?」

「お前、どんな風に啼いてくれるんだよ?」


 こわっ! さっきと違う意味でとても怖いよ!

 なんか目が、というか瞳孔が変に開いているし、というか頭が変にカクンカクンしているし。

 どうしたのカアたん!?


「ああ、言い忘れてました。刃のついたものを持つと人格が豹変してしまうんですよ。またカアたんは、かつて裏社会で〈切り裂きカアたん〉として恐れられていた料理人です。その血にまみれた伝説は、数多くの組織を壊滅してきた伝説のカッパでもあります」

「とんでもない異名だよ! というか、カアたんコックさんなの!?」


 怖い。カアたんが怖すぎる。

 え? これ私、殺されちゃうんじゃない? というか解体されて料理に出されるんじゃあ……


「ヒャッハー! 今日は小娘の肉をミンチにしたハンバーグだぜぇ!」

「いやぁあぁぁあああぁぁあああぁぁぁぁぁ!」


 私は料理の素材にされまいと懸命に逃げた。結果、体力トレーニングにはなった気がする。

 だけど、元々は戦闘訓練じゃなかったっけ?


切り裂きカアたんやっと出ました。

私のお気に入りです。


次は明日の午前7時あたりに更新します。


2017/02/26

修正をしました!

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