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貧乏なジュリアちゃん

 いつもの食堂。白いテーブルクロスが敷かれているとーっても長いテーブルには、食器とコップが並んでいた。

 いつも通りだ。思えば昨日は突然攻められたからご飯を食べる暇がなかったんだよなぁー。


「おはようございます、お姉ちゃん」


 テーブルを眺めているとすぐ近くにいたミーシャが声をかけてくれた。セミショートにされた亜麻色の髪に、赤いシャツとチェックの白と緑のスカートを履いているからちょっと子供らしい。

 でも、顔は大人びているし胸も大きくなっている。だからかな、私より胸が大きいからちょっとジェラシーを感じちゃう。


「あの、そんなに見つめられると困ります」


 ミーシャはホントにちょっと困った顔をしていた。むぅー、やっぱり私より大きいから羨ましい。

 にしても、どうしてミーシャはこんなにも成長しているんだろう? この前までは十歳の女の子だったのに。


「お姉ちゃん、あとで話したいことがあるのでよろしいですか?」

「うん? いいよ」


 ま、気になることはあとで聞けばいっか。今はご飯をたくさん食べなきゃ。今日はたくさん動くかもしれないし。


「いいですか? 勇者だろうが淑女だろうがマナーは大切です。できるだけ静かに、そして音を立てずに食べなさい」

「ふん。アンタに言われなくてもやってやるわよ!」

「よろしい。では一回音を立てるごとに素振り十回です」

「えー!」


 ジュリアちゃんとセバスチャンさんはさっきと違って結構仲良くしている。なんだか似合っている二人だなぁー。っと、そろそろ座らなきゃ怒られちゃうな。

 私はいつも通りの場所へ座って食事を待つ。さすがにこの場所だとみんながどうやって待っているのかわかるもんだね。

 ジュリアちゃんはセバスチャンさんとあーだこーだやり取りをしながら。

 ミーシャは静かに座りながら、でも時折指で遊んでいるかな。

 それにしても人が増えたなぁー。一昨日までは私だけしかここには座らなかったのに。


「待たせたな、てめぇら」


 感慨深く思っているとエプロンをしたカアたんがやってきた。いつも通り食事を作ってきたカアたんはメイドさん達を従えて料理を並べていく。


「本日はカアたん朝スペシャルだ。残さず食いやがれ」


 腕を組んで壁に寄り掛かるカアたん。出されたお椀には温かそうな味噌スープがあって、お皿に盛りつけられた玉子焼きとサラダ、あと焼きたてのパンが食欲をそそる。

 でも一つだけよくわからない食べ物があった。それはジュリアちゃんの前だけに置かれたお魚だ。


「こ、これは……」


 ジュリアちゃんは言葉を失った。一体何だろうって思っているとカアたんがこんな単語を口にする。


「カアたん特製デメーキン焼きだ。なぁに、安心しな。特別に美味く作ってやっている」


 デメーキンって、昨日使ったあれかな? よくわからないけど世界一不味い魚だってウィンディさんが言ってた。カアたんとジュリアちゃんにはとんでもなくヤバいダメージを与えた魚だけど、そんなの食べて大丈夫なのかな?


「くっ、謀ったわね! 私にこんな美味しそうなものを食べさせるなんて! これじゃあ味覚が贅沢になっちゃうじゃない!」


 なんかわからないけどうな垂れているジュリアちゃん。そんなに美味しい物を食べたくないのかな?


「ジュリア、あなたはちょっと貧乏すぎます。だから少しぐらい美味しい物を覚えなさい」

「だけどミーシャ隊長! 私は――」

「いつかお金持ちになるんでしょ? だったら贅沢な味を覚えてもいいと思いますよ?」


 ジュリアちゃんをなだめるミーシャ。それはもうお姉ちゃんみたいな雰囲気が漂っている。ジュリアちゃんはなんだか顔を膨らませているし、ホントの姉妹みたいだ。


「さてみなさん。申し訳ございませんがそろそろお食事を始めてください」


 セバスチャンさんに促されて私達は食べ始める。手始めに前菜らしきサラダを食べて、それから温かな味噌スープを飲んだ。いつもながらカアたんには感銘を受ける。

 カッパのくせにこんなにも美味しい料理が作れるなんて。なんだかずるいなぁ。


「グハァ!」


 と思っていたらジュリアちゃんがダメージを受けている。

 どうしたの? まさか毒物が入っていたの!?


「贅沢が、贅沢が襲いかかってくる……!」


 それは美味しかったと捉えればいいのかな?

 なんだかよくわからないけど吐血しているし。どうしてそんな風に苦しんでいるの?


「こ、こんな状態であの美味しそうなデメーキンを食べたら私――」


 ぐったりとしているジュリアちゃん。でもそんな姿を見たからなのか、カアたんの心に火がついた。

 ゆっくりと近づき、そしてジュリアちゃんの口にデメーキン焼きを近づける。それはもう悪魔も恐れるような素敵な笑顔で笑っていた。


「食え。食えよ」

「くっ、うぅ」

「お残しは許さないぜ? それとも、てめぇの貧乏はその程度だったってことか?」


 よくわからない挑発をするカアたん。だけどジュリアちゃんは拒んでいた。どうしてあんな美味しそうなものを拒むのかわからないけど、とにかく口を閉じている。

 ふと、ジュリアちゃんはミーシャに視線を向けた。ミーシャはミーシャで楽しんでいるのかとてもニヨニヨしている。


「ケッ、仕方ねぇな。セバスチャン、こいつの身体を抑えつけろ」

「はい、かしこまりました」

「なっ! 離せ、やめろ!」

「やめろ? やめろと言われてやめるバカがどこにいるんだよ!」


 身体を抑えつけられたジュリアちゃんは懸命に暴れる。でも逃げることができなくて、そのままカアたんに口を開かされていた。そして、口の中にデメーキン焼きを放り込まれる。


「うぐっ」


 てっきり吐き出すのかと思えばしっかりと噛んで味わっている。そしてそのままゴクリと飲み込み、目をカッと見開いていた。


「どうだ?」

「……美味しい」

「あぁ? よく聞こえないなぁ?」

「美味しいわよ!」


 目にいっぱい涙を溜めるジュリアちゃん。たぶん相当悔しかったんだろうなぁ。でもなんで悔しかったのかがわからない。


「ゲッゲッゲッ。そうかそうか。じゃあもう一回味わえ」

「そ、そんな……。い、いやぁ!」


 押すカアたんに拒むジュリアちゃん。それはなんだかとても異様な光景だった。

 何気なく視線をミーシャに向けると、なぜか顔を手で覆っている。まるで赤くなった顔を隠しているように見えた。

 というか、なんで顔が赤くなっていたんだろう?


ジュリアちゃんがいじりやすいです(笑)

カアたんのオモチャになるなー


次回は本日の午後5時頃の更新予定です。

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