ジュリアちゃんの災難
平穏な朝。平穏な時間。
今日は昨日と違って落ち着いた一日になりそうだなぁー。
「おはようございます、マオ様。目覚めたところ申し訳ございませんががご支度をお願いいたします」
「うん? どこか出かけるの?」
「ええ、城下町のほうへです。本日は昨日の戦いで壊れてしまった建物などを直さなければいけませんからね」
「あ、そっか。でも何か役に立てるかなぁ?」
「心配しなくても大丈夫ですよ。マオ様は基本的にみなさんへ声援を送ってあげてくださればいいのです」
そんな程度でいいのかなぁ?
でもできることはあまりないし、少しでも役に立ちたいし。
「わかった。じゃあ着替えるから先に食堂へ行ってて」
「かしこまりました。お待ちしていますね」
セバスチャンさんが部屋の外へと出ていく。それを確認した後、私はタンスの前へと向かった。いつもながら何が入っているのかよくわからないタンス。なんだか私の知らないものまで入っているから、よくわからないんだよなぁー。
さてさて、今日は動くかもしれないからズボンとか履こうかな。あ、そういえば前に買ったオーバーオールがあった気がする。あれを着れば大丈夫かも。
あとは、汚れてもいいシャツでも着ようっかなー。そういえばこの前の触手さんにやられちゃった上着があった気がする。あれを着れば大丈夫かな。
「さてと」
うん、見た感じお仕事を手伝う女の子って感じだけどいいや。にしてもオーバーオールちょっとぶかぶかだなぁー。もうちょっとサイズの合うものを買えばよかった。
さて、鏡に映る私を見る限り問題はなさそうだし食堂へと行こうか。そういえばミーシャはどこにいるのかな? セバスチャンの話だと最上級の取り扱いにしてるって言ってたけど。
「まずは食堂かな」
今日の朝ご飯は何なのかなぁー?
私はルンルンしながらタンスの扉を閉める。でもその瞬間だった。
「ふえ?」
「動くな。そして声も出すな」
喉元に添えられる刃。たぶん、果物ナイフだと思う。
声を聞く限り女の子だ。でもこの声、どこかで聞いたことがあるような。
「クーックックッ、油断したな魔王。これでお前はおしまいよ」
「もしかして、勇者のジュリアちゃん?」
「なっ! なぜ私の名前を!」
なんだかわからないけどとても動揺している。
でもジュリアちゃんは気を取り直してこんなことを言い始めた。
「まあいいわ。とにかくあなたには死んでもらう。覚悟!」
「ねぇ、ジュリアちゃん。ちょっといいかな?」
「何? こっちはとーっても急ぎたいんだけど?」
「たぶんなんだけど、さっきの大声でばれたと思うよ。後ろを見ればセバスチャンさんがいると思う」
ジュリアちゃんは無言になる。そして数秒後にグイッと身体を引き寄せられた。
視界が広がると、そこにはいつもと違ってちょっと怒っているセバスチャンさんが立っていた。
「く、来るな! 来たらこいつを殺すぞ!」
「それが勇者のやることですか? かなり呆れているのですが?」
私も同感。
「うるさい! こっちは手段なんて選んでいられないの! こいつを殺して首を持っていけば賞金が出るのよ!」
「勇者がお金に目が眩んでいるのですか? そこら辺にいるゴロツキよりもタチが悪い」
「うちは貧乏なのよ! 私が稼がなきゃいけないの!」
なんだか話がよくわからない方向に行き始めている。
えっと、つまりジュリアちゃんのおうちは貧乏ってことでいいのかな?
「そんなお家事情なんて知りませんよ。さあ、マオ様を離してください。今ならデコピンだけですませてあげますから」
「いやよ! こいつは絶対に殺すんだから!」
かわいい見た目でかなり怖いことをいうジュリアちゃん。このままじゃあ私、殺されちゃうのかなぁ?
「ねぇ、ジュリアちゃん」
「何?」
「お金で困っているなら、協力してあげるよ? さすがにお金そのものは上げられないけど、働く場所とかはどうにかなると思う」
「ふん! アンタなんかに頼らないわよ! それにお金は今すぐ必要なの!」
うーん、このままじゃあ話は平行線かも。セバスチャンさんの顔も険しくなってきているしどうにかしないと。
「さあ、私のためにも死んでもらうわよ。魔王!」
「やだよー。それに私は死なないと思うよ?」
だって、危なくなったら天使さんが助けてくれるんだもん。でもそうなったら力の制御はできなさそう。
「この、世界の敵め!」
ジュリアちゃんが何かをしようとした瞬間、その手首に何かがかかる。それは魔法陣といえばいいのかな? 手首が拘束されたみたいで、ジュリアちゃんは果物ナイフを振り下ろすことができなくなっていた。
「いい加減にしてもらえますか?」
怖い顔で近づいてくるセバスチャンさん。ジュリアちゃんはキッと睨みつけるけど、セバスチャンさんは何事もなかったかのように私を解放してくれた。
「あなたの家がどれほど大変なのかわかりませんが、だからといってマオ様を殺させる訳にはいきません。この方は我々にとって大切な存在です」
「ふん! かつて勇者だった男の孫が何を偉そうに。それじゃあ偉大なる勇者の顔が浮かばれないわよ!」
偉大なる勇者?
私がついセバスチャンさんに顔を向けると、ちょっと困ったように笑っていた。そしてジュリアちゃんの前に立ち、そのまま額にデコピンをしていた。
「ったー」
「それはもう昔の話ですよ。それに私は執事です。ですから、関係ないことですよ」
果物ナイフを取り上げて手首の拘束を解くセバスチャンさん。優しい顔をしながら「食事をしますよ」と言ってジュリアちゃんを無理矢理引っ張っていった。
何だろう。今まで見たことがない顔だ。どこか困っていたようにも見えたけど、どうしたんだろう?
私はちょっと引っかかりを覚えながら二人を追いかけるように食堂へと向かっていった。
なんかかんや登場したジュリアちゃん。
彼女はどのようにして暴れるのかちょっと楽しみです(笑)
次回は明日の午前8時頃の更新予定です。




