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マオと天使と優しい執事

 ミーシャはとっても怖く笑う。

 ミーシャはとっても楽しそうに見下す。

 それは私の知っているミーシャじゃない。まるでそれは、魔王だ。


「マオちゃん、大丈夫?」


 なんて答えればいいんだろう。もーよくわからないよ。何がなんだかわかんなくて、私はどうすればいいんだろ……

 なんでミーシャがああなっちゃったの? どうしてみんな傷ついてまで戦うの?

 こんなの私が望んだことじゃないのに。


「泣いちゃダメよ。あなたは――」

「好きで魔王になったんじゃないです……。私は、こんなの――」


 もーいやだ。魔王なんていやだ。大切な人が傷ついたり、変わったりするところなんて見たくないよ。


「しっかりしなさい!」


 私がそんな風に思って泣いていると、ウィンディさんが大声を上げた。思わず顔を上げてしまう。するとウィンディさんは、まっすぐと私を見ていたんだ。


「あなたはみんなに言ったわよね? 『私達の国を、大切なものを、守るために!』って。あなたはあなただけの命が惜しいからそんなことを言ったんじゃないでしょ? だから一緒に戦おうって言ったんでしょ!?」


 ウィンディさんは私を叱ってくれる。それはとんでもなく元気になる言葉だ。だから私に、最後のダメ出しをしてくれる。


「なら、立ちなさい。相手がどんな奴でも、あなたはあなたとみんなのために戦わなきゃダメよ!」


 そうだ。私はみんなを守りたい。

 セバスチャンさんも、シィちゃんも、ゴブタさんも、カアたんも戦ってくれているんだ。なら泣いている暇なんてない!


「ごめん、ウィンディさん。私、泣き虫だったよ」

「こういう時はありがとうって言うのよ。さて、戦況もいよいよ大詰めみたいだし、最後の総力戦といきましょうか」

「うん!」


 戦況はまだこっちが有利。でもいつひっくり返されるかわからない。だからこそ私達が動かなきゃいけないんだ。


「行くわよ、マオちゃん」

「はい!」


 水晶にはミーシャと対峙しているセバスチャンさんがいた。いつもと変わらない笑顔。でもどこか引きつっているようにも見えた。


◆◆魔王城城門前◆◆


 町は、ひどいことになっていた。まだそんなに見学していないのに、建物とかかなり壊されている。せっかく綺麗な町だったのに、とってももったいない。

 ふと、歩いていると泣いている男の子がいた。たぶん、逃げる時に転んで足をすりむいちゃったんだろう。


「大丈夫?」


 声をかけてみるけど、男の子は泣いたままだった。相当痛いんだろうなぁ。でも何だろう、とても微笑ましい。


「男の子なんだから泣いちゃダメだよ」


 そういって私は息を吸った。そしてケガをした膝に手を添えて念じる。途端に傷は塞がっていって、男の子は泣くのをやめてくれた。


「これでもう大丈夫」


 笑ってあげると男の子は嬉しそうに笑い返してくれた。そんな笑顔を見るととても嬉しくなっちゃう。


「マオちゃん、急ぐわよ」


 ウィンディさんに急かされちゃう私。慌てて返事をして駆けていくと、すぐ先に城門があった。門はもうボロボロで機能していない。たぶん、中にはたくさんの兵隊さんが入っちゃったのかもしれない。


「さて、私はこれからゴミ掃除をしてくるわ。一人で行ける?」

「はい、大丈夫です」


 私は、みんなを守る魔王だ。だから泣いてばかりいちゃいけないの。

 みんなが私を守ってくれているように、私だってみんなを守りたい。

 だから、戦うんだ。


「よろしい。帰ったら一緒に洗いっこよ」


 ウィンディさんはそう言って手を振ってくれた。私は前を向く。戦っているみんなのためにも、絶対にミーシャをどうにかする。そうすればたぶん、どうにかなる。


「よし、行くぞ!」


 戦場は近い。みんなが戦っているその場所へ、私は飛び込んだ。


◆◆城門前戦場◆◆


 広がるのは敵味方問わずに倒れているひどい光景だ。その真ん中で戦っている影がある。それはセバスチャンさんとミーシャ。二人はボロボロになってもぶつかり合っている。

 私は走る。みんなを助けるために、ミーシャと戦うために。

 そして叫んだんだ。


「セバスチャンさん!」


 直後に二つの影は私へと向かってきた。片方は私でもわかるくらい殺気を放って飛び込んでくる。でも、そんなの気にしない。


「天使さん!」


 だって私には、みんながいる。

 私はセバスチャンさんを援護するために紋章を発動させる。すると突撃していたミーシャの勢いがなくなった。でもミーシャは天使さんを払って私へ突っ込んでくる。そのまま隠し持っていた短剣を出し、私の胸に突き刺そうとした。


「させねぇどぉー!」


 だけどそれは、近くで倒れていたベアッタさんが身体を盾にして防いでくれる。そしてそのままミーシャを後ろへと殴り飛ばした。

 それに追撃をかけるようにしたっぱメイド隊のニィちゃんとミィちゃんが飛びかかる。拳と大きづちが突き刺さった後、シィちゃんが雷を落とした。

 でも、ミーシャは立ち上がる。まるで何事もなかったかのように笑っていた。さすがに恐ろしさを覚えちゃう。でも、私は逃げない。


『ハハハ! 今の魔王軍はこんなもんか? 弱くて情けねぇぜ!』

「弱くなんかない。私達は、あなたなんかよりも強い!」


 天使さんが私の呼びかけに応えて攻撃する。でもそれはバリアみたいな何かで防がれてしまった。


『ハッ! 一番弱い紋章を使って強いだと? 笑わせるな!』


 圧倒的な力。

 圧倒的な恐怖。

 でも、そんなものに負けるつもりはない。


「全く、無茶をしますね」


 私には、みんなには、いつも隣にセバスチャンさんがいる。

 だから私は、みんなは、安心して楽しい時間を過ごせるんだ。


「あれはかつての魔王が乗り移った人間ですよ? それを知っててご無礼を働いているのですか?」

「関係ないよ。だって、今私が魔王だから」

「つくづく呆れますよ。まあ、百点満点の回答ですがね」


 私はセバスチャンさんを見た。たぶん、今のままじゃあミーシャを助けられない。みんなだって守れない。だから、頼むんだ。


「命令します、セバスチャン。私と、キスをしてください」


 ロマンチックなキスじゃなくてもいい。ただみんなを、ミーシャを助けられるならそれでいいんだ。

 そんな想いが伝わったのか、セバスチャンさんは私を優しく引き寄せてくれた。そしていつもの笑顔でこう答えてくれる。


「はい、かしこまりました。我が主よ」


 あの時とは違う、甘い口づけ。

 あの時とは違う、熱い感情。

 感情が高ぶると同時に天使さんが色づいていく。ほのかに赤い髪に、青い衣、そして金色の翼。そんな姿になった天使さんは、まとっていた光を一気に解き放った。

 途端にセバスチャンさんの傷が塞がっていく。みんなの傷も塞がっていく。たぶん、傷ついたみんなの傷は塞がったと思う。

 それだけ天使さんは、私の想いを叶えてくれた。


『この力は――』


 ミーシャは驚く。途端に覆っていたバリアが弾け飛んでいた。うろたえているミーシャだけど、私はそんなの気にしない。

 ただ許せないから、ミーシャに乗り移った魔王に言葉をかけたんだ。


「ミーシャ、ううん魔王。私は、あなたを許しません。どんなに謝っても、泣いても、絶対に許さないから!」

『ケッ! 最弱がほざくな!』


 魔王は突撃してくる。でもそれを真正面からゴブタさんが受け止めてくれる。

 勢いが完全になくなったところで、ゴブタさんは空へと放り投げた。途端に魔法や砲撃、そして矢が飛んでいった。

 勝負は決まっている。でもセバスチャンさんが前に出た。


「魔王を倒すのは勇者がセオリーですからね。ちょっとだけですが、本職に戻らせていただきますよ」


 セバスチャンさんは落ちていた剣を取る。そして落ちてくるミーシャへと駆けて行った。


『クソが。クソがぁぁ!』


 セバスチャンさんはミーシャの身体を斬った。途端に黒い何かが剣に集まっていって、それが全て集まると同時にミーシャは静かな音を立てて落ちた。

 ちょっとだけ静寂が支配する。でもセバスチャンさんはすぐに剣を高々に上げて、こう宣言したんだ。


「我々の勝利だ!」


 みんな、雄叫びを上げた。私はその光景がとても嬉しくて、腰が抜けちゃったんだ。

 こうして私達は勝利を収める。みんなで勝ち取った勝利だった。


マオちゃんとセバスチャン、本気出しすぎ(笑)

こうして戦いに勝った魔王軍。ミーシャを助けることができてさらにめでたしめでたし。

でも、何かを忘れている魔王軍だった。


次回は本日の午後9時頃に更新予定です。

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