第2話 執事さんと一緒にお勉強
「さて、魔王さま。本日は世界の在り方について勉強していただきます」
うう、遊びたいよー
でも、教育は受けたくないし、というか危なさそうだし。
「聞いてますか? 魔王さま?」
「き、聞いてます聞いてます!」
こうなったら真面目に受けて早く勉強を終わらせよう。そうしなきゃ遊べない。
「では、あなたの現状をお教えしましょう。あなたは以前、どこにでもいる女の子でした。ですが、今は魔王であります。この辺りはご理解していますか?」
「うーん、なんでかわからないけど魔王になっちゃったんだよね? というか、どうして私が魔王になっちゃったの?」
「魔王に選ばれる条件は二つあります。一つは一度死んでしまったこと。二つは強大な魔力を受け止める器があること。あなたはこの二つを満たしたと思われるので、魔王になれたと思います」
そうなんだ。つまり私は一回死んじゃって、しかもすっごい魔力を受け止めることができたから魔王になれたんだ。
「……あれ?」
ちょっと待って。一回死んじゃうってのが条件にあったよね?
つまりそれって、私は死んじゃったってこと?
「はい。あなたは一度死んでおられます。なかなかにすごい寝起きでしたよ?」
うっそー! 私、死んじゃってたの!?
なんで、どうして!? 何があって私は死んだの!?
「ちなみに蘇るまで七年は経っておりますよ」
「そんなに時間が経ってるの!?」
どうしてもっと早く蘇らせてくれなかったの? お母さんとミーシャが心配だよ!
あ、でも七年も経っているってことは、私はその分の成長を――
「ちなみに身体は死んだ時と変わりありません」
そんな……、何もかもがちんちくりんだよ。
身体も、胸も、どれもとても小さい。
「では、勉強を続けましょうか」
「ちょっとは気遣ってよ!」
セバスチャンさんはただ微笑むだけで、それ以上のことは言わなかった。
うう、人の心を踏み荒らしておきながらぁー
「さて、これから教えるのは現在の世界情勢です。よろしいですか?」
「はい」
ちょっと拗ねながら返事をする。するとセバスチャンさんは、ちょっと困ったように笑っていた。
「この世界地図を見てください」
そういってセバスチャンさんは世界地図の真ん中を指した。
そこには三角に近い小さな島が描かれている。
「まずここが現在、私達が暮らしている島、ゴルディアートです。いわゆる魔王さまの領地と言いましょう」
「ちっさ! え、魔王ってあの魔王でしょ? みんなからとても恐れられている魔王でしょ? なんでこんなに小さいの!?」
「簡単に説明すると前任者のせいです。彼は魔王でありながらたくさんの人々に騙され、挙句の果てに領地を渡してしまった。今や魔王は単なる金づるとしか考えられておりません」
「うっそー! 私の記憶じゃ、とんでもなく恐れられていたけど!?」
「それはもはや古い情報です。常に最先端の情報を手に入れないと時代遅れになりますよ?」
時代遅れって……。私、さっき蘇ったばかりなんだけど。
「さて、こんな事態を打開するためにもあなたに魔王になってもらったんですが」
セバスチャンさんは私の身体をジロジロと見回してくる。思わずジトッとした目で「なんですか?」と返すと、セバスチャンさんはちょっと残念そうな表情を浮かべた。
「何もかも慎ましい。さすが子供の身体ですね。これではお色気攻撃は皆無に等しい」
むきっ!
この人は何なんですか!
確かに私は胸ないけどさ!
「ま、だからこそ知識を身につけてもらいたいのです。知識とは己を守る知恵を構成する素材であります。ゆえに、まずは初歩中の初歩を覚えてもらいますよ!」
それからセバスチャンさんからとても熱が入った指導を受ける。
まず魔王は今人々に騙されやすいお人よしというイメージがついているらしい。だから勇者や王国の兵隊よりも小汚くとても悪い商人が訪れることが多い。
また、案外私達と交流をしている国もあるらしいけどどれも信用がならないとか。特に西側にある帝国レッドボーグって国が危険だってセバスチャンさんは言ってた。
こうして見ると、どこもかしこも思惑だらけで信用にならないなぁー。なんか世界的に経済があまりよろしくないみたいだし、それにいつどこが戦争を起こして私達を巻き込むかわからないし。
「以上です。ご質問はありますか?」
「はいはーい。思ったんですけどどうして私達、いわゆる魔王に他の国は親交をしてくれるんですか? 魔王って世界の敵じゃないですか」
「ああ、それは簡単ですよ。まず理由は三つあります」
「三つですか?」
「まず一つ、先ほども言いましたが前任者のせいで魔王さまは金づるだと思われております。だから困ったら魔王へ、というイメージがついているとも言えますね。かつてほどの力がないとはいえ、世界にケンカを売るぐらいはできると思われています。ですがそれは逆に言いますと敵にしたら厄介という意味にもなるんですよ」
「へ、へぇー」
私、そんな力ないんだけど……
「二つ目、これはある意味前任者のおかげですね。いろいろな国を助けていたからこそ親交ができたと言えます。私としてはとても不満ではありますが、助かった国は数えきれないほどございます。ゆえにその恩義で我々と親交を深めてくれている国も少なからずあるのです」
なんだかそれを聞いていると、前の魔王さまってとてもいい人だったんだなぁ。
いっそのこと普通の王様になればよかったのに。
「そして三つ目。これが一番の重要なポイントです。各国は確かに我々をまだ恐れています。ですが、いやだからこそ世界的な戦争が起きた場合にやろうと思われていることですよ」
「それって何なんですか?」
セバスチャンさんは目を鋭くさせる。そしてゆっくりと息を吐き、呼吸を整えてから答えてくれた。
「魔王とは全ての悪の根源。つまり、戦争が起きた場合はその悪にされるんですよ。いわゆる絶対的な悪です」
それはつまり、なんでもかんでも私のせいにされるということ?
え? 何それ? 理不尽過ぎない?
「ちょ、ちょっと待ってよ! なんでそんなこと――」
「魔王とは嫌われ者です。そもそもどういった存在なのか、あなたでも知っているでしょ?」
確かにどんな物語でも魔王は嫌われ者だった。幼い頃に読んだ絵本だって、いろいろな伝説でも魔王は悪者だ。
だからこそ勇者という人が出て、魔王を倒す。それが当たり前だと思っていたけど、いざ魔王になるとその当たり前が怖くなる。
そもそも私、何もしてないよ……?
「安心してください」
私が大きな絶望に打ちひしがれていると、セバスチャンさんが手を取ってくれた。
「何があっても私が守りますよ」
その笑顔はとても頼りがいがあるもの。でも何だろう、どこか悲しそうに見えてしまった。
だからかな、私は無理矢理にでも笑っちゃった。
「さて、そろそろ勉強は終わりましょうか」
「やったー!」
勉強が終わったー! これでたくさん遊べるぞー!
「次は戦闘訓練をします。魔王たるとも、時には勇ましく先陣を切って特攻をしなければなりませんからね」
「えぇえええぇぇええぇぇぇ!」
私の地獄はまだ続く。それをセバスチャンさんはどこか楽しんでいるように見えた。
お読みいただきありがとうございます。
楽しんでいただけているのであればとても嬉しいです。
次は午後5時の更新予定です。
2017/02/24
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