恋多き精霊さんの悩み相談
カアたんを倒したコンビは無事に森を抜けて精霊の滝へと着きました。そこにはたくさんの飛びはねている鮭がいて、まさに取り放題って感じだ。
『すごい、すごいですよー!』
『取り放題じゃない。これならベアッタにたくさん食べさせてあげられそうね』
二人はとても目を輝かせて喜んでいた。私もこんな光景を見たらたぶんすっごく喜ぶと思うなぁ。
「あら、何かいるわよ」
何かに気づいたウィンディさんが映像を移し替える。するとそこには、シクシクと泣いている人っぽい何かが浮いていた。
羽衣があって、青いドレスを着ているその女の人は何だかとても悲しそうだ。
「あれは滝の主のカランですね。いつも恋をしては失恋をする恋多き精霊です」
「へぇー、精霊も恋をするんだ」
「ええ。ただ彼女の場合は特別ですよ。彼女の場合、人間でも魔物でも好きになったら恋をします」
「へ、へぇー」
まさに恋多き精霊。でも種族を超えた愛ってあまり結ばれたことがないらしいって聞くんだけど。
あ、カランさんが二人に気づいた。
『あら、あなた達こんな所で何をしているの?』
『うふふ、実は今が旬の鮭を取りに来たの』
『僕達、入隊試験をしていてその一次試験に合格するために必要なんですよ』
『あらあら、もしかしてベアッタが出したお題かしら? 大変ねぇー、彼は冬眠から覚めたら最初に食べるものだから、いいものを取っていってあげてね』
そういってカランさんはまた塞ぎ込んだ。そんな姿を見ているからか、二人がとても心配そうにしている。どうするんだろうって思っていると二人はカランさんに訊ね始めた。
『あのー、精霊さん。どうして泣いているんですか?』
『とーっても気になるから、いいかしら?』
『ん? ああ、ごめんなさい。ちょっといいなと思っていたバケモノにフラれちゃってね。それで少し落ち込んでいたの』
『へぇー、バケモノと恋をしたんですか。それって一体どんなバケモノだったんですか?』
すごく興味ありそうにスライムさんが訊ねる。するとカランさんはちょっと恥ずかしげにしながらそのバケモノについて話し始めた。
『えっと、彼はとてもすてきなバケモノなの。ただ包丁とか持つと性格が豹変しちゃうのが難点かな。でも作ってくれる料理はとても美味しくて、あと不器用だけど優しいの』
『いいバケモノじゃない。でもどうして振られちゃったのよ?』
『住む世界が違う。それに万が一があったら守りきれないって言われちゃった。でも、もし私のことを受け入れてくれたなら一緒に苦労を分かち合いたかったなぁー』
『もー、とーってももったいない精霊さんね』
『そうです! いい相手を見つけて精霊さんを振ったバケモノを見返してやりましょうよ!』
うんうん。いいことを言うよ、スライムさん。
それよりもカランさんを振ったバケモノって誰なんだろう? 私の知る限りだとカアたんしかいないんだけど。
『それよりもあなたを振ったバケモノってどんな名前なの?』
『カアたんと言います。とってもいいバケモノなんですけど』
カアたんなの!?
え? カランさんが恋をしたバケモノってカアたん!?
うそー。なんでカランさんカアたんに恋をしたの? というかどうして相手がカアたんなんだろ?
「カアたんはああ見えて結構豆ですからね。たぶんそこに惚れられたんでしょう」
「そうなんだ。意外だなぁー」
「ただカアたんは元々裏社会で生きてきた料理人ですからね。だから彼女の身を案じて振ったのでしょう」
裏社会って、なんだか怖い。
『あら、そのバケモノってさっき私達が――』
『そうなんですかー! 大変ですね、精霊さん。でも諦めないでください。頑張れば想いは届くと思います!』
スライムさんが慌てて白い髪の男の人の口を塞いだ。うん、私も同じ立場だったらそうすると思う。
『ありがとね。えっと、あなたは何ていうお名前なの?』
『はい! スライムのスラートです!』
『スラート君ね。うん、覚えておくわ』
クスリと微笑みながら涙を拭うカランさん。スラートくんはそんなカランさんに満面の笑みを見せていた。
そんなスラート君を退かす白い髪の男の人。ちょっと苦しかったのか、スラート君を睨みつけている。
『あ、お話聞いてくれてありがとう。お礼に鮭を取ってあげるね』
そういってカランさんは人さし指を軽く動かした。直後に渦が起きて、それが勢いよく競り上がっていく。そして二人の足元にピチピチと跳ねている鮭がいた。
『ありがとうございます!』
『もー、とんでもない大盤振る舞いね!』
とても活きがいい鮭を見て、二人は喜んでいる。
ひとまず二人は第一次試験を突破は決定かな。よかったよかった。
「にしても――」
ゴルディアートって個性的な人や魔物、精霊にバケモノが多いなぁ。よく国として成り立っていると思う。
頑張らなきゃいけないな、私。
なぜカアたん!?
私にもわかりません(笑)
次回は本日の午後3時に更新予定です。




