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ダーカーさんと切り裂きカアたん

『ウサギの皮を剥いで内臓を取り出してー♪』


 カアたんの歌声が響き渡る。たぶん普通に料理しているだけだと思うんだけど、元の状態を知っている私達からしてはとても複雑な気分になってしまう。

 ああ、モグラウサギさん。どうしてあなたはそんな姿になってしまったのですか。もー今晩のメインディッシュに決定です。


「それにしても生々しいわね。あんなに血まみれになって、どうして楽しめるのかしら?」

「さすがは切り裂きカアたんですね。かつての伝説は健在です」

「私、お昼ご飯も食べたくないんだけど……」


 全員が私の感想に頷いていた。それにしてもカアたん、よくあんなにスムーズにさばいていけるなぁ。さすが料理人と言えばいいのかな。今は殺戮者としか表現できないけど。


『さあて、焼くか』

「おや、炎の魔術書を取り出しましたね。焼くのでしょうか?」

「もしかして食べるんじゃない? ほら、持っていた塩コショウで味付けしているし」

「今食べちゃうの!? え? え?」


 カアたんは適当に拾ってきた木の枝に火をつける。そして即席のお肉丸焼きセットを使って焼き始めた。

 響き渡るカアたんの鼻歌。どうやらホントに食べるつもりらしい。


「しかし、この状況はよろしくありませんね」

「どうしてですか? 私達、モグラウサギさんを食べずにすみますよ?」

「いえ、そういう心配をしているのではありません」


 じゃあどういう心配をしているんだろう?

 あ、なんかとても美味しそうな煙を上げている。その煙は風向きからしてさっきのパーティに向かってるなぁ。


『あら、この匂いは何かしら?』

『とても美味しそうな匂いですね。行ってみましょう』


 パーティがカアたんに近づいていく。そしてそのままばったり鉢合わせた。


『あん? なんだてめぇら』

『あなたこそ何者よ?』

『ケッ、俺はカアたんだ。さっき捕まえたモグラウサギを食っている所なんだから邪魔すんなよ』


 パーティが無言になる。そんなこと気にせず頬張るカアたんは実に美味しそうだ。

 ああ、セバスチャンさんが言っていたことがわかった気がする。なんだかとっても危ない気がしてきた。


『あなた、さっきなんて言った?』

『あん?』

『よくもモッギーを食べたわね!』


 うわぁ……、完全にぶちギレたよ。カアたんはカアたんで鉈を手にしたし、とても危ない状況だ。


『スラート、あいつを全力で叩きのめすわよ!』

『はい! モッギーの仇を取りましょう!』


 どちらも戦闘する気満々だ。このままじゃあ血で血を洗う戦いになりそう。


「せ、セバスチャンさん、これ止めないとヤバいんじゃあ……」

「いえ、面白くなってきました。これは見ものですよ」


 え? どうしてそんな反応になるんですか?

 よくわからないけどとても目を煌めかせていますよ、セバスチャンさん?


「そうねぇ、このカッパも黒い男もよくはわからないけど実力は互角ってところかしら。勝負の行方はスライムが支援できるかどうかで決まるかもね」

「見た限り、スライムはド素人ですね。たいした援護はできないと思います。ですが素人だからこそ何をしでかすかわからないと言えるでしょう」


 なんでそんなに解説をできるんですか。私、全くついていけないんですけど。


『ケッケッケッ、俺にケンカを売ろうとはなかなかいい根性をしているな、兄ちゃんよぉ』

『ふん、あなたみたいなカッパになんて負けないわ。そう、なぜなら私は、ファッションリーダーだから!』


 ファッションリーダーって、強いんだっけ?


『いいぜ、その服ごと斬り刻んでやるよ。見るも無残な姿にしてやるぜ!』


 カアたんはそう宣言して飛びかかった。途端に白い髪の男の人は背中に背負っていた剣を抜く。そして振り下ろされた鉈を受け止め、力任せに弾き返した。


「おお、あのカアたんに力で勝ちますか」


 セバスチャンさんが感心していると、カアたんはバランスを崩しながらも地面を蹴った。するとそこにあった石ころが蹴られ、そのまま白い髪の男の人の左肩を直撃する。


「やるわね、あのカッパ」


 さすがに痛かったのか、白い髪の男の人がよろめいてしまう。するとカアたんはすぐに体勢を立て直して白い髪の男の人に飛びかかった。


『ケッケッケッ!』


 絶体絶命だ! そう思っていると全然戦闘に参加していなかったスライムさんがカアたんの脇腹へ体当たりした。


「おおっ」

「あらあら!?」


 カアたんが苦しそうな声を上げて落ちていく。その瞬間にスライムさんが声を上げた。


『ダーカーさん! 今です!』


 叫ばれて白い髪の男の人が体勢を立て直す。そしてそのまま落ちてきたカアたんを斬った。


『ぐえー!』


 カアたんの皿が割れる。そしてそのまま動けなくなり、音を立てて落ちたのだった。


『ふん、他愛もないわ』


 ものすごくピンチだった気がするけど、白い髪の男の人はカッコつけていた。

 それにしてもすごい戦いだったなぁ。というか、あのカアたんを倒しちゃうなんて。このコンビ、意外と強いかも。


「いい戦いでした」

「そうね。こんなにもワクワクしたのは久しぶりよ」


 なんだかわからないけど、とても胸がスッキリした。きっとセバスチャンさん達も同じ思いなんだろう。


「それよりも問題が一つ出てしまいましたね」

「何がですか?」

「カアたんが倒されたので、しばらくご飯はまともなものが出ません」

「あ」


 そっか。カアたんは魔王城のコックさんだった。

 こうしてカアたんは入隊試験での戦いで、手痛い敗北をする。あとでリフィルさんに手当てを受けていたけど、とても鼻の下を伸ばしている姿を私は見るのだった。


マオちゃんのご飯がとても貧相になりました。

カアたんは実は偉大なのだよ!


次回は明日の午前8時頃に更新予定です。

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