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さいしょの試験

 うわー、たくさんの魔物と人が集まっているよー。中庭が埋まっちゃうぐらいたくさんいてびっくり。これ全部魔王軍に入隊希望なのかな?

 だとしたら結構な人気だなぁ。魔王軍、弱体化したって言っているけどこんなに集まったのならちゃんと補給できるんじゃないかな?


「ふむ、あまりいい者はいませんね」

「そうねぇ、どれも弱いのばっかりね」


 あれ? 二人共ここにいる人達の強さがわかるの?

 何気なく目を元に戻す。するとそこにいるのはスライムやゴブリン、モグラみたいなウサギさんに、とてもなよなよした褐色の男の人、あとは触手さんといったものばかりだった。

 何だろう、素人目にもわかるような弱そうなのばっかりだ。


「今回はいい収穫はなさそうです」

「噂は聞いていたけど、結構な人気ね」

「あなたには言われたくありませんよ」


 あー、またセバスチャンさんとウィンディさんが目をバチバチさせているよ。こんな所でケンカとかしないよね?

 にしても、ホントに弱そうなのばっかだなぁ。これだと補強の意味がない気がする。


「あっ」


 なんかすごい体格のいい人がいる。ヴァンさんよりも背が高くて、とてもムキムキだ。えっと、見た感じ人間っぽいかな。褐色の肌で、白い髪をしていて、金色の瞳を持ってて。

 うわー、いかにも魔王って感じの出で立ちだ。全身黒づくめじゃなかったらもっとカッコいいんだろうなぁ。

 あ、目があった。うわ、すごい睨んできたよ! うわー、なんか怖いなぁー。なんかちょっと近寄りがたい気がしてきた。


「待たせたな、てめぇら!」


 白い髪の男の人を見つめていると、とてもダンディーな声が響き渡った。目を向けるとそこには闘魂ハチマキをして竹刀を持ったゴブリンさんとクマのベアッタさんがいる。

 とんでもない身長さがあるなぁって思っていると、ゴブリンさんは持っていた竹刀を地面へと勢いよく叩きつけた。

 響き渡る心地いい音。それを聞いた志願者たちは驚いたかのように身体をビクつかせる。


「俺の名前はキャップのゴブタだ! てめぇらを採用した時には隊長となるゴブリンでもある。いいか、うちは魔王軍。弱い奴はいらねぇ! だが、これから出す試験に合格できない奴はもっといらねぇんだ! わかったか? わかったら返事しろぉー!」


 おお、いかにも鬼隊長みたいなゴブリンさんだ。うわー、みんな迫力に押されて若干引いているよ。いかにも弱そうな魔物や人ばっかだからなぁ。大丈夫かな?


「さて、早速だが試験を行う。何、安心しろ。どんなバカでもできる試験だ」


 ゴブタさんはそう言ってベアッタさんに目配せをする。するとベアッタさんはゆっくりと前に出て、鼻から大きな息を吐き出した。

 一体何をするんだろう? もしかしてベアッタさんと手合せするのかな?


「まず初めは、ベアッタとコミュニケーションを取ってもらう。以上!」


 ……はい?

 えっと、ゴブタさん? それは一体どういう試験なんですか? 誇らしげにしないで説明してくださいよ。ほら、集まった魔物や人がとても戸惑ってますよ?


「ブシー、友達作るぞー!」


 よくわからないけど、ベアッタさんすごくやる気満々だ。

 大丈夫かなぁ? この試験。すごく不安を覚えるんだけど。


「最初から飛ばしますねー」

「あのクマさんと上手くコミュニケーション取れるのかしら?」

「ほぼ無理でしょう」

「あら、やっぱり?」


 あ、あれ? なんで二人共わかりきったように言うの? というかわからないの私だけ?

 ま、まあ、見守っていれば試験内容がわかるかも。


「あ、あの」

「おぅ、なんだそこのスライム」

「え、ええと、その、好きな食べ物は何ですか?」


 すごくオーソドックス! みんなすごく注目しているよ。

 でもベアッタさんの好きなものって気になるな。一体何を食べるんだろう?


「ああ、俺っちの好きなものは精霊の滝を上ってくる鮭だ。今はちょうど脂の乗ったやつが取れるぞー」

「そ、そうなんですか。それって美味しいんですか?」

「ああ、とびきりだ」


 精霊の滝? えっと確か、この裏にある森を抜けた所にあるって地図に描いてたなぁ。

 地図によるととっても綺麗な滝で、何かをすると精霊さんが現れるって書いてあった気がする。


「そうだなぁ、今が旬のそいつを食べたくなってきたぞー。もし捕まえて持ってきてくれたら第一次試験を合格させてやってもいいぞぉー」


 それを聞いた志願者達は目の色を変えて走り出す。でもほとんどのみんなが明後日の方向に行っちゃったなぁ。

 もしかして、精霊の滝の場所を知らないのかな?


「こりゃダメだな」


 ゴブタさんが呆れている。おんなじ感じにベアッタさんもちょっとガッカリしているよ。


「焦って肝心なことが見えていませんね」

「どういうことですか?」

「戦場とは常に状況変化が起きます。だから臨機応変が必要です。ですがそれよりも大切なのが上官への報告です。特に指揮を執る方には、現場がどうなっているか連絡しなければなりませんよ。この試験はその意味合いを込めて行われているんです」


 えっと、つまりどういうことだろう?


「簡単に説明しましょう。まず今回の試験は実質ベアッタさんに美味しい鮭を届ければ合格です。ですが今走っていった者達はそれがどこにあるか聞かずに行ってしまいました。これでは重要な命令があっても、目の前の功績に目を眩んでやられてしまうのがオチです」


「でも、それは仕方ないんじゃないかな? だってわからないんだし」

「キャップは初めになんて言ったか覚えていますか?」

「えっと、ベアッタさんとのコミュニケーションを取る試験だっけ? あ――」


「そうです。コミュニケーションを取る試験でもありますから、場所を聞いてはいけないとは言っていないんですよ。その意味をちゃんと理解すれば、どこに鮭がいて、どんな危険があって、どれほど大変なのか教えてくれます」


 ほぇー、そんな意味がこの試験にあったんだぁー。ちゃんと人の話を聞いて理解するって大切だなぁ。


「まあ、ほとんどはそんなことをせずにどっかに行ってしまいましたからね。運よく正解ルートに行っても、途中でリタイアでしょう」

「うわー、なんだか残酷だなぁ」


 でもそのくらいのことをしないとやっていけないんだろう。軍隊って大変。


「しかし、キャップの意図に気づいた彼らは称賛に値しますね。一部は気づいていないと思いますが」


 ベアッタさんに目を向ける。するとそこにはさっき質問していたスライムさんとモグラみたいに地面を掘り進むウサギさん、あとちょっと怖い白い髪の男の人が前に立っていた。


「彼らはおそらく第一試験は突破するでしょうね」


 そういってセバスチャンさんは視線を外した。

 うーん、なんだか変な魔物や人が残ったなぁ。しかも少ない。大丈夫かなぁ?


採用されそうな魔物と人はどれも弱そうなやつばかり。

でも気になる強そうな人がいる。はたして試験はどんな結果を迎えるのか!?


次は本日の午後3時頃に更新予定です。

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