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勇者と触手と女の子

 うう、身体がヌルヌルしているよぉー。お洋服もドロドロになったし、とっても気持ち悪いよぉー。


「あ、ありがとうございます、魔王さま。あのままでは触手にいいようにされていました……」

「て、貞操に身を感じてたのに、何もできなかったです……」


 私も触手と戦ってた時に変な液体を被ったけど、あれ危なかったなぁ。妙に力が抜けるし、なんだか考えることができなくなっちゃったし。

 何にしてもみんなを助けることができてよかった。


「おや、触手さんは倒されてしまいましたか。とても残念です」


 セバスチャンさん、あなたは何を考えているんですか?

 ほら、ゴリンゴさんとシィちゃんにすごい睨みつけられていますよ。


「うーむ、それにしても最近あのような触手が増えてしまいましたよ」


 スライスさんがとても困ったように言葉を言い放つ。それを聞いたセバスチャンさんはこんなことを訊ねた。


「それは女性がさらわれるようになってからですか?」

「ああ。今みたいに昼間ならまだ助けようがあるんだが、夜間だと目が届かない時もあるからな。ただこいつらは直接的には関係していないかと」

「ほう。それはどうしてですか?」

「こいつらは捕まえたらその場でいろいろやってくる。それに元々はエロいことをする以外無害だからな。だから誘拐なんてことはしない」


 でも触手がいたらとても迷惑だよね。それにいつもこんな目に合わされていたら身体が持たないよ。

 うーん、どうにかしなくちゃいけないなぁ。でも根本的な原因がわからないし。

 そもそも勇者もどきってどんな人なんだろう?


「スライスさん、思ったんだけど勇者もどきってどんな人なの?」

「そうだなぁ。聞いた話ですが勇者のように振る舞っているらしいぞ」

「勇者のような振る舞い?」

「ああ、他人の家に入り壺やタンス、挙句の果てには宝箱の中身を勝手に取っていくらしい。ほかにも酒場で仲間を勧誘したり、教会に行けば生き返ったりできるとか」

「なんだかとても恐ろしいんだけど」


 すごい強敵だ。もし勇者を倒しても何度も復活してくる。そんなゾンビ戦法されたらいくら強くてもいつかやられちゃうよ。

 どうにか対策を立てなきゃ。このままじゃあこの村は触手まみれになって住みにくくなっちゃうし。


「マオ様、逃げて!」

「ふえっ?」


 シィちゃんが突然叫んだ。何だろうと思って顔を上げようとした瞬間、身体に何かが巻きついた。

 そのまま私は後ろへと引き寄せられ、身体を捕まえた触手にがんじがらめにされてしまう。


「ふえー! 何この格好!?」


 いやー! なんか足を大きく広げさせられてるし、これじゃあスカートなの中が丸見えだよぉぉ!

 やだ、どうにか足を閉じないと。


「マオ様、グッジョブです!」


 セバスチャンさんが鼻血を垂らしながら親指を立ててる。そんなに嬉しいの? 私、すごく恥ずかしいんだけど。


「何興奮しているんですか! マオ様、今助けますからね!」


 そういってシィちゃん魔法を発動させようとする。だけどその途端にシィちゃんの後ろに触手が現れて、そして――


「きゃあぁああぁぁぁ!」


 シィちゃんはあっさりまた捕まった。そのまま触手に拘束されて、またヌルヌルした液体をかけられてしまう。


「いやぁぁ、わらひこれだめぇ」


 ああ、シィちゃんが完全に動けなくなっちゃった。

 もう頼りはセバスチャンさんだけなんだけど。


「エーロ、エーロ、エーロ――」


 ダメだ、あの人完全にやる気がない!

 うう、やっぱり状況を打破するには自分でどうにかするしかないの?

 そんな中、触手がブシュッて音を立てて変な液体を吐き出した。それは当然のように私の身体にかかって、とてもヌルヌルにしていく。


「ふえぇ」


 ダメだ。これをかけられると力が途端に抜けちゃうよぉー。

 このままじゃあ何をされるかわからないし、セバスチャンさんはとてもやる気がないし。

 だ、誰か助けてぇぇ。


「待て」


 私が助けを求めた瞬間に一つの声が轟いた。目を向けるとそれは道の真ん中に立っている。

 緑色のマントを羽織り、なびかせて進んでくる。そして背中の剣を抜きながらこんなことを言い放った。


「その娘達を放せ」


 そういってその人は駆けた。瞬間的に触手達を斬っていく。途端に力をなくした触手が私達を離した。

 どうにか立ち上がろうとする私とシィちゃん。でもあの液体をかぶったせいか、思うように力が入らなくて動くことができない。

 そんな私達をまた捕まえようとする触手。だけど魔の手を伸ばそうとした瞬間に、それは切り刻まれた。


「大丈夫か? お譲ちゃん」


 その人はそんなに大きくないのに、とてもカッコよかった。そして剣を一振りして、最後の触手を簡単に倒した。


「さすがは雑魚か」


 軽い金属音を立てて剣をしまう。私はその人に見惚れていると、その人はさっきとは打って変わって屈託のない笑顔を見せてくれた。


「立てるか?」

「う、うん」


 すごいなぁ。あんなに苦労した触手を一瞬で倒すなんて、この人一体何なんだろう?

 そんなことを思っているとセバスチャンさんが軽く拍手をしていた。するとその人は途端に鋭い視線を向ける。


「さすが勇者ですね」

「ふん。貴様もその資質はあるだろうが」


 あれ? 知り合い?

 というかこの人が勇者?


「それにしても、まさかあなたがここに来ているとは。驚きましたよ」

「貴様は相変わらず魔王専属執事か。そろそろ転職したらどうだ?」

「お断りします。それよりも、あなたがここにいるとするとまた厄介なあいつがいるのですか?」

「まあな」

「あ、あのー」


 よくわからないうちに話が進んでいく。全くついていけていないとセバスチャンさんがわざとらしく声を上げて、隣に立っている本物の勇者さんを紹介してくれた。


「ああ、紹介が遅れましたね。この方は世界に三人しかいない勇者のヴァンです。私の友人であり、強くもあり比較的穏健な方でございますよ」

「はぁ……」


 なんだかすごい人なんだなぁ。とても真面目そうだし、セバスチャンさんと全く違う。

 あ、でも勇者ってことは。私、殺されちゃう!?


「それよりもセバスチャン。もしかしてこの娘が新しい魔王か?」

「ええ。マオ様でございます」


 え? 紹介しちゃうの!?

 殺されちゃうんだけど、私!?


「そうか。なかなかかわいい魔王だな」

「ええ、つい意地悪したくなりますよ」


 あ、あれ? 簡単にスルーした。

 私、魔王だよ? 勇者の宿敵だよ? 見逃してくれるの?


「安心してください、マオ様」

「シィちゃん?」

「あの方はこちらにもご理解がある方です。こちらが一方的に悪さをしなければ攻撃はしてきません。それにセバスチャンさんの友人でもございますので」


 ふーん。よくわからないけど、よかった。


「それにしても、また無茶なことをしようとしたな。大切な魔王や部下を使って原因を探ろうとはな」

「そうでもしなければいけないと思いましたからね。それに眼福でしたし」

「全く貴様は……」


 笑い合うセバスチャンさんとヴァンさん。見ているだけでとても仲がいいことがわかる。

 でも、見た限り勇者さんが誘拐犯だと見えないな。それに触手を操っているように見えなかったし。

 じゃあ一体誰なんだろう?


エロい、エロいよ!


次回は明日の午後1時に更新します。

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