便利屋の始まり 1
その朝のボスは明らかに異常な兆候を示していた。
言動は不安定で今までの俺自身の密かな統計的データ群に当てはまることもなく、病理的な因子による攻撃かとも感じ外部フレームであるメディックにまでリンクしてみたくらいだった。
まさにノーマル的に云えば狼狽し動揺している状態だったと云う事だ。
いつもの日常のように幾重ものセキュリティロックをスパイラル(最短)に通り抜けた俺は、その日も定刻五分前ジャストにオフィスのドアをくぐった。
「あっ、あああ…お早う、トロイ君…」
有り得ない言葉とその落ち着かない態度の歓迎を認識した俺は、すぐさまこの非常事態、いや異常事態を分析しようと持てるだけのデータを集めるべくリンクを開始し光速演算での解析を務めた。
「…お早うございます、ボス。失礼ですが熱でもお有りでしょうか?」
外部のリンクまで繋げ推測した結論の俺の返答は、このようなものだ。
埋もれた過去の遺物である、かつて存在した風土病の症状と20%程度シンクロ率のあった可能性からの返答だった。
「なっ、なにを言ってるんだ君は、この私がそんな訳ないじゃないか」
「ならば、結構ですけど」
(部下がその日の業務をスムーズにこなすため上司の顔色を伺うのは常識ですので)とゆう言葉は発することもなく。
このような余計な発言は、ますます上司の機嫌を損なってしまうことは、既にレクチャーずみだったからであるが。
「そんなことより、本日の予定は変更だ。君には頼みたい…、いや先ずは客の紹介からだ…そうだ最初はそれだ…」
勿論この俺はオフィス内のもう一つの存在など認識はしていたが、独り言のように途切れてしまったボスの言葉に改めて客の存在に気づいたかのような表情を顔に作り出すことにした。
「紹介しよう、…ああ名前と顔ぐらいは認識しているだろうが、開発設計部門の助っ人的臨時社員のステラだ。わたしのツインでもある。いずれ部門の正式なチーフとして人事の方から発表の予定でもあるのだが」
「ステラ、彼がわたしの右腕であるトロイだ。今は販売管理課の事後処理班の筆頭としてその手腕を振るってもらっている」
「ステラです。デ…トロイさんですね、初めましてです。彼からは色々と話は伺ってますけど」
ペコリと頭を下げたその愛くるしい姿は、人事のアップしたものと照合は完了済みではあったが、俺の演算はループしたまま止まっていた。
先程のボスの言葉に。
ツインと云うワードの処理が出来ずに。