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zuu…
凶暴で狂信的なあいつらが迫ってくる
zuu…
zuu…
「…のために俺は闘う…こんなところでは死ねない」
zuu…
「ぐふっ………」
zzu…
意識と感覚を取り戻した俺に、言葉がかけられた。
「ボディ関連のメンテナンスは完了だ、あとは頭部の換装が最後となる」
「ああ、ありがとうドクター」
「最中に寝言みたいなものをつぶやいていたな…」
「ああそれなら、ただのノイズだろう」
「今なら…それも消せるがな」
「別に構わない、何も支障などないからな」
「その姿ならちゃんと喋れるわけだが、なにも会話も不自由なフルコンバットタイプにこだわらなくてもいいだろ?」
「もう、なれちまったからな、そのスタイルに。それに死んじまった野郎の顔は頂けない」
「まあ、確かにそうだ。それじゃあ始めるぞ」
サイバノイドましてやバイオロイドでもある俺が、夢などみるはずもない。
あれは特殊バイオサイバーである俺の、行動核である死んだ男の僅かな記憶にしか過ぎない。
有機型機械である俺の中に流れる魂とも言える流動体の行動核に刻まれていた僅かな歪み、つまりただのノイズにしか過ぎないわけだ。
男の断末魔の記憶、脳髄に焼きついてしまったノイズなのだ。
本来ならば前世の記憶と呼べるものなのかもしれないが、俺自身の記憶ならば源初の記憶は丁度このラボのような施設だった。
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暗闇に明かりが灯すように虚空間に何かが生まれたように意識が芽生える。
辺りを確認しようと思い立った俺は、何気なく目を開けてみた。
「ぅおおおおお!」
目を開いた瞬間に先ず目の前に映る何もない天井を認識し、それと同時に俺自身のコンディションと俺を取り巻く環境と周りの機械音それと周り全てのビジョンとデータが、頭の中に一度に押し寄せ激しい頭痛に見舞われた。
俺は痛みと混乱でパニックに陥った。
「どうやら目覚めたようだな、キミの脳髄と神経となる流動体とAIのシンクロがまだできていないようだ。取り敢えず目を閉じるがいい、それで苦しみは軽減されるはずだ。そのうちに状況の危険度の解析が進みデータの補正が行われ馴染むはずなのだが」
頭痛の中、更に頭に大きく響いたその声に俺は従い目を閉じた。
目を閉じたことによって視覚による情報とその関連事項、何の感知だったのかは理解できなかったが無限とも思われた大量のビジョンの流入を遮断することができた。
「どうだ?調子は」
声の調子も抑えられ、頭の中が整理されてきたようだ。
言葉の示すとおり現在の状況が判断され、所謂通常のモードとなったのだろう。
目を閉じたままの俺に感じられるのは、普通に耳に入る静かな機械音だけになっていた。
「ああ、楽になってきた」
俺は、頭の中の声に同じように考える事で応えてみた。
「なら、よかろう。これからはキミがそれを望むときだけ各種センサが働くはずだ。目を開けても、もう大丈夫だろう」
俺は声に従い、ゆっくりと目を開ける。
先ほどと同じ何もない天井だ。
此処はどこだ?と疑問が沸く。
その瞬間にビジョンとデータが浮かび、聞いたこともない名称と何かの研究施設の部屋の中といったことが認識できた。
「起き上がってみたまえ」声は続いた。
言われたとおりにしようとすると、何かを探るような感覚が有り、そのあと俺はベッドと思われる場所から身体を起こすことができた。
「手足はどうだ?」
言われるたびに先程の感覚が起こり、性能調査と試験が終わったかのようにその後動き出す。
一度動いてしまえば、あとは普段通りに動かせるようだった。
普段?
そう思い浮かべた瞬間に、見知らぬ誰かの生活が幾つも映り出す。
どうやらその男の普段らしい。
「少々驚いたかもしれないが、起動に成功したらしいな。私はヴィヴァームス、キミを創った科学者だ」
そこでまた、あの声が俺の頭に語りかけてきたのだった。