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光を求めて進むもの

八刃の影で動く者達、零刃に属する一人の少年が居た

谷走タニバシリくん、これから暇?」

 都内にある、私立矢皆ヤミナ学園の中等部二年の教室で、笑顔は可愛いが何処にでも居る少女、谷本タニモト芽衣子メイコが、一人の少年に話しかけた。

 その少年、谷走鏡キョウは、即答する。

「用事がある」

 その答えに、芽衣子は凄く残念そうな顔をする。

「そう。ごめんね」

 自分の席に戻っていく芽衣子。

 すると、鏡のクラスメイトで、比較的よくはなす男子、山崎ヤマザキ景一ケイイチが話しかけて来る。

「又かよ。前もそう言って断ってたぞ」

 鏡は鞄に教科書を詰めながら鏡が答える。

「本当に用事があるのだから仕方ない」

 席を立ち、教室を出て行く鏡であった。

「芽衣子も男の趣味が悪いぜ、あんな愛想の無い男に惚れるんだからな」



 鏡は大きな溜息を吐いた。

「どうしたの?」

 いきなりの声に鏡が振り返ると、そこにはランドセルを背負った少女が居た。

「ヤヤさん、どうしてここに?」

 鏡の言葉に、その少女、白風シラカゼクラベ、愛称ヤヤが言う。

「ちょっとバトルの帰り」

 そう微笑むヤヤの頬には血が付いている。

 鏡はその血を拭って言う。

「人目もありますから、返り血位は拭ってください」

 鏡の言葉には、明確な嫌悪感が篭っていた。

「別に問題にならないよ、全ては闇のうちに片付くよ」

 その一言が鏡の胸を貫き、その痛みが更なる反発を生む。

「そうですね。ヤヤさんはそんな闇の中で好き勝手に振舞ってください」

 ヤヤの瞳にも敵意が生まれる。

「もしかして喧嘩売ってる? あちきは幾らでも買うよ」

 二人の間の緊張が高まろうとした時、鏡の携帯が震える。

 鏡が携帯を取る。

『鏡くん、急ぎの仕事よ!』

 携帯から聞こえて来る声に、鏡はまた闇で仕事をする事を悟った。

「何ですか零子レイコさん」

 即座に相手、鏡の上司に当たる人物、白水シラミズ零子が答える。

谷歩タニアユミの人間が一人、国外逃亡をしようとしているわ。必ず阻止して。細かい情報はメールで送るわ』

「了解」

 鏡は即答して電話を切ると、直ぐにメールが届く。

 それを確認して移動を開始する鏡。



「なんでヤヤさんが一緒にいるのですか?」

 電車で移動中の鏡が隣に座るヤヤに尋ねると、楽しそうな表情でヤヤが答える。

「零刃の仕事でしょう?」

 鏡が少しだけ躊躇した後頷くと、ヤヤが言う。

「正直、さっきのバトルは物足りなかったの。八刃の人間相手なら少しはましかと思ってね」

 拳を握り締めて何かを言いたいのを我慢する鏡。



「お前みたいなガキが、何でこんな危ない橋を渡ってまで海外に逃亡するんだ?」

 横浜港の倉庫の中で、見るからにヤクザ者の男の言葉に、その高校生位の少年、谷歩進ススムが答える。

「この国に居る限り、俺の先に光は無いんだ! 俺は海外で光の道を進むんだ!」

 その言葉に肩を竦ませるヤクザ風な男。

「物好きだな。だが、堅気の人間には辛いぜ、なんせ一緒に乗る奴等はたいてい人を何人も殺して居る奴等だからな」

 その言葉に進が苦笑する。

「そう言っても人間だ。あいつ等みたいな人の道なんて最初から無視している奴等とは違って怖くない」

 それを聞いて、ヤクザ風な男がいう。

「ここに居る奴等も人の道を踏み外した連中ばっかだぜ」

 脅すような言葉に進は冷静に答える。

「踏み外すまでは人間の道に居るって事でしょ。人の常識なんて無視した連中なんだよ」

『酷い言われ方だなー』

 反響して聞こえる少女の声にその場に居た誰もが慌てる。

「あそこだ!」

 一人の男が指さした先には、中学生の少年と小学生の少女、鏡とヤヤが立っていた。

 青褪める進。

「まさか、もう零刃に気付かれたのか?」

 その言葉にヤクザ風な男がいう。

「お前が怖がってたのはあんなガキか?」

 頷く進。

「常識をあざけ笑う連中だ」

 そう言いながらも必死に力を溜め始める。

 鏡はゆっくりと近づきながら言う。

「大人しく捕まれば、谷走の長も慈悲があるぞ」

 その言葉に進が首を横に振る。

「八刃に居る限り、表舞台に出れない。俺は絶対ダンスで光輝く世界に出るんだ!」

 そんな二人の間に入ってヤクザ風の男がいう。

「こいつからはもうお金を貰ってるんでね」

 そう言って拳銃を向ける。

「安心しろ、殺しやしない。ガキは意外と高く売れるんでな。特にそっちの小娘は、顔が可愛いからペド野郎には高く売れるだろうよ」

 その一言に進がヤヤの顔を見て驚愕する。

「オーガプリンセス!」

 ヤクザ風な男が進を見る。

「知り合いか?」

 進は首をおもいっきり横に振って言う。

「こっちが一方的に知ってるだけだ! 最強の鬼神の一人娘。10歳で、白風の次期長と認められた化物中の化物だ! 殺すつもりでやらないと一生ベッドから出れないぞ!」

 ヤクザ風な男が苦笑する。

「あんな小娘に何が出来るって言う……」

 ヤクザ風の言葉が途中で止まった。

 ヤヤが、近くにあった200キロはあるコンテナを担ぎ上げて居たからだ。

「準備運動と行きますか!」

 ヤヤがそれを国外脱出組の裏社会の人間達に投げる。

 当然、全員反応が良いので避けるが、パニックから回復する前に、ヤヤがその中心に居た。

「一応聞いてあげる。大人しく自首する人居る?」

 即座に拳銃を抜く男達。

「やっぱり」

 ヤヤは笑顔でその中の一人の腕に触る。

『バジリスク』

 声にならない悲鳴をあげてその男は倒れる。

 周りの男達は一斉に拳銃を撃つ。

『アテナ』

 ヤヤはそう唱えてから、掌で数十発の弾丸を受け止めた。

 言葉を無くす男達。

「安心して、殺さないから」

 そのヤヤの笑顔を見て、男達は自分達の未来を諦めた。



「予想外の事態だと思っていますね?」

 鏡の言葉に、進が言う。

「ああ、まさか直系が二人も出てくるなんて思わなかった。一人だけなら、そこのヤクザ達がやられている間に攻撃を食らわせられると思ったんだがな」

「大人しく投降して下さい」

 鏡の言葉に進が首を横に振る。

「答えは変らない! お前には才能がある。あと二年もすれば俺は勝てないだろうが、今の時点ならまだ勝ち目がある!」

 次の瞬間、進は影に消えていく。

影走エイソウ? 直系でも使える人間が少ないのに」

 鏡の呟きに答える様に、鏡の斜め後ろの柱の影から進が現れて、鏡に真っ黒な刀みたいなもので斬りかかる。

 鏡は咄嗟に横に飛びのくが、体勢を整えた時には、進は再び影に消えていく。

「分家の人間で、影走を使えるのは物凄い才能だと思いますが?」

 鏡の言葉に対して、進の声が、反響しながら返ってくる。

『そんな物は関係ない! 俺はダンサーとして生きるんだ!』

 意表をつく場所から出てくる進の攻撃を鏡は紙一重の所でかわしていく。

「キョウ! 後もう少し時間稼いでね。そしたらあちきがやるから」

 ヤヤの言葉を聞いて進が言う。

『オーガプリンセスと戦って勝てるとは思っていない。お前を倒して追跡不可能にしてから逃げさせてもらう』

 そう言って、至近距離の影、鏡の左横から進が現れる。

影刃エイバ

 鏡の言葉に答えて、進が出て来た影が伸び、進の足の腱を斬った。

 地面に倒れた進が言う。

「馬鹿な! 出てきたのを悟ってから力を込めてこんなに早く刃を出せる訳が無い!」

 進の言葉に鏡が振り向き言う。

「当然です。しかし最初から出る場所が解っていれば別です」

「読んでいたのか? 四方八方、ランダムな攻撃していた筈だ!」

 進の言葉に鏡はヤヤを指さす。

「無意識にヤヤさんに対して、私が盾になる位置から攻撃していました」

 その一言に言葉を無くす進。

「もう少し粘れないの?」

 ヤヤが不満気に最後の一人の上腕骨を粉砕しながら言う。

 そんな様子を見ていたヤクザ風の男は腰を抜かしたのか、這いながら逃げていく。

「後は任せた」

 ヤヤは興醒めした様子でそう言って帰っていった。



 鏡が地元の駅に着いたのは、夜10時過ぎだった。

「谷走くん?」

 鏡が声のする方を向くとそこには芽衣子が居た。

「用事が長引いたの?」

 芽衣子の言葉に警戒心を持つ鏡だったが、次の言葉で、要らない警戒だと知る。

「用事だって言ってたけど、長かったんだね」

 鏡は、芽衣子の誘いを断る為に用事だと言ったのを思い出して言う。

「はい」

「私は、塾。良い高校入れって親が煩いの」

 鏡は気になって周りを見ると迎えが居なかった。

「こんな時間に一人で帰るのですか?」

 照れ笑いをして芽衣子が言う。

「何時もはお父さんが迎えに来るんだけど、今日は残業で遅くなるから駄目だったの。でもラッキーだったかも」

 鏡は少し考えてから言う。

「家まで送ります」

 目を輝かせる芽衣子。

「ありがとう」



 鏡と芽衣子は夜道をゆっくり歩いていた。

「用事ってなんだったんですか?」

 鏡は考えた末、出来るだけ真実に近い事をいう事にした。

「ダンサーを目指していました親戚の人間が家出をしようとしたのです。それで年も近い私が、引きとめ役になりました」

「ダンサーって凄いよ。何で家出なんてしようとしたの?」

 芽衣子の言葉に鏡が淡々と答える。

「うちの家では、派手な仕事は望まれないのです」

 それを聞いて、芽衣子が自分の事の様に悲しい顔をする。

「そういうのまだあるの?」

「はい。うちの一族は歴史が古く、保守的ですから」

 鏡の答えを聞いて芽衣子がガッツポーズをとって言う。

「あたしは、その人を応援する」

 それに対して鏡が言う。

「無駄です。その人は事故で両足を怪我しました。もうダンサーになるのは無理でしょう」

 淡々と事故だと言う鏡の方を向く芽衣子。

「きっと大丈夫よ、家族の反対を押し切ってまでダンサーになろうとした人だもの。きっと頑張って又踊れるように成るよ」

 笑顔でそう断言する芽衣子を見て鏡が微かに微笑み言う。

「そうだと良いですね」

「そうなるに決まってるよ」



「これが、今回の報告書です」

 鏡は、表向きは、白水探偵事務所になっている零刃の事務所で、表向きは所長になっている零子に報告書を提出する。

 零子は軽く目を通して言う。

「この報告書に間違いないわね?」

 鏡は普通に頷く。

 零子は暫く鏡の顔を凝視した後、報告書に判子を押す。

「谷走の直系の貴方がそう言うのでしたら、白風の分家でしかない私に反論は無いわ。八刃の方にはこのまま提出しておきます」

 鏡はもう一度頭を下げる。

「ありがとうございます」



 谷歩進八刃抜け事件報告書



 海外逃亡を図ろうとした谷歩進を横浜で確保。

 確保の際の戦闘で、両足に重度の負傷を負わせました。

 詳細は次の通りです。



 中略



 谷歩進は、八刃の仕事に対する熱意は無く、戦闘の才能は低い上に、今回の戦闘によって出来た怪我からの復帰は絶望的と判断します。

 その為、谷歩進は、八刃より勘当するのが最善と考えられます。



 零刃所属 谷走鏡



 数年後、一人のダンサーが海外で成功した事を報じるニュースがテレビから流れるのであった。

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