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説教

僕こと(はせ) (いつき)は平凡な人生を送っていた。

勉強はそこそこ出来て、スポーツも苦手というわけでもない。ゲームや漫画のように何か特別に能力を持っているわけでもなく、どこにでもいる凡人だ。


そんな僕の周りもいたって普通で美少女の幼馴染が毎朝起こしに来てくれたり、

血のつながらない可愛い妹や美人の姉がいるわけでもなく、ましてや近所にいた美少女と子供の頃に結婚の約束をするような出来事もなく育った。


どこにでもいる一般市民、森の中にある木の一つ、大量生産された人形のような、変わり映えのしない凡人、それが僕だった……はずだ。


「もういいでしょう、お父さん。そのくらいにしてあげて」


「……そうだな」


隣に座っていた母さんが助け舟を出したのは、父さんのお説教が始まってきっかり二時間後の事だった。

話題はもちろん僕の高校受験失敗について。

最初静かに語りだした父さんは次第に饒舌になっていき、まるでヒトラーを連想させるように熱弁しだし、段々話題はそれて、受験失敗から僕の生活態度に飛び火して、そこからいくら思い出しても結びつかない上司の愚痴へと発展。

最後には戦争や、宇宙の起源について超時空ワープしたときは、もう説教が終わらないんじゃないかと危惧した。

よかった……この説教が終わって本当に良かった……!


「足を崩していいぞ」


と、父さん。

僕はふう、と二人にわからない様にひとりため息をついて安堵。

ずっとフローリングに正座をさせられていた僕の足は既に感覚がなくなり初め、少し動いただけで表現しがたい痛みが駆け抜けるようになっている。

痛みに耐えながら足を徐々に崩し、床に投げ出すようにして僕はやっと正座から解放される。


「で、どうするつもりなんだ」


いつもより低い声で父さんは僕に問う。高校受験を失敗した僕に選択肢は少ない。我が家はニートを認めていないので、自然と就職、という形になるだろう。


「いっておくが今は不況だ。この近場で就職口なんてないぞ」


思考を巡らせていると父さんが先手を打つ。


ううっ、確かに今は不況だ。仕事を選ばなければ都心にはあるかもしれないが、そこで一人暮らしを始める初期費用も僕にはない。

かといってとてもじゃないが貸してくれなんて言えない。

空気が重くなる。僕が何も言えずにいると父さんは大きくため息をついた。


「だからもっと下の高校を目指せと言っただろう。お前の偏差値でいけるレベルじゃないんだよ」


そんなことは知っている。でも、僕にはいきたい理由があったのだ。


「向上心があるのはいい。どれだけ努力していたかも知っている、だが……言いたくはないが、努力が実らなければ何の意味もない」


父さんの言葉に僕の血液の温度が瞬間的に上昇するのが分かった。だけど、何も言えない。言葉にしたいが喉から出てこない。声にならない。

怒りのあまり、というわけではない。父さんの言ってることがあまりに正しすぎて、言い返す事が出来なかった。

そのまま、ぶつける事の出来ない怒りが鎮火する。それが情けなくて、自然と視線が下を向く。

それを見て父さんはまた一つ溜息を落とす。


「まぁ、落ちてしまったのはしょうがない。中卒ではこの辺では就職口はない。かといって都会で就職するための一人暮らしの費用も出してやらん」


父さんは淡々と言葉を紡ぐ。予想していたとはいえ、冷遇に少しショックだ。まぁ、僕が悪いんだけどさ。


「と、いう訳で、お前はここに行け」


そういった父さんは一枚の紙を取り出して僕に差し出す。それはなんでもないプリント用紙。


「……これは?」


「お前がこれから行くのは私の旧知の知り合いが経営する学園だ。昔の馴染みとやらでな」


「樹の受験失敗を聞いてお父さんったら慌てて頼みこんだらし」「母さん、それは今はいいだろう」


母さんの言葉を遮る父さんの声は照れているようで、少し上ずっていた。僕はプリント用紙に目を通す。


住所と学園名だけが書かれている。


僕がこれから行くことになる学園の名。


「――真桜学園、か」

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