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 切り裂かれた幸せ。

「仲睦まじい事何よりですねー」

 突然、背後から聞き覚えのある声がした。

 ソフィアが、露骨に反応する。

「ッ!? てめえは!?」

 食べかけの焼きそばが地面にぶち撒けられるのも構わず、俺は強引にソフィアを引っ張り、前方へと逃げ出す。

「そう焦らないでくださいよー」

 しかし、一瞬にして目の前に、あの男が立ちふさがる。

 奇怪な風貌をした、ここにはあまりにも場違いな男。

 ソフィアを攫い、監禁したあのピエロが、目の前に居る。

「……また、コイツを攫いに来たのか」

 俺はピエロに向かって確認する。答えなど、とうに分かっていた。

「ええ、その通りですー。なにせこのままじゃ、私の計画が破綻してしまいますからねー。そうなると、困りますからねー」

 ピエロはまるで滑稽なものを見るかのように、毒々しい笑みを浮かべて嘲笑う。

 その滑稽を体現するものは、気持ちの悪い感情の篭った声で、

「そもそも、その子の宝具を考えると、私に使われたほうがまだ貴方もその子も幸せだと思うのですがねー」

「………………………」

 ピエロは涎のようにベタベタした声を紡ぐ。

「ま、なんにせよ、もう貴方は関わってしまいましたから、もう手遅れですが―――!!」

 いつまでもそんな言葉聞き続けられるほど、俺は我慢強くは無かった。

 ピエロに悟られぬように、マスターキーを生み出し、ピエロが完全に調子付いて来た所で、全力の突きを放つ。

 しかし、

「やれやれ、人の話は最後まで聞くって、学校で習わなかったんですかねー」

 ピエロは完全に不意を突かれたにも関わらず、鋭敏な反応で半身ずらして突きをかわした。

 完全に無防備になる。ピエロが横でニヘラとグロテスクな笑みを浮かべる。

 しかし、

 残念ながら、そこで終わるような軟弱者になったつもりなど、ない。

 俺は突きだした右腕をすぐさま回転。突きから裏拳に動きを変える。

 ピエロの腰辺りに打撃を―――、

 ふっと、ピエロの体が消える。

 しまった、後ろのソフィアは無防備だ!

 そう思い、振り返った瞬間だった。

 トン、とくぐもった足音が背後に生まれた。

 奴は頭上にテレポートしていたのか!?

 一瞬の判断で腰を屈める。頭上スレスレで拳が通過した。

 下がったついでに前転。ソフィアの足元の所で勢いを利用して立ち、強引に向きを反転。剣を構え直して、改めてピエロと向き合う。

「……そんなに、その子がいいですかねー」

 ピエロは俺の様子を見て、そんな事を言う。

 同時に、右手には光が集まり、鎖を形作っている。

「あなたは、そんなに不幸になりたいんですかー? その子の力は、貴方を不幸にしかしませんよー?」

 隣で、少女は震えていた。あの男は、きっと彼女にとって、最大のトラウマとなっているのだろう。

「ま、今さら思い直しても、遅いですがねーっ!!」

 ピエロは、光に包まれた右手を突きだす。瞬間、光が急速に収束し、黄金の鎖が生み出される。先端には槍のように切っ先の鋭い刃が付けられ、次の瞬間には俺達に向かって射出された。

 だが、そんな事はどうだっていい。

 俺は剣を振るう。次の瞬間には、鎖は光となって爆散した。

 少女を守るように、一歩踏み出し、更に剣を構え直す。

「理屈なんて、どうでもいい」

 俺はただ、コイツを守るだけだ。

 次の瞬間。

 爆発したように走り出す。

 一瞬のうちに豹変する俺の行動に、ピエロは完全に虚を突かれた。

 剣を振るっていては間に合わない。

 勢いのまま、ピエロの体に体当たりをする。

「げぅ!?」

 ピエロの口から空気が漏れる。気にせず更に突きだす。

 ゴロゴロと転がって、人がたくさんいる大通りに出た。

 周辺の人々が、転がって来た二人の男に驚くが、気にしていられる余裕は無い。

「ソフィア! 遠くに逃げろ!」

 俺の声に反応し、木陰でウロウロするソフィア。

 くそ、何を迷っているんだ。

「早く!!」

 さっきよりも大きな声で催促すると、ようやく少女は背を向けて、何処かへ走り出した。

「させませ――ぐぅっ!?」

 テレポートをしようと立ち上がるピエロを、足で蹴り倒す。

「させると思うか」

 再度剣を構え、ピエロを睨みつける。

「フフ……確かに、このままではテレポート出来ませんねー」

 テレポートは高度な演算能力を必要とする。少しでも計算を間違えたり、焦りが入ると、テレポートは失敗する危険性が高くなるのだ。テレポートさせないようにするなら、とにかく隙のない攻撃で、ピエロに余裕を与えなければ良い。

 しかし、今すぐにでもソフィアを追いかけたいであろうピエロは、焦りの一つすら見せない。

 余裕の表情で、立ち上がった。

「確かに、このまま追うのも一つの手ですがねー。ここは不確定因子を潰した方が効果的ですかねー。下手にあの子から捕まえてしまうと、無意味に希望が残って、壊れにくくなるかもしれませんしねー」

 ピエロは、両の手に鎖を生み出してブルン、と振る。動きが先にまで伝わり、スパン! と足元の地面を抉った。

「それに、」

 ピエロは少しずつ、こっちに近付きながら、不気味に言葉を紡ぎ続ける。

「貴方が死んだ方が、あの子も簡単に壊れるでしょうし、ねぇっ!!」

 ピエロは両の手の鎖を、振るうのではなく射出する。

 弾丸のように向かってくる弾丸を半身でかわし、正面から来た鎖を一閃する。

「ふふふっ、私の鎖は巻きついた人間を強制コントロールするんですよー!!」

 しめた、とでも言うように、ピエロは俺の背後を行く鎖を、俺に巻きつかせるように振るう。

 だが遅い。

 上から下に一閃した剣を、跳ね上げるように体ごと反転させて下から上へ。背後にあった鎖は一瞬にして光の粒子と化す。

 ピエロは憎しげな表情を浮かべて、俺を見てくる。

 それを見て、俺は相対するように睨みつけた。

「とりあえず、血肉踊るパーティと行きましょうかぁ!?」

「お前に、ソフィアは渡さない!!」

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