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ソフィアと衛士が触れ合い、衛士は自ら変化を感じ取っていく――

「ソフィア、何か買いたいもの、あるか?」

 霧果に相談した結果、やっぱりお祭りは計画的にではなく、無計画にブラブラしていたほうが楽しいという話だ。

 というわけで、今は特に何もせず、只々歩いているだけだった。

「あれ、食べたい」

 ソフィアが視線だけで場所を示す。

 視線を追っていくと、そこには一つの屋台が。

「マヨ焼きそばか……」

 なるほど、定番かもしれない。

 しかし行く前に値段を確認。視力が二以上なのは、こういう時に非常に役に立つ。

 一個四百円。しかし財布の中身は―――

「千円、か……」

 本当に何故、この金額で二人分も賄え、更には楽しむことが出来ると思ったのだろう。

取り敢えず、ソフィアの分だけでも買っていこう。

「すいません」

「はいよ! いくつご所望……で……?」

「? どうかしましたか?」

 何故か見覚えがある気がする、目の前で焼きそばを販売している親父は、俺を見て

「て、てめえ、なんでここにいる!!」

 あまりの大声に、引っ付いているソフィアはびくっ、と怯え、周りの人々も何事かとこちらに注目する。

「……はい? アンタ誰ですか?」

 本当に誰だかわからない。見覚えがある気がするんだが……?

「誰ですか? じゃねえよ! お前の海馬は二日分しか容量がないのか!?」

 そう言われ、ここ二日間の間に出会った人物の顔を思い出す。

 ああ、分かった。

「露出狂ですね?」

「違う! 後、嫌な思い出をほじくるんじゃねえ!」

 目の前の人は、つい最近、公然わいせつをテーマパークで働いて捕まり、釈放された人だ。

「ま、どうでもいいですけど。取り敢えず、焼きそば一つ貰えません?」

 そう言って、千円札を渡す。

「どうでもいいって――はあ、分かったよ。はい、毎度あり」

 相手は完全に怒りを通り越して呆れまでしているようだ。ま、本当にどうでもいいのだから仕方があるまい。

 焼きそばとお釣りを受け取り、取り敢えず人通りの少ない所を探す。

 首を回していると、近くに人があまりいない木陰を発見した。これは好都合だと、俺はソフィアの手を引いて、木陰に移動した。

 木陰には当然ベンチなど無かったので、地べたに座る。

「はい、これ」

 俺は買った焼きそばをソフィアに手渡す。

「食べろよ、きっと美味しいはずだからな」

 しかし少女は、

「挟む棒がない……」

 と何かを探しているようだ。挟む棒と言うと、やはり箸なのだろうか。割り箸が焼きそばのパックに付いているが、もしかしたらそれが箸だと気付いていないのかもしれない。

 しょうがない、と、俺はソフィアの持っている焼きそばのパックに挟まれている割り箸を、横からスッと引き抜く。

 驚いたソフィアが、こちらに視線を向ける。そのソフィアに見せるように、俺は割り箸を割って、二本にした。

「おお、すごい」

 驚きに目を見張るソフィア。その程度で驚かれてもと思うが、彼女は記憶喪失で、気がついた時にはもう拉致され、監禁されていたのだ。見るもの全てが驚きに満ちているとまでは言わないだろうが、それでも、多くのものが目新しいのだろう。

 箸を渡すと、少女はパックを開ける。同時に、ソースやマヨネーズの濃厚な香りが鼻孔を刺激し、空腹感が増長されてくるが、ここは我慢するしかあるまい。

 少女は焼きそばを美味しそうに頬張る。俺はそれを見て、不思議とこう思った。

 連れてきてよかった、と。

 最初は、少女の為にここに来たと思っていたが、そうでは無かったのだ。

 一番の理由は、きっと俺が、この少女とこうやって居たかったからだと思う。

 このまま、退屈なくらいに幸せな時間が、永遠に続けばいいのにと思った。

 俺は、随分と久しぶりに、平和と安寧を享受しよう、そう思えた気がした。

 暫く、焼きそばの香りで空腹感を満たしていると―――

 グゥー、と腹の底から音がなった。

 驚いてこっちを見るソフィア。少し気不味くなってしまい、俺は曖昧な笑みで誤魔化す。

「エイジ、お腹、空いてるの?」

「あ、いや、別にそういう訳じゃ――」

 そういうタイミングに限って、また腹が鳴り出す。

「ああ、確かに腹が空いた」

 さすがに誤魔化せず、正直に白状する。

「じゃあ、はい」

 するとソフィアは、あろうことか自分の食べていた焼きそばを、俺に渡してきた。

「ソフィア、良いのか?」

 思わず訊くが、ソフィアは微笑んで、

「エイジなら、良い」

 何故だか、この笑顔は、絶対に壊させてはいけない、そう感じた。

「じゃあ、頂くとしよう」

 そうして、ソフィアから焼きそばを受け取り、一口、食べた。

 ソースとマヨネーズがバランスよく相まって、とても美味しかった。

 あのオヤジ、やるじゃないか。

 そして、ソフィアに向かって、正直に一言告げた。

 「美味い」、と。

 それは、以前の俺だったら、絶対言わないような言葉。

 結局、ここまでで一番変化したのは、俺自身だったということに、ようやく気づいた。

 衛士は自分が変わったと実感し、ソフィアと共に平穏を歩む。だがそれは脆くも崩れ去ってしまう――

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