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 ついに急展開

 早く来る必要は無かったかな、と思う。


 そもそも、お目当ては終了五分前に現れるあの少女だ。

 しかし、あんまり早く来ても、ごく普通レベルのピエロのショーしか見る事は無い……と思っていたのだが。


 ボーっと、ステージを見詰めていると、唐突に視界が真っ暗になった。


 そんな馬鹿な、いくらなんでも早い。まだ十分近く残っているというのに。

 しかし、間もなく莫大な光が周辺から照射され思わず目を瞑りそうになる。


 だが、そこで俺は目を瞑らなかった。


 おかげで一瞬、一瞬だけだが見る事が出来た。



 その一瞬の間、檻が現れて、そこから少女の影が降り立ったという事と、



 その少女の影の手足が鎖らしきもので繋がれていた所を。



 莫大な光量は、轟音が静かになっていくように穏やかになり、そこには檻は無く、白い少女の手首には鎖など無い。


 だが、俺の直感は告げていた。


 宝具、だと。


 光学迷彩というものがある。


 現実にはまだ存在はしていないが、原理は分かる。ようは光の屈折率を捻じ曲げてしまえば、『鎖』という物体は視覚化することができない。

 つまりどういう事かといえば、人間の目というものはそもそも物質の色や、形を光からの情報を得て脳へと送り、視覚化している。

 しかし、例えば本来こちらへ向かう筈の光が、例えば『鎖』からの光の反射が、全て空中へと向かってしまったらどうなるか?

 答えは簡単だ。鎖を上空からでしか見る事ができない。正面から、横から、後ろから見たって、鎖から反射されている光のベクトルが全て上を向いてしまっているため、見えるのは光が普通に反射されてくる鎖より後ろのものしか見れない。

 するとどうなるか。

 ここに居る誰もが、鎖を視覚化できない。

 きっと、あの宝具はそういう『能力』を持っているのだろう。


 そして――――


 妖艶な雰囲気の、不気味な音楽と共に、少女は踊り狂う。しかし、そこには多少の狂いがある。腕や足が不自然に引っ張られるように動くのだ。それこそよく注意して見なくては分からない程の、ほんの子細なレベルで、だが。


 つまり、鎖のもう一つの能力。捕らえた者を強制的に動かし、操る事が出来るものなのだろう。


 結論だけいえば、あの鎖は間違いなく存在する。しかも一つの『オブジェクト』に二つの能力が宿っている。つまり『デュアルスキル』なのだ。


 つまり、あの少女は間違いなく自分の意思で踊っていない。


 囚われ、操られているのだ。


 それは良い。そういうことは最早確認でしかないと、心の中の自分が自分自身に言い寄る。

 結局は、どうしたいんだ? 助けたいのか、助けたくないのか?

 どうでも良いと再び斬り捨てるのか? それとも自分に考えを折り曲げて、彼女を救うのか?

 しかし、俺の心は、もうずいぶん前から決まっていたように、簡単に結論する。


 助けよう、と。


 具体的な理由など無かった。別にヒーローになりたい訳でも無かった。

 ただ、自分の心の中から、ずっと奥にしまってきたものがあふれ出てきたような、そんな決意だった。

 もしかしたら、自分はどこかで本当に彼女に会ったのかもしれない。

 だから、こんなに決意が早くなったのだろうか。

 でも、最早そんな事はどうでも良かった。

 心が決まったのなら、行動する方法もおのずと考えついてくる。


 時間は無い。


 思い、考え、駆け出した―――


 えーと、主人公の勘が冴え渡っておりますね?

 取り敢えず、次回へ続きますが……段々無茶苦茶になってきた?

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