標本室 ~記録~
掲載日:2026/09/23
薄暗い部屋の隅
古い記録が覗いている
名前も日付も剥がれ落ちて
誰かの人生だけが残っていた
ガラス越しに見える
小さな手 小さな傷
そっと奥にしまってある
これは誰の人生?
どこかで見たことがある
けれど思い出せない
触れれば壊れてしまうから
そのままにした
あの日の記憶を
名前のない標本にして
笑っている写真の奥
記録はされない
書き残された言葉が
声になって響く
どうして?
寂しかった……
静かに眺めている
これは誰の人生?
ここに置かれている
鍵のかかった記録
触れれば壊れてしまうから
そのままにした
もしもあれが私なら
どうしてここにいる
もしもあれが私なら
どうしてこんなに……
ガラスに映った顔が
私を見る
どちらが展示されているのか
わからなくなった
古い記録を閉じる
埃の上に指跡を残さず
静かに棚へ戻した
ここに置いていく
これは私だった
――そう記録して




