表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

モンキーバスケ

作者: かがみーん
掲載日:2026/01/13

岩手県の山奥、町の外れにある猿山小学校。

校庭の端っこにポツンと立つ古い体育館のバスケットゴールは、すでに錆と蜘蛛の巣が同居している。

五年生は全部で五人。

バスケ部も、その五人だけだった。


主人公の翔太しょうたはチームで一番背が低く、ドリブルはうまいけどシュートがとにかく入らない。

他のメンバーは、巨漢の大地、眼鏡の悠斗、優しい怜、長い手足が自慢の颯太。


ある日の地区大会、一回戦の相手は隣町の強豪・緑ヶ丘小学校。結果は86対8。見るも無残なものである。

帰りのバスの中、誰も一言も喋らなかった。

ただ、相手チームの誰かが最後に吐き捨てた一言だけが、頭の中で何度もリピートされていた。

「猿はさっさと猿山に帰れよ」


家に着くなり、五人は揃って翔太の家に押し掛けた。

そして居間で、泣きついた。

「姉ちゃん!…悔しい!」

翔太の姉・彩花あやかは二十歳。

岩手大学で霊長類行動学を専攻する大学生だ。

普段はサル動画を深夜まで見てニヤニヤしている、ちょっと変わった姉だった。

「……で?あんたたち、猿は猿山に帰れ、って言われて泣いてるわけ?」

五人がコクコクと頷く。

彩花は呆れたようにため息をついた。

「はぁ…。全く、猿の何が悪いというんだい」

「……え?」

「お前らに猿の何がわかるんじゃ!猿の凄さを知らんのに落ち込んでんじゃないわい!」

五人は顔を見合わせポカンとした。


翌日から、1ヶ月に及ぶ奇妙な特訓が始まった。

五人それぞれには猿があてがわれ、ビデオと資料を駆使し、生態が頭に叩き込まれた。

巨漢の大地にはゴリラを。

眼鏡の悠斗にはメガネザルを

優しい怜にはオランウータンを。

楓太にはテナガザルを。

そして翔太にはニホンザル(ボスザル)を。

彩花にとっては冗談半分だったが、弟たちは知る由もなかった。


そして一年が過ぎた。

研究に忙しい彩花はそんなことはすっかり忘れていた。

弟たちがバスケを続けていることすら、最近は話題にも上らなくなっていた。

ある土曜の昼下がり。

テレビのチャンネルを適当に変えていたら、突然映ったのは全国ミニバスケットボール大会の決勝。

画面右下にスコア。

猿山小学校 66

王者・帝京南ミニバス 67

試合時間残り30秒。

カメラがアップになった瞬間、彩花は思わず缶コーヒーを吹き出した。

そこには、ゴーグルをした悠斗がメガネザルのように素早く切り込み、相手ポイントガードをアンクルブレイクさせる姿、

大地が胸をドン!ドン!と叩きながらドラミングで空間を支配する姿、

颯太がテナガザルの如く手を伸ばし相手のシュートを防ぐ姿が。

怜がオランウータンのように状況を読んでスクリーンをセット、

そして翔太が——

ボスザルのごとく、仲間たちの信頼を一身に受け、

ブザービーターのジャンプシュートを放つ瞬間だった。

ボールが弧を描き、リングに吸い込まれる。

『ビビー!!』

69-67。

全国制覇。

実況が叫ぶ。

「猿山小学校!奇跡の逆転優勝です!!」

「まるで猿を彷彿とさせるプレーの数々でしたね」

テレビの向こうで、五人の選手が抱き合って跳ねている。

「彩花姉ちゃん!やったよ!!」


彩花は呆然と画面を見つめたあと、残ったコーヒーをクイッと飲んだ。

「……あいつら、私の名前出しやがったな」

そして呟くように、優しく言った。

「…まぁ、いいか。おめでとう、みんな」

窓の外では、雪化粧の岩手山が雄々しく輝いていた。

どこかで、きっと本物の猿たちが、カカカッ、と小さく笑っているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ