目覚めを待つ手 ―三晩を越えて―
※王妃視点。
王子は私の腕の中で眠っている。
小さな吐息が、規則正しく胸に触れる。
その温もりが指先を掠めるたびに。
どうしても――あの三日間を思い出してしまう。
夜が、三つあった。
一つ目の夜。
陛下は高熱に浮かされ、意識を失っていた。
私はただ、その手を握っていた。
離せば、何かが終わってしまう気がして。
二つ目の夜。
王子を胸に抱きながら、祈った。
声にはしなかった。
言葉にすれば、壊れてしまいそうだったから。
三つ目の夜。
眠り続ける陛下の胸に、ようやく穏やかな呼吸を感じて。
私は――泣いてしまった。
けれど、誰にも見せなかった。
王妃である前に、ただの妻でいたかったから。
*
王子がむにゃむにゃと口を動かす。
それだけで、胸が満ちる。
生きている。この小さな命も。
そして――何よりも愛しい人も。
「とてもお強いですね……あなたのお父さまは」
そう呟いたときだった。
背後に、気配する。
振り返るより先に大きな手が、そっと私の肩に触れた。
「無理をするな」
低く、いつもの声。
私は息を呑んで、ゆっくりと振り返った。
そこにいたのは――もう熱に侵されていない陛下だった。
「……陛下」
そう呼んだだけで、喉が詰まる。
陛下は何も言わず――王子ごと、私を抱き寄せた。
「三晩だ」
耳元で、静かに。
「余は……お前を、三晩も独りにした」
違います――と言おうとして、言葉は出なかった。
代わりに、額をその胸に押し当てる。
「……戻ってきてくださって、ありがとうございます」
それだけで、十分だった。
陛下の腕が、少し強くなる。
「二度と、越えさせぬ」
短く、断言する声。
私は目を閉じた。
三晩は、確かに長かった。
けれど――
今、この腕の中にいる限り。
あれはもう、越えた夜だ。




