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目覚めを待つ手 ―扉の前で―

魔王が王城へ運び込まれた夜。


王妃は抱いていた王子を女官に預け、駆けるようにして魔王の寝室へ向かった。


その前で――近衛隊は待っていた。


誰一人として、声を発しない。

血のついた鎧だけが、沈黙の重さを告げていた。


王妃が歩み寄ったとき。

彼らは一斉に、膝をついた。


音はなかった。


重い鎧が石の床に触れたはずなのに、何も響かないほどに静かだった。


王妃は驚いて足を止める。


「……お顔を上げてください」


誰も動かない。


長い沈黙の後――近衛隊長が口を開き、低く言った。


「陛下を……お護りできず……毒を受けさせました」


震えた声だった。

戦場では吠える獣のような男が、今は罪人のように俯いている。


「我らが……至らぬゆえに……なんと、お詫びを……」


王妃は首を横に振る。


「違います」


静かで、しかし揺るぎない声だった。


「陛下は生きて戻られました。あなた方が……守ってくださったから」


その瞬間だった。

騎士たちが誰も顔を上げないまま、胸に手を当てた。


王妃はその気迫に息を呑んだ。

だがすぐに、そっと微笑む。


「……ですからどうか、お顔を上げて。陛下は、あなた方を信じています。私も……同じです」


ようやく、近衛隊の肩から一つ息が落ちた。


そのとき王妃は悟った。

この者たちもまた、愛してくれているのだ――と。


魔王という、ただ一人の主を。

命を賭してでも、守りたいと思えるほどに。


そして王妃はそっと告げた。


「どうかこれからも……陛下を、お守りください」


深い礼を返した近衛たちの瞳には。

――涙よりも強い光が、宿っていた。

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