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面影が重なる日

王子が生まれて、初めて迎える夏だった。


小さな体は、ようやく首がすわったばかり。


王妃はいつものように揺りかごの傍に腰を下ろし。

寝息を立てる我が子を、何度も確かめるように見つめていた。


その日、王城に賑やかな声が響いた。


「いやーーーもう!」


軽やかな足取りで現れたのは、魔王の姉だった。


抱えきれないほどの包みを従者に持たせ、王子の顔を見るなり満面の笑みを浮かべる。


「面白いくらいに、あいつの赤ん坊の頃にそっくりよ、この子!」


そう言って、ためらいもなく王子を抱き上げる。


慣れた手付きで背を支え、くすぐるように声をかけると王子は小さく喉を鳴らした。


「ほらほら、ちゃんと見ると眉の形まで同じ。あの面がこのサイズで再現されてるの、最高じゃない?」


王妃は思わずくすりと笑いながらも、どこか気恥ずかしそうに視線を逸らした。


魔王の姉は王妃をちらりと見て、意味ありげに続ける。


「王妃ちゃんさ。妊娠中……だけじゃないとは思うけど」


王妃の肩がぴくりと揺れた。


「ずーっとあいつの顔、思い浮かべてたでしょ」


王妃は少しの沈黙の後、観念したように小さく頷く。


「……はい。男の子であれば、陛下に似てほしいと……」


声がほんのりと上ずる。

頬に熱が集まるのを、どうにも隠せなかった。


その様子を見ていた魔王の姉はふっと笑みを消し、抱いていた王子をあやす手を止めた。


そして静かに――真剣な声音で言った。


「王妃ちゃん」


王妃が顔を上げる。


「……あいつに、家族を作ってくれて、ありがとね」

「……え?」

「遠い国から一人でやってきて。不安だったでしょうに」


王妃の胸が、きゅっと締めつけられる。


「それでもあいつを――ちゃんと、愛してくれて」


王妃の目が、みるみる潤んだ。


「とんでもありません、お義姉さま……」


震えを抑えながら、王妃は微笑む。


「私の方こそ――陛下より、これ以上ないくらいのお気持ちを……いただいております」


そのときだった。

扉が、静かに開く。


「……姉上」


低く、少しだけ鋭い声。


「泣かせたのか?」


魔王が立っていた。

王妃ははっとして、すぐに首を横に振る。


「違います、お義姉さまは……」


だが、その言葉は途中で止まった。


魔王の姉の腕の中で、王子がもぞりと動いたのだ。

小さな手が父の姿を認めたかのように、空を掻く。


魔王の姉が、くすりと笑う。


「ほーら王子!――父上のところに、行きなさい」


そう言って、王子を差し出した。


魔王は一瞬だけ目を細め、それから――

迷いのない手付きで、王子を受け取る。


その腕は、驚くほど安定していた。


温もりを確かめるように。

そこに在る命を、抱きしめるように。


その光景を見つめながら。

魔王の姉は深く息を吐き、静かに微笑んだ。


(……ああ)

(こいつにもちゃんと――帰る場所が、できたのね)


弟が手にした、守るべき日常。


その始まりを見届けられたことを、彼女は心から嬉しく思っていた。

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