表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/61

刃から得る友人

午後の王城。


今日は婚儀を上げてから、初めて王妃が主催する茶会。


白い陶器。淡い花。

慎ましいが、丁寧に整えられた茶会の席。


王妃は、その中央に立っていた。


招いたのは王都の有力貴族の夫人、令嬢たち。

誰もがやわらかな笑みを浮かべている。


――表面上は。



招待者たちに、最初の一口が運ばれた後。


「まあ……随分と素朴なお茶葉ですこと」

「長閑な中立国では、こうしたものが上等なのでしょうね」


微笑みのまま、刃を滑らせる。


「“王女殿下”、王城でのお暮らしには慣れましたか?」


空気が、静かに張り詰めた。


だが王妃は、一切表情を崩さなかった。


「はい。お気遣い感謝いたします」


そしてカップを置き、穏やかに口を開いた。


「――この茶葉は、私の母が“大切な客人のときだけ”に用意していたものです」


王妃は目線を上げて、続けた。


「素朴、という表現を褒め言葉として使う文化もございます」


数名が、わずかに言葉に詰まる。


「長閑な地で育ったからこそ、言葉の温度には敏感なもので…」


笑みはやわらかいまま。だが、芯は折れない。


そのとき。

扉が、音もなく開いた。


――気配が変わる。


魔王だった。


ここには本来、いない存在。

張り詰めた空気が、一気で凍るようだった。


王妃は、驚きながらも立ち上がる。


「……陛下?」


魔王は何も答えず王妃の隣に立ち、その頬に触れた。

そして、信じられないほどやわらかな声で。


「楽しんでいるか」

「……はい」


王妃の表情を確認してから、魔王の視線が客席へ移る。


――冷たい。

――鋭い。

――殺されかねない。


夫人と令嬢たちは、一斉に息を詰めた。


「…この茶葉は、我が王妃が選んだ。気に入らぬ者は――飲まなくていい」


静かだが、逃げ場はない。


そして、王妃の肩にそっと手を置く。


「……よくやっている」


その瞬間。

王妃の胸の奥で、何かがふっと緩んだ。



その夜。

王妃は寝室で、静かに頭を下げた。


「……昼間は、ありがとうございました」


魔王は、すぐに否定した。


「不要だ。余が、したかっただけだ」


王妃は少し迷ってから、一歩、近づいた。


「でも……」


魔王の目が、揺れた。

王妃はそっと、額を魔王の胸に預ける。


「……心強かったです」


魔王は、何も言えず。

ただ――強く抱きしめた。



茶会から数日後。

一人の伯爵令嬢が、王妃を訪ねてきた。


深く、深く、頭を下げる。


「……あの日、何も言えず――申し訳ありませんでした」


伯爵令嬢は続けて。


「怖かったのは、魔王陛下ではなく……自分の臆病さです」


王妃は驚き、そして微笑んだ。


「来てくださって、ありがとうございます」


そして勇気を出して、声をかけた。


「……お茶、ご一緒していただいてもよろしいですか?」


伯爵令嬢は顔を上げ、涙ぐみながら頷いた。


その日、王妃は――この国で初めて、友を得た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ