刃から得る友人
午後の王城。
今日は婚儀を上げてから、初めて王妃が主催する茶会。
白い陶器。淡い花。
慎ましいが、丁寧に整えられた茶会の席。
王妃は、その中央に立っていた。
招いたのは王都の有力貴族の夫人、令嬢たち。
誰もがやわらかな笑みを浮かべている。
――表面上は。
*
招待者たちに、最初の一口が運ばれた後。
「まあ……随分と素朴なお茶葉ですこと」
「長閑な中立国では、こうしたものが上等なのでしょうね」
微笑みのまま、刃を滑らせる。
「“王女殿下”、王城でのお暮らしには慣れましたか?」
空気が、静かに張り詰めた。
だが王妃は、一切表情を崩さなかった。
「はい。お気遣い感謝いたします」
そしてカップを置き、穏やかに口を開いた。
「――この茶葉は、私の母が“大切な客人のときだけ”に用意していたものです」
王妃は目線を上げて、続けた。
「素朴、という表現を褒め言葉として使う文化もございます」
数名が、わずかに言葉に詰まる。
「長閑な地で育ったからこそ、言葉の温度には敏感なもので…」
笑みはやわらかいまま。だが、芯は折れない。
そのとき。
扉が、音もなく開いた。
――気配が変わる。
魔王だった。
ここには本来、いない存在。
張り詰めた空気が、一気で凍るようだった。
王妃は、驚きながらも立ち上がる。
「……陛下?」
魔王は何も答えず王妃の隣に立ち、その頬に触れた。
そして、信じられないほどやわらかな声で。
「楽しんでいるか」
「……はい」
王妃の表情を確認してから、魔王の視線が客席へ移る。
――冷たい。
――鋭い。
――殺されかねない。
夫人と令嬢たちは、一斉に息を詰めた。
「…この茶葉は、我が王妃が選んだ。気に入らぬ者は――飲まなくていい」
静かだが、逃げ場はない。
そして、王妃の肩にそっと手を置く。
「……よくやっている」
その瞬間。
王妃の胸の奥で、何かがふっと緩んだ。
*
その夜。
王妃は寝室で、静かに頭を下げた。
「……昼間は、ありがとうございました」
魔王は、すぐに否定した。
「不要だ。余が、したかっただけだ」
王妃は少し迷ってから、一歩、近づいた。
「でも……」
魔王の目が、揺れた。
王妃はそっと、額を魔王の胸に預ける。
「……心強かったです」
魔王は、何も言えず。
ただ――強く抱きしめた。
*
茶会から数日後。
一人の伯爵令嬢が、王妃を訪ねてきた。
深く、深く、頭を下げる。
「……あの日、何も言えず――申し訳ありませんでした」
伯爵令嬢は続けて。
「怖かったのは、魔王陛下ではなく……自分の臆病さです」
王妃は驚き、そして微笑んだ。
「来てくださって、ありがとうございます」
そして勇気を出して、声をかけた。
「……お茶、ご一緒していただいてもよろしいですか?」
伯爵令嬢は顔を上げ、涙ぐみながら頷いた。
その日、王妃は――この国で初めて、友を得た。




