与えたいもの ―夜―
※ご注意回です(ちょっとだけ)
数日前の誕生日。
庭園の奥にあるガゼボは、王妃のものになった。
昼の光も美しかったが――
その価値を、別の角度から示したのは庭師だった。
「夜は、星もよくご覧になれましょう」
その一言を、王妃は忘れなかった。
*
とある夕刻。王妃は魔王に告げる。
「陛下……今夜、あのガゼボで過ごしてみたいのです」
穏やかな声音。
ただそれだけで魔王の内に、密かな“欲”が芽生えた。
魔王はそれを表に出すことなく、静かに告げる。
「……分かった」
そしてその夜。
携灯を手にした魔王は、王妃の指を取る。
言葉はない。
だが指先に伝わる熱が、すべてを語っていた。
新緑の匂いを含んだ夜風。
ガゼボに辿り着いた瞬間、王妃は息を呑んだ。
「……まあ」
天を仰ぐ瞳が、星を映して輝く。
「こんなにも……近くに」
魔王はその横顔を見下ろし――静かに、王妃を抱き寄せた。
敷布の上。
逃がす気は、最初からない。
王妃の背が、優しく押し倒される。
「こうすれば……もっと星がよく見える」
低く、囁く。
王妃は困ったように笑った。
「陛下のお顔しか……見えません」
「……」
「でも」
魔王の視線が、王妃に戻る。
「陛下こそが……私の、輝ける星です」
その瞬間。
魔王は、何も返さなかった。ただ――
言葉の代わりに、噛みつくような口づけを落とす。
深く、逃げ場を与えず。
星はもう見えない。
ガゼボには新緑の夜風が吹き込み。
それに紛れて、重なる二人の吐息だけが残った。
――後日。
庭師には、特別な報奨が与えられたという。
理由は誰も知らない。
ただ、魔王の機嫌が良かった――
それだけが、王城に残る噂だった。




