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与えたいもの

王城に、新緑の季節かやってきた。


庭園は生き生きとした緑に満ちていた。

王妃が魔王国に来て、二度目の誕生日である。


去年贈ったものは――

衣装は数え切れず、宝石は保管庫を増設するほど。


しかし数日前。王妃は穏やかに笑って言った。


「ドレスも宝石も嬉しいですが……もう、一生分いただきました」


その言葉が、魔王の中で消えずにいた。

何より――あんな事件があった後だ。


それゆえに魔王は一人。

執務室で腕を組み、珍しく悩んでいた。


――与えたい。だが、何を。


控えていた女官長が、静かに口を開いた。


「王妃陛下は――物欲の少ない方でいらっしゃいます」

「分かっている」


即答だった。

女官長は、少しだけ微笑む。


「陛下と過ごされる穏やかな時間が、一番よろしいかと」


魔王は静かに目を伏せた。

そして、決断は早かった。



誕生日当日。


王妃は魔王に手を引かれ、庭園の奥へと案内されていた。


「陛下……こちらは?」


人目の少ない、静かな一角。

木々に囲まれた、小さなガゼボ。


以前から王妃が好んで足を止めていた場所だった。

魔王は、王妃の前に立つ。


「ここを、お前に贈る」


王妃の目を瞬く。


「……私に?」

「王妃専用だ」


ガゼボの中には、落ち着いた調度品。派手さはなく、やわらかな色合い。

王妃の好みそのものだった。


「何も置かぬ。誰も呼ばぬ。ただ――お前が休むための場所だ」


王妃は言葉を失ったまま、周囲を見回す。

やがて胸に手を当て、深く息を吸った。


「……陛下」


声が、少し震える。


「こんなにも……私のことを……」


魔王は答えない。

代わりに王妃の頬に手を伸ばし、静かに口づけた。


短く、やさしく。


「誕生日だ」


低い声。


「余が与えたいのは――お前が安らぐ場所と、時間だ」


王妃は、魔王の胸に額を預けた。


「……一生、大切にいたします」


新緑の風が、ガゼボを吹き抜ける。


やわらかく。

あたたかく。


その日、魔王が与えたのは――

形のない、けれど何より重い贈り物だった。


そして王妃は知る。

これ以上、欲しいものなどないのだと。

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