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前日譚 ―婚儀の夜に―

その婚儀は本来、半年後に行われるはずだった。


しかし魔王が手に手を尽くし。


出会ったその日から“王妃”と呼ばれるようになった王女が到着した、わずか三週間後に行われた。


そのため国内の諸侯しか出席が間に合わず、魔王の親族は実姉とその家族のみが参列した。


王妃の両親――中立国の国王夫妻も当然、駆け付けられず。


慌ただしく準備がされ、あっという間にその日を迎えた。


王妃はこの性急さに戸惑った。


しかしこの世に類を見ないほど美しく飾られ、魔王はその姿に密かに目を細めていた。


――ただ女官長を始めとする王城の裏方は、疲弊を極めに極めていた。


そしてこれを機に、多くの臣下が胃薬を常用するようになる。



そして、それを終えた夜。


灯りは落とされたが、婚儀の騒がしさがにわかに残っていた。


王妃は薄い夜着を纏い、寝台の縁に座っている。


交わした揃いの、金色の指環の光る先が――

わずかに、震えていた。


魔王はそれを見て、距離を取った。


「……王妃」


低い声。


王妃は顔を上げる。


「余は」


一瞬、言葉が止まる。


(臆したか)


自分に苛立ちながら。それでも、続けた。


「今夜、お前に手は出さぬ」


王妃の目が、見開かれる。


「陛下……?」


魔王は、視線を逸らさず言った。


「――体ではない」


一歩、近づく。

けれど決して、触れない距離。


「お前の、心が欲しい」


王妃の呼吸がゆっくりになる。


「……拒まれて、いるのでは……」


「違う」


即答だった。


「余が、耐えているだけだ」


王妃は小さく息を呑んだ。

そして、そっと言う。


「……光栄、です」


魔王は、初めて目を伏せた。


(持たない)


その夜、魔王は王妃の横で。一睡もできなかった。


――心を奪う覚悟は。


欲情より、遥かに重かった。

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