花かごは想いの丈を表す
春を迎えた王城。
長い冬を越えた城の庭園に、ようやく色が戻ってきた。
まだ冷たさを残す土の上、淡い花々が顔を出している。
王妃は屈み、慎重に指先で花を摘んだ。
「こちらも、咲いていますね」
女官長が応じ、女官たちと女騎士が周囲に散る。
庭師もまた、少し離れたところでかごを抱え。
王妃を静かに見守っていた。
花かごは、既に半分ほど埋まっている。
王妃は楽しげだった。
その表情は冬の間に溜め込んだ光を、少しずつ外へこぼしているようだった。
――そこへ。
「――賑やかだな」
低く、よく知った声。
王妃が顔を上げるより早く、空気が変わった。
臣下たちが、一斉に気配を正す。
魔王だった。
庭師は即座に一歩下がり花かごを差し出す。
魔王はそれを受け取ると、王妃の傍へと歩み寄った。
「寒くはないか」
「はい。今日はとても、穏やかです」
王妃は微笑み、また花に手を伸ばす。
魔王は何も言わず、その隣に屈んだ。
大きな手が、同じ花を探す。
「……こちらはどうだ」
「綺麗です」
王妃が目を細める。
魔王はそのまま花を摘み、かごに入れた。
距離が近い。言葉は少ない。
けれど、甘い。
周囲は、そっと視線を逸らした。
しばらくして、王妃がぽつりと言う。
「もうすぐ……極東の神国ですね」
魔王は頷いた。
「ああ」
「日出る春の国と聞いております。きっと、花も……」
言葉は途中でやわらかくほどけた。
魔王は、その横顔を見つめている。
期待と、少しの緊張と。それでも隠しきれない喜び。
「楽しみか」
そう告げた声は低く、優しかった。
王妃は頷き、また花を摘む。魔王も続く。
気づけば――かごから花が溢れていた。
庭師は密やかに目を丸くする。
女官長は、静かに溜め息をついた。
溢れたのは、花だけではない。
春の庭園に、確かに――幸せが、満ちていた。




